第79話 「歓迎の挨拶」
アールヴの長の名称をソウェルに変更しております。
少しずつ修正しておりますのでご容赦ください。
魔法女子学園、入学式当日……
屋内闘技場に初々しい新入生達が整列している。
式は粛々として進み、在校生代表すなわち生徒会長であるジゼルの挨拶となった。
「では在校生代表から歓迎の言葉を―――3年A組ジゼル・カルパンティエ!」
ケルトゥリの声がかかるとジゼルは優雅に一礼して壇上に登り新入生の前に立った。
彼女は固唾を呑んで見守る新入生達に対して大輪の薔薇の様に、にっこりと微笑み掛ける。
「新1年生の皆さん、並びに保護者の皆様、このヴァレンタイン王立魔法女子学園へのご入学、誠におめでとうございます。 私は当学園生徒会長の3年A組のジゼル・カルパンティエと申します」
ジゼルは壇上から新入生達を見回した。
皆、さすがにじっと話を聞いている。
「この魔法女子学園を希望し、今日というこの日に皆さんをお迎えすることが出来て大変嬉しく思っております。ヴァレンタイン王立魔法女子学園は、魔法使いとしての育成は勿論ですが、社会に出た時に1人の大人の『淑女』としての振る舞いを学んでいく場ともなります」
『淑女』という言葉が出た瞬間、何人かの生徒が顔を顰めたのを見てジゼルは苦笑した。
「ただ皆さんそれぞれがこれから始まる学園での生活に将来への夢や希望を持つと同時に不安や悩みを抱いていることでしょう。歓迎の挨拶として皆さんに充実した学園生活を送る上での、先輩としてのアドバイスをお伝えします」
ジゼルは新入生の間でも有名だ。
そんな憧れの先輩からのアドバイスと聞いて、聞き逃さないぞとばかりにたくさんの生徒が身を乗り出した。
「まずは今迄の人生と同様に学園での人との出会いを大切にすることです。皆さんは、この学園という新たな環境で貴族、商家、平民など身分を問わずたくさんの出会いをします。学生同士は勿論、先生も含めてです。寄宿舎に入られる方は尚更幸運と言えましょう。そして出会った仲間達との触れ合いにより、しっかりとした絆を作れるよう頑張ってください」
ジゼルの言葉に納得して頷く者、不可解そうに首を傾げる者―――様々である。
「3年間皆さんは、学園で魔法や学問を習得しますが、一方で様々な学園独特の行事にも参加していただきます。これは魔法使いとして日々研鑽した成果を披露すると同時に仲間全員で盛り上げて行く大事な思い出となります。長い人生の中でこの学園での3年間はとても短いですが、ぜひ強い絆を作り上げてその大事な仲間達と協力し合って下さい」
長くなりましたがと、ひと言断った上でジゼルは挨拶を締めにかかった。
「私達在校生一同は、これから皆さんと出会う事を楽しみにしています。そしてここにいらっしゃる新入生の皆さん全員がこの学園での日々を有意義に過ごされることを偉大なる創世神にお祈りし、私の祝辞とさせて頂きます」
挨拶が終わり、新入生達から大きな拍手が起きる。
ジゼルはそれに応えるように、壇上に登った時と同様、優雅に一礼して降りたのである。
―――10分後
入学式は無事終わった。
ケルトゥリの終了の言葉により新入生達は各自が教室に移動を始める。
「ジゼル、お疲れだったな」
「えへ! 私やったよ!」
ルウが労わりの声を掛けるとジゼルが恥ずかしそうに照れた。
その様子をナディアが嬉しそうに見詰めている。
そこへフランがこれまた笑顔で現れる。
「お疲れ様! 3人とも後で校長室に来て下さいね」
フランはそう言い残すと瞬く間に去って行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
魔法女子学園校長室……
「皆さん、お疲れ様! おかげさまで入学式も無事終わったわ」
フランは相変わらずの笑顔でそう言うと、今度はジゼルに話し掛けた。
今迄のフランには見られない、明るい表情である。
「それでジゼル。お父上の方はどうなの?」
「はい! それが……あっさりとOKを貰いました」
彼女曰く、あっけなく了解が取れたと言う。
ジゼルがルウに告白をした日の翌日、彼女は早速自宅に赴き、父であるレオナール・カルパンティエ公爵と母レティシアと話をしたのである。
公爵であるレオナールは当初、貴族令嬢であるジゼルが平民と結婚する事に反対を表明した。
だがジゼルが一歩も引かないという意思表示をすると、渋々許してくれたのである。
ドゥメール邸で見せたジゼルの様子から、いろいろあったと思ったのに違いない。
それに比べて母レティシアは全く反対しなかった。
父との話の後、2人きりで話した所、女性を大事にしてくれる男性が1番だと文句なく賛成してくれたのである。
ヴァレンタイン王国に限らず、貴族の男性は女性を1人の人間としてより『家』の所有物として見る傾向が強かったからだ。
「私は次女で兄上が家を継ぐし、姉上は既に嫁いでいるからな。幸運だった!」
