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第764話 「初心者向けの王都散策⑧」

「大きい店……だなぁ、パウラ」


「本当に……姉さん」


 ルウ達一行はサマン書店から移動し、商館街区のキングスレー商会王都支店へ来ていた。

 支店長のマルコ・フォンティへ事前連絡がしてあるので、本日のモーラル達がする買い物の準備は万端だ。


 しかし慣れないせいか、店内をきょろきょろ見ているウッラとパウラ。

 そこへ女性の商会社員が一行を誘う。


「さあ! お嬢様方、お買い物の準備が出来ましたので奥のVIPルームへお越し下さい」


 リーリャがルウも一緒にと、振り返るが彼は待合室の椅子に座ったままであった。


「ははっ、俺はここで待っているよ」


 ルウの言葉を聞いたリーリャはあからさまに不満そうな顔をする。

 先輩の妻達の話を聞いていたリーリャはルウが当然一緒だと思い込んでいたのだ。

 当然ながら、着替えを見せる事に関しても愛する夫であれば何の抵抗もない。


「ぶう~! 旦那様、私達と一緒に可愛い服を選んでくれないのですか? 残念です。ねぇラウラ姉?」


「あ、はい……旦那様に着替えを見られるのは凄く恥ずかしいですけど……居ないともっと寂しいです」


 ラウラも控えめながら、ルウが居て欲しいと意思表示する。

 しかしウッラが大きな声でルウの同行を拒否したのだ。


「駄目だ! 駄目だ! いくらルウとはいえ、私は思い人以外に肌はさらけだしたくない」


 頑なに首を振るウッラ。

 そこへ……


 ごっつん!


「あつつつつ……いった~い! あ~、モーラル!?」


 ウッラへ拳骨を食らわせたのはやはりモーラルであった。

 別に肌をさらす云々ではなく、ウッラがルウを無造作に呼び捨てにしたのが気に入らないのだ。


「ウッラ! いけません! よりによって旦那様を呼び捨てにするとは何事です!貴女はお世話になった人に対して尊敬の念と感謝の気持ちを感じないのですか? さあ何か反論はありますか?」


 いつもと凄い剣幕のモーラルにさすがのウッラもたじたじである。


「さあ、ウッラ! ちゃんと謝りなさい!」


「ぐ……ご、ごめんなさい……ルウ様」


 申し訳無さそうに謝罪するウッラに対して、ルウは穏やかな微笑を返す。


「ははっ、モーラルの言う通りさ。俺如きならまだ良いが、お前が社会で暮らして行くのなら周囲に対しての話し方には気をつけるんだ。さあ分かったら可愛くなって戻って来い」


「え、えええっ!?」


 ルウの言葉に舞い上がってしまったウッラ。

 自分が可愛い女などと今迄に一度も言われた事がないからだ。


「かかか、可愛くなって!? わわわ、私が可愛い?」


 確かめるように問うウッラへ、ルウは太鼓判を押す。


「ああ、革鎧を着てすっぴんのウッラも充分に可愛いが、化粧をして着飾ったら、街の男達が絶対に声を掛けて来る。凄く可愛くて目立つだろうから」


「街の男が声を!? 私が凄く可愛くて目立つ!? はうううううっ!」


 自分がナンパされる!?

 あらぬ妄想に身悶えたウッラはショックの余り、とうとう気を失ってしまった。


「あ、ああ! 大変! 姉さんが失神したぁ」


 慌てて抱き起こすパウラ。

 ルウはモーラルに助けてやるように命じたのである。


「ははは、モーラル。VIPルームまでおぶって行ってやれ」


「了解です! もう仕方がないな、よいっと」


 呆れたようにウッラを見ていたモーラルであったが、パウラからウッラを受取り、ひょいとおぶってしまう。

 パウラはそれを見て恐縮した。


「ああ、そんな! モーラルさん……私が姉を背負います!」


「いや、良いよ。友達だからな」


 何気ないモーラルのひと言。

 その意味を瞬時に理解したパウラは胸が一杯になる。


「と、友達! ……ありがとうございます! お世話を掛けます」


 15分後……


 キングスレー商会のVIPルームに入ったモーラル達はまずは採寸して貰う。

 担当は仕立て職人のエルダ・カファロ他数人の職人達である。

 ここでもまた失神から醒めたウッラがひと悶着起こしたのだ。


 エルダ達に採寸されようとしたウッラが断固として身体に触られる事を拒否したのである。


「嫌だ! いくら同性とはいえ初対面の女共に身体を触られるなど……嫌だ」


「姉さん!」


 ウッラは不器用だ。

 そして病的なほど用心深い。

 それは今迄ウッラ達姉妹が生きて行く為には必須のものであった。

 しかしこれから変わっていかなくてはならないのだ。

 そこへ!


 ぎゅっ!


「あ、あう!? モモモ、モーラル!?」


 吃驚したウッラが見ると、モーラルの手がウッラの手を確りと握っていた。

 不安になったウッラもモーラルの手を確りと握り返す。


「なな、何故だ!? いきなり私の手を握るとは?」


 大きな声で抗議するウッラへ、モーラルが厳しい表情でゆっくりと首を左右に振った。

 内密の話をするぞ! という意思表示である。


『念話で話すぞ、よ~く聞け、ウッラ』


『な、何なのだ!? いきなりっ!』


『今、お前は平気か? 我慢出来ているか? 大丈夫か?』


 モーラルは何を聞いