第797話 「夏に学ぶ事④」
8月8日午後1時……
午前中に、魔法攻撃術B組、C組の夏期講習を行ったルウ。
午後最初の授業は魔道具研究B組である。
事前の連絡により、受講する生徒たちはキャンパス内噴水脇の芝生に集合させられていた。
この時間、午前中に魔法攻撃術の授業で使用した屋外闘技場は、他のクラスが授業を行う為に使用する事が出来ない。
ルウは魔法攻撃術の授業同様、呼吸法の意義を話したが、実践に関しては屋内の教室よりも屋外が適しているとの判断からこの場所を選んだのだ。
午前中に魔法攻撃術の授業を受けた者はやはりと、納得していたが、ルウの授業を初めて受ける者は皆、訝しい表情であった。
しかし改めてルウの話を聞いた上で、言われた通り実際に呼吸法を行ってみるとその著しい効果に全員が納得したのである。
基本を重視するルウの方針を認識した生徒達は、自らも呼吸法の大切さを身を持って知ったのだ。
呼吸法の訓練を終えた生徒達は、ルウに促されて間を置かず本校舎の教室に戻り、授業は再開される。
改めて挨拶が交わされた後のルウの発表は生徒達のモチベーションを高めるのには恰好の話題であった。
「先日の授業で俺は言った。講義で知識を蓄えながら、訓練を続けて当面の目標はC級魔法鑑定士の資格を取る事だとな」
ルウの言葉を聞いて、生徒達は頷いた。
この魔道具研究の講義を選択した大半の者の目標は魔法鑑定士試験に合格し、鑑定士の国家資格を取得する事である。
以前、アドリーヌの友人で魔法女子学園OGでもある商業ギルド職員ネリー・バレニエが強調していた通り、今や魔法鑑定士は様々な組織から引く手数多であり、就職に最も有利な職業と言えるのだ。
※第256話参照
「取得時期としては早ければ夏季休暇明けの9月、遅くても年内にはクラスの全員に取得して貰いたいと伝えた筈だ。そして来年の卒業までにはB級魔法鑑定士の資格を取得して欲しいとも、な」
教室が少しざわめき始めた。
ルウの告げる事が、段々と予想出来て来たからである。
「当面の目標は魔法鑑定士C級資格の取得だと話したが、試験に合格して早くも資格を取得した者が居る」
おおおおっ!
やはり!という感じで教室にどよめきが起こった。
ちなみに合格した当人達は平然とした表情をしている。
「先日の国家試験の発表が学園にも伝えられた。それも合格者は1人じゃない、このクラスから複数出たんだ」
このクラスから?
複数!?
そんなに!?
驚いた生徒達は、慌てて周囲を見渡した。
彼女達が該当者を見つける前にルウから該当者が告げられる。
「中でも抜きん出ているのは、B級に合格したマノン・カルリエだ」
おおおおっ!
魔法鑑定士B級!?
生徒達の驚きは尋常ではなかった。
まだ初心者レベルの生徒が居る中で、1人前の魔法鑑定士と認められるB級の鑑定士が誕生したのだから。
だが名指しされたマノンは、教室内の生徒に向かって軽く一礼しただけで、後は表情を変えずにルウを見詰めていた。
マノンの中で、またルウに対する畏敬の念が強くなったからである。
はっきり言ってマノンは魔法鑑定士のB級資格を取得する為に、今迄の人生で1番努力したのだ。
マノンが目指しているのは特に宝石や貴金属の鑑定が得意な魔法鑑定士である。
鑑定魔法の習得は勿論、知識と経験が必要と考えたマノンは父カルリエ伯爵に頼んで、カルリエ家秘蔵の宝石と貴金属を使って、来る日も来る日も訓練に明け暮れたのだ。
その上、休みの日に外出もせず、カルリエ家御用達の商人達を招き、商品の相場や取引方法までも学んだのである。
それでも試験には苦労した。
緊張は絶対にしないと思っていたが、やはり緊張した。
更に試験用に用意された商品は魔道具であり、宝石ではなかったのだ。
しかし、日々の反復練習の甲斐もあり、何とか鑑定をする事が出来て、見事にB級の資格を取得する事が出来たのである。
だが……
目の前で穏やかな表情で笑っているこの人は……何なんだろう?
C級の魔法鑑定士でない人間がいきなりS級の魔法鑑定士?
それも先日異界で打ち解けたオレリー達の話によるとルウは付呪魔法も使いこなすと言う。
ここで常人なら普通、めげてしまう。
しかしマノンは違う。
尊敬する気持ちから始まり、今や1日たりとも忘れずにはいられないほど愛するルウに対しての思いが闘志に変わって行くのである。
ルウに認められたい。
認められて堂々と胸を張ってルウの傍らに立ちたい。
マノンの強い思いが彼女のモチベーションを益々高めていたのである。
「マノン、良くやったな」
ルウから労いの言葉が掛けられる。
「ありがとうございます」
一旦は礼を言ったマノンではあったが、一瞬の間を置いてゆっくりと首を左右に振った。
「でもルウ先生。まだまだです、私」
ルウの穏やかな表情は変わらない。
マノンの気持ちを分かっていたようだ。
「そうだな……お前はまだまだ上を目指せる」
「はい! 頑張ります」
更なる高見を目指せというルウの言葉を聞いたマノン。
ルウへ真剣な眼差しを向けたマノンは決意を新たにしたのである。
B級に合格した マノンに続き、ルウの発表は続く。
「C級の合格者も3人出た、オレリー・ボウ、ジョゼフィーヌ・ギャロワ、そしてリーリャ・アレフィエフだ。お前達もおめでとう、今後とも精進しろよ」
ルウに名指しされたオレリー達3人は、起立して一礼する。
おおっ!
マノンの時ほどではないが、教室に歓声があがった。
オレリー達の、ルウを見る眼差しもマノン同様真剣だ。
しかし、オレリー達の中ではC級合格の歓びなど、もうどこかへ行ってしまっている。
次の段階……B級、いやマノンが目指すA級の資格取得に気持ちは向いているのだ。
オレリーは実感している。
先を越された事はとても悔しいが、憎悪はない。
そして、これが真の好敵手への感情なのだと。
鑑定士合格の発表が終わり、ルウの授業が再開された。
「ようし、今日は夏期講習だ。先程の呼吸法に続いて基礎を徹底的に反復する。但し科目ごとに実践する内容は全く変わる」
教室内はしんと静まり返っているが、モチベーションは否が応でも上がっている。
「次は集中力と想像力の鍛錬だ。自分達の私物を使って、品物の出自を探り、何かイメージを持つようにしてみるんだ」
「「「「「「「「「「はいっ」」」」」」」」」」
「よっし、それが終わったら鑑定魔法の発動訓練、行くからな」
「「「「「「「「「「はいっ」」」」」」」」」」
気合の入った生徒達の返事を聞いて、壇上のルウとアドリーヌは顔を見合わせてにっこりと笑ったのであった。
ここまでお読み頂きありがとうございます!