苦笑いするジゼルだったが、まだ万全というわけではないらしい。
「どうしたの?」
「まだ反対する人が居るの?」
心配するフランとナディアに対して「ふう」と大きな溜息を吐くジゼルである。
「兄のジェロームさ」
「兄上が? あの優しい方?」
ナディアの脳裏に友と共に数回会った事のある彼女に良く似た面影の逞しい青年が浮かぶ。
「彼だけがまだ結婚に反対なんだ。まあ姉上はともかく父上と母上の許しは得ているから問題は無いんだが、な」
「ジゼルはあのお兄様には特に可愛がって貰っているよね?」
ナディアの指摘に対してジゼルは残念そうな表情だ。
「そうなんだ! 出来れば兄上には私の結婚を祝福して欲しい! だけどいつか会わせろって……俺がお前に相応しい相手か試してやるって言うのさ」
「そりゃ難儀だね。だけどあまりルウ先生の力を世間に広めたくないもの。ねぇ、フラン姉」
ナディアがうんざりしたようにフランに同意を求めた。
「そうねぇ、ナディアの言う通りだわ……ジゼル、貴女には失礼だけど、彼のことだから世間に妹の相手はこんなに相応しいと認識させる為に派手に馬上槍試合なんか持ち掛けかねないからねぇ」
フランが嘆くのも無理はない。
ジゼルの兄ジェローム・カルパンティエは王家に仕える王都騎士隊の親衛隊騎士であり、レオナールの後継者として名を知られた猛者だったのである。
このような場合はフランが言う通り、騎士が決着をつけるやり方として冗談抜きで起こりかねないのだ。
「わ、私は別にそれでも構わないが……」
強者願望症? のジゼルが思わず本音を洩らすが、フランとナディアに詰め寄られてしまう。
「あのね……この国は建国の開祖英雄バートクリードが元々冒険者で勇者になった為か、『勇者』って響きに弱いのよ」
「そうそう! もしルウが目立ってその素質や能力から王家が目をつけて『勇者認定』なんてされたらどうなるんだい?」
2人にそう言われてからあっという表情のジゼル。
どうやら彼女も事の重大さに気づいたようだ。
「もし『勇者認定』されたら養子として王族に取り込まれ、私達から遠ざけられるかもよ」とフラン。
「遠くの国の姫様の婿として送られるなんて事になったら、その前にルウはこの国から出て行ってしまうと思うよ」とナディア。
「そ、それは……こ、困る!」
2人からきっぱりそう言われて、ジゼルはおろおろして地団太を踏んだのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
所変わり、ここはシンディの夫であるキャルヴィン・ライアン伯爵が隊長を務める王宮内王都騎士隊本部である。
キャルヴィンは憂鬱な面持ちで本部の一番奥にある各騎士隊を統括する将軍の執務室のドアをノックした。
「キャルヴィンです、只今参上しました」
「うむ、入るが良い」
中にはまた同じ様に憂鬱な面持ちで頭を抱えているレオナール・カルパンティエ公爵が居た。
「閣下、どうかされたのですか?」
「いや……私事だ。大した事ではない。それよりどうだ進捗は?」
訝しげに聞くキャルヴィンに手を横に振るレオナールである。
「はい、それが捗々しくありません。調査の為に騎士隊をある程度投入しましたが、手掛かりは殆どありません」
「う~む。しかし君の持って来た死体を見たが、こいつの群れがまた湧き出しでもしたらそれこそ『大破壊』の可能性がある。その理由が自然的であれ、何者かが起している人為的な物であれ……な」
レオナールとキャルヴィンが話しているのはかつてフランがロドニアとの国境で襲われた事件である。
その時に魔法を使う異形の怪物達の前に騎士5名が無残にも命を落としたのだ。
その時、公爵は1人の男の事を思い浮かべた。
いずれ愛娘の夫となるルウの事である。
ルウ・ブランデルか……
あれから少し調べたが孤児でアールヴの一族に育てられたとしか分からなかったな。
あの時のルウの穏やかな表情を見る限り邪気は感じられない。
異形の怪物の襲撃事件で彼が奴等を魔法であっと言う間に倒したと聞いたが、その後に娘の学園の先生になったと聞いても特に気にはしなかった。
それよりも報告を受けた時の印象で何よりも好ましく思ったのは窮地に陥ったフランシスカを助けて保護した上で、殉職した騎士達に礼を尽くしてくれた事だ。
その事があったから迷ったが、私も娘の結婚を許したのかもしれぬ。
そんなレオナールの思いはキャルヴィンの言葉で破られたのである。
「閣下、それで今後のやり方としては以前より話の出ている通りでよろしいでしょうか?」
「う、うむ。今後は冒険者に調査を委託する話だな、了解した」
レオナールは関係書類に判をつきながら、いずれルウとじっくり話してみようと心に決めたのであった。
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