第77話 「事後報告」
翌週明け月曜日……
午前7時45分魔法女子学園……
ルウはいつもの時間通りに出勤する。
当然フランが一緒であった。
「校長、おはようございます―――お早う、ルウ先生。この前はありがとう」
声を掛けて来たのは、以前ルウが魔法で体調不良を治療したサラ・セザールだ。
「あれから、身体の具合が凄く良いの。ホントに助かったわ。今度、御礼をするわね」
片目を瞑って去って行くサラ。
彼女の背中を追いながら、フランは「ほう」と溜息をついた。
「この前、ケアしてあげて貴方に感謝しているのね、彼女」
「ああ、血と魔力波の巡りが悪くなっていたからな。魔法使いとしては辛かっただろう」
もう!
ルウったら、誰にでも親切なんだから!
ウチの教師にも、生徒達にもね。
「まあ、仕方がないか!」
フランは口に出して言うと、何だかわけもなく可笑しくなって来る。
「あの人にも伝えておかないとうるさいわね」
フランは含み笑いをすると、ルウの手を引っ張り、校舎へ入って行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
魔法女子学園校長室……
例によって、リズミカルにドアがノックされる。
この独特のノックの仕方は―――ケルトゥリである。
「校長! ルウ先生に言われて伺いましたが」
ケルトゥリは一礼し、校長室へ入って来た。
「私に何か御用でしょうか?」
「ええ、大事な事をケリー、貴女に伝えなくてはと思ってね」
今、校長室にはルウとフランとケルトゥリの3人だけである。
先に砕けた言い方をされたので、今まで漂っていたぎこちない雰囲気が一気に緩んだ。
ケルトゥリも『狩場の森』で交わしたような親しげな言葉遣いに変わる。
「で、フラン、大事な事って何よ?」
「ルウとの事」
「ルウ?」
ケルトゥリは怪訝な顔をする。
「ええ、ルウと私……フランシスカ・ドゥメールは婚約したの」
婚約?
フランの言葉聞いたケルトゥリは、ハッと息を呑む。
そして、まじまじとフランを見つめた。
「それって!」
「ええ、昨日正式に決まったの。ちなみに、ナディア・シャルロワも私と一緒に婚約したわ」
「はぁ!? ナディアも?」
「あなた達は一体何を考えているの?」と言いたげなケルトゥリであったが、「ふう」と溜息をつく。
「仕方ないわね」
ぽつりと呟いたケルトゥリは、フランに手を差し出すと握手を求めた。
フランも手を伸ばし、ケルトゥリとがっちり握手する。
しかしケルトゥリはアールヴにしては意外な程、力が強い。
今も力を入れ過ぎているかと思うくらいで結構、手が痛いのだ。
「人間って……こんな時にはライバルに、こうやっておめでとう! って言うのよね?」
「ライバル?」
「ふふふ、何でもない。じゃあルウ、またね」
意味ありげな事を言いながら、ケルトゥリは素直にふたりを祝福したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
午前8時、魔法女子学園本校舎4階会議室……
「では職員会議を始めます」
ケルトゥリの声で、今朝の定例職員会議が始まった。
議題は、再来週月曜日に行なわれる入学式の件である。
(※西洋では秋の時期に行なわれるようですが架空の異世界という事でご容赦下さい)
「校長、お願い致します」
「分かりました、教頭」
ケルトゥリの告げた通り、ここからはフランが校長代理として説明を代わる。
以前とは違う、堂々とした物言いに、教師達は改めてフランに注目していた。
「まず……皆さんに配られた書類を見て下さい。当魔法女子学園入学式の式次第です」
ルウが紙に書かれた内容を見ると下記の通りであった。
新入生入場
式辞(理事長)及びヴァレンタイン王国国歌斉唱
新入生代表による宣誓(入学試験首席合格の生徒予定)
在校生代表から歓迎の言葉(生徒会長)
終了後、新入生は退場し教室へ移動。
「括弧内は担当者です。今、この場にはいらっしゃいませんが、式辞は理事長に依頼し、既に了解をいただいております」
ここでフランはコホンと咳払いをする。
「皆さんの役割分担ですが……1年生担任の方はお分かりですよね? 彼女達は新しい環境に不慣れです。管理はしっかりお願いしますよ」
新1年生の担任はA組がシンディ・ライアン、B組はオルスタンス・アシャール、そしてC組はサラ・セザールとなっていた。
「シンディ先生は、A組の首席合格者の生徒とは打合せされていますか?」
「はい、校長。既に新入生代表の挨拶を依頼し、了解は貰っています。本人はやる気満々です」
フランの問いかけに対し、シンディがすぐに答えを返す。
全く問題は無さそうだ。
満足そうに頷いたフランは、次にケルトゥリを見た。
「結構です。在校生代表から歓迎の言葉は、3年A組の生徒会長ジゼル・カルパンティエにお願いします。ですが、彼女の担任であるエイルトヴァーラ教頭は、入学式全体の司会進行を担当して頂きます」
フランはそう言うと、ルウを見て微笑む。
「ですから、ジゼルとの打合せは生徒会顧問のブランデル先生にお願いしたいと思います。宜しいですね?」
「了解した」
ルウの返事を聞いたフランはシンディの時同様、「お願いします」と念を押したのである。
ルウの返事と共に職員会議は、終了した。
事務作業等が山積しており、教師達はすぐ退出してしまう。
会議室に残っているのは……ルウとシンディのふたりだけである。
ルウはシンディに話があると引き止めていたのだ。
「ルウ君、私に話って?」
「お願いがあるんですよ、時間を貰えますか?」
「お願い? 一体、何かしら?」
訝し気に首を傾げるシンディへ、ルウはにっこり笑ったのである。
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