第819話 「幕間 2年生委員長会①」
8月10日午後、2年A組教室……
2日後に迫ったヴァレンタイン魔法女子学園オープンキャンパスでは在校生も新入学生獲得に一役買う。
毎年2年生の各クラス委員長が担任教師と共に入学希望者の面談を受けるのである。
入学希望者の面談対策で前打ち合せに集まった3人の生徒。
マノン、ステファニー、エステルであった。
進行役は2年A組学級委員長のマノンである。
「ではこれから2年生臨時委員長会を始めたいと思いますが……宜しいでしょうか?」
マノンの呼びかけに対して、ステファニーとエステルが返事をする。
「準備万端ですわ」
「私も大丈夫です」
打ち合せ開始OKと聞いて微笑んだマノンは早速、話し始めた。
「本日は忙しい中、参集して頂き感謝します。議題はいくつかありますが、明後日のオープンキャンパス開催の際に先生方のお手伝いをする栄誉を私達が頂きましたので、その打ち合せが中心になります」
マノンの言葉は気合に満ちていた。
個人面談の際にルウとは同席は出来ないが、ここで良い所を見せたいという乙女心である。
「明日も去年同様に凄い人数が来ると聞いていますが」
「確かに!」
エステルがマノンへ問うと、ステファニーも追随して頷く。
魔法の才能があれば、身分に関係なく成り上がれる。
誰もがそのチャンスを掴みたいし、親も子供を幸せにしたいと懸命なのだ。
マノンはエステルとステファニーを見て、逆に問う。
「はい、お2人とも魔法女子学園の募集要項はご存知ですよね」
「当然ですわ!」
ステファニーが常識だというように大きな声で返事をし、エステルは補足説明をする。
「1クラス約30人を3クラス、都合90人を募集するのは変わりませんよね」
学年3クラスで約90人前後を毎年募集するのだ。
この王都で魔法使いになりたいという人数を考えたら、決して多くは無い。
「はい! フランシスカ先生とケルトゥリ先生からはそのようにお聞きしています。最終的には応募者の状況を見て、理事長が決定するようですが」
「どれくらいの倍率になるのでしょうか?」
「ええっと……現在は90人の募集に対して10倍以上……約1,000人を超える入学希望者がいらっしゃるそうです。……去年の記録をまた更新です」
何と!
1,000人を超える希望者……
去年よりまた更に増えたようだ。
オープンキャンパスは通常生徒を出来るだけ確保する為のイベントなのが趣旨である。
しかし、魔法女子学園のオープンキャンパスには他の意図もあるようだ。
マノンがそのひとつを明らかにする。
「明日のオープンキャンパスは魔法のレベルを明らかにして応募者を絞る意図もあると先生方からは聞いています」
「確かに! 単に将来が安定するからとか、結婚の際に箔が付くとか等の理由も多いと聞きますわ」
「単にお嫁に行きたくないから暫く遊びたいという子も居るみたいです」
ステファニーとエステルが顔を見合わせて苦笑した。
魔法使いという肩書きは誰でも自称する事は出来る。
しかしヴァレンタイン魔法女子学園は王立だ。
王家が認めた魔法使いは誰もが認める尊称なのである。
それ故、碌に魔法が行使出来なくても魔法使いという名前だけ欲しがる人間も多いのだ。
マノンが少し不快感を顔に出す。
「そういう方々と、優れた才能があって魔法を真剣に学びたいという方々を振り分けるというのは大事な事です」
「後は……自分こそ魔法の天才というお子ちゃまの鼻っ柱をぽきんと折る必要もあります」
エステルが言うと何故かステファニーが大きな溜息を吐く。
「はあ……」
「どうしたのです? ステファニーさん」
マノンが思わず聞くと、ステファニーは思い切り顔をしかめている。
「……自分こそ魔法の天才って聞いて、つい身内の顔が思い浮かんだのです」
「もしかして、天才ってあの子の事ですか」
マノンは名前だけは知っている。
ステファニーの妹とは、ステファニーと並んで枢機卿が可愛がる魔法の才能に長けた少女だと。
「はい……そうです」
マノン同様、エステルも名前だけは聞いた事がある。
ブレヴァル家の姉妹はヴァレンタイン王国の中では結構知られた存在なのだ。
「そう、私と並んでブレヴァル家の天才魔法使いと言われている妹ですわ」
「ブレヴァル家の天才……魔法使い?」
天才?
