第808話 「オールドガールズイベント②」
ルウに高圧的な言葉を投げ掛けたフランソワーズ・グリモールは自らの講演が終わるとさっさと引き上げてしまった。
いつもとは全く違う、フランソワーズの不可解な行動を見たアデライド達は首を傾げていた。
魔法女子学園在籍時に接していたフランソワーズの優等生的な性格を考えたら信じられない事だからだ。
こうして、フランソワーズの担当したオールドガールズイベントのメイン講演は予定時間きっちりと10時45分に終了した。
この後は午前11時から講師役を務める4人のオールドガールズの職業別講演と質疑応答が行われる。
持ち時間は各自、フランソワーズの講演同様45分であるが、15分が職業の説明、残りの30分が質疑応答となっていた。
講師であるネリー・バルニエ、イザベル・ブーケ、シュザンヌ・オリオルもフランソワーズを見て吃驚している。
先輩である3人はフランソワーズと直接の接点は無かったが、非の打ち所がない優等生だという評判はいたる所で耳にしていたのだ。
それが講演を聴きにわざわざ足を運んだ聴講者に対して、碌に挨拶もしないで帰ってしまうとは……
ネリーは大袈裟に肩を竦める。
「どうしたのかしら?」
イザベルは眉間に皺を寄せて考え込む。
「絶対に何か理由がある筈よ」
「何かルウ先生とやりとりした後、急に帰ってしまったわね」
シュザンヌはルウが気になっていたので、フランソワーズが何か話しかけたのを目撃していた。
「こちらに来るのは、アドリーヌ?」
「あ、本当だわ」
「フランソワーズの件があったから、さすがに表情が硬いわね」
ネリー達が首を傾げている場に来たのがアドリーヌであった。
魔法女子学園卒業者、すなわちオールドガールズとして4人目の講師はアドリーヌなのである。
「さあ、私達の出番です。もう準備をしましょう」
アドリーヌは少し青ざめていたが、何事も無かったかのように振舞う。
ネリー達3人から発する注目の視線はアドリーヌへ注がれた。
今迄のアドリーヌであれば他人から注目されたりすれば緊張の余り、身体が強張ってしまうのが常であった。
言葉だって盛大に噛んでしまう筈なのだ。
しかし……
「時間も場所も予定通り、順番もネリー、イザベル、シュザンヌ、最後は私となっていますから」
淡々と指示をするアドリーヌを、3人は意外そうに見詰める。
「え、ええ……」
「分かったわ」
「準備をしておくわね」
ネリー達3人の返事を聞いたアドリーヌは精一杯微笑むと、踵を返して去って行った。
「やっぱりこの前に会った時に感じたのは錯覚ではなかったわ」
腕組みをしたシュザンヌが納得したように頷くと、イザベルも頷いた。
「そうね……今度はぜひ理由を聞きたいわ」
「アドリーヌが変わったのはやはりルウ先生が原因だと思う」
ネリーはアドリーヌをずっと目で追っていた。
そしてアドリーヌが嬉しそうにルウへ駆け寄るのを見て、確信していたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
午前11時、屋外闘技場……
場所を同じくして今度はネリーが壇上に立っていた。
最初の職業別講演と質疑応答が開始されるのだ。
フランソワの講演に押しかけた生徒達は殆ど残っている。
今や憧れの職業ナンバーワンともいえる魔法鑑定士の生の話が聞けるからだ。
「私はネリー・バルニエと申します。このヴァレンタイン魔法女子学園の卒業生で王国商業ギルド所属の魔法鑑定士を職業としております。本日は皆様に魔法鑑定士とはいかなる職業なのか簡単に説明して、質疑応答にも対応させて頂きます」
壇上のネリーは深く一礼した。
生徒達の目は先程とはまた違った意味で真剣だ。
安全、安定、高収入の三拍子揃った職業に皆、就きたいのである。
「魔法鑑定士については皆さんは充分、ご存知でしょうけど一応簡単に触れておきます。文字通り、正体不明の宝物や魔道具の真贋、年代、概要、価値、そして呪いの有無などを優れた鑑定魔法と豊富な知識で判定するのが魔法鑑定士です」
ネリーはそう言うと急に厳しい表情になった。
「しかし、魔法鑑定士は誰にでもなれるわけではありません。まず魔法鑑定士は国家免許制です。身分を偽って鑑定すると王国から厳しく処罰されます」
厳しく処罰!
生徒達は一斉にシーンとなる。
しかし厳しくなったネリーの顔はすぐ和らいでいた。
「魔法鑑定士とひと口に言ってもS級からC級までランクは様々です。就職に必要なのはB級以上の資格ですので皆さんは頑張ってB級以上の資格を取得して下さい。
ちなみにランクの違いは鑑定率の違いが基本となっています。大まかに説明しますとS級は99%以上の、すなわちほぼ100%の鑑定率と解呪魔法の完全行使が必須です。A級は85%以上の鑑定率と解呪魔法の行使、B級は75%以上の鑑定率、C級は50%以上の鑑定率となっています」
ここで生徒からざわめきが起こる。
ルウの持つS級という資格がいかに難関かを思い知ったからであった。
ぱんぱんぱん!
独特のリズムで手が打ち鳴らされる。
生徒の私語に対して注意を促したのは教頭のケルトゥリであった。
フランに比べてさすが元祖。
場内に良く響く年季の入った叩き方である。
「今の私語の原因は私にも分かりますそして全くの同感です。いかにS級の資格取得が困難でルウ先生が素晴らしいかと! ちなみにA級もアデライド理事長を始めとしてこの学園では限られた者にしか所持されていません。
私達は冒険者ギルド発祥の国、そして総本部がある国の国民です。毎日持ち込まれる宝物や魔道具は他国より遥かに膨大です。対して魔法鑑定士の数は絶対的に不足しています。
様々な所から引き合いが多く来ます、どこも好条件を提示してくれるでしょう。 ちなみに私はB級の資格保持者ですが他にもお誘いを頂きました。最終的に1番条件の良かった商業ギルドに決めました」
ネリーが就職の際の経験を話した瞬間であった。
おおおおおっ!!!
先程の数倍とも言えるどよめきが生徒達から湧き上がったのである。
手を叩きかけたケルトゥリも、これは無駄だと思ったのか途中で止めていた。
魔法女子学園の生徒達貴族の令嬢が圧倒的に多い。
若干、男尊女卑の傾向があるヴァレンタイン王国で貴族令嬢は親に決められた結婚をして人生のレールを敷かれてしまう場合が多いのだ。
国から認められ、人々の役に立つ職業に就く事は貴族令嬢達の夢であり、人生の自由を勝ち取る手段なのである。
ネリーの話を聞いた生徒達が燃えるような目で食い入るように話を聞くのは当然の事であったのだ。
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