天才は言い過ぎであろう。
そもそも天才といえばエステルの中ではただひとりだけである。
さすがにステファニーもそこの部分は自覚しているらしい。
「はい! 天才と言ってもあくまでも家庭内での話です」
「なんだ……家の中だけですか」
エステルは苦笑した。
しかし、いくら身内贔屓と言っても天才と呼ぶのは凄い。
「はい……でも私以上にお祖父様に懐いていまして、お祖父様も必要以上に褒めています。それに今、丁度反抗期ですからとんでもないのです……増長しちゃって」
「わぁ、大変そう……」
エステルの脳裏には偉そうにふんぞり返った、ステファニー似の生意気そうな少女の姿が浮んで来た。
ステファニーは大袈裟に肩を竦める。
「大変ですよ! 私にもあからさまに反抗します。お姉様は汚らわしい愚物ですって言いますから」
「えええっ!? 汚らわしい愚物!?」
エステルは吃驚した。
いくら身内の妹とはいえ酷い言い様である。
ブレヴァル家の伝統である防御魔法オンリーの考えを見詰め直し、他の魔法にも目を向けた姉が信じられないのであろう。
「防御以外の魔法を学び始めた私を罵倒します、毎日激しく」
罵倒と聞いたマノンが呆れたように問う。
「良く喧嘩になりませんね」
「なりますよ。凄い口喧嘩になって数日は口をききません」
姉妹喧嘩で数日口をきかない。
傍から見れば微笑ましいというレベルなのだろうが、ステファニーは苦痛なようだ。
エステルはひとりっ子である。
姉も妹も居ないので姉妹喧嘩がどのようなものかは分からない。
確かにそのような妹ならステファニーの悩みは切実だろう。
だが最後は子供な妹に対して、大人な姉が折れるのが常ではないか。
エステルはそう考えた。
「でも最終的には譲るのでしょう?」
「まあ……お祖父様も執り成してくれますし、年長者としてっていうか……姉として相応しい対応をして、妹をなだめますね」
「我慢しているのですね」
マノンが同情のこもった目で見た。
ステファニーは仕方なくという感じで頷いた。
何か思惑があるようだ。
「仕方がないですわ。私には好きな人が居ます。だけどその人は絶対にお婿さんとしてブレヴァル家には入らない人なのです。だから妹には養子としてお婿さんを貰う形でブレヴァル家を継いで貰わないといけませんから」
「あ、ああ、成る程!」
エステルは納得した。
ステファニーが我慢しているのは誰か、意中の人が居るからなのだ。
「私は絶対にその人のお嫁さんになります。確かに以前マノンさんに指摘された通り、身分の差を軽く考えたり、状況を認識していませんでした。妹への懐柔工作は私が望む結婚への第一段階です。だから妹にはブレヴァル家を継ぐ名誉を与えると密かに話しています」
妹への懐柔工作?
さすがにそこまでするのは微妙である……
「それって……」
「ちょっとゲスいのでは?」
思わずマノンとエステルが責めた。
自分の幸せの為に妹を利用するとは……いかがなものなのかと。
「な、何を言うのですか!」
しかしステファニーはマノンとエステルに対して声を荒げると、猛然と反発したのであった。
読者の皆様にはいつもお世話になっております。
「魔法女子学園の助っ人教師」を始めとして、拙作の日頃のご愛読、誠にありがとうございます。
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基本的には毎日更新して来た「魔法女子学園の助っ人教師」を10月3日以降、諸般の事情により週2回~3回程度の不定期更新とさせて頂きます。
但し、作者の中ではストーリーの流れがある程度出来ていますので完結に向けて頑張りたいと思います。
誠に申し訳ありませんが、引き続きご愛顧下さい。
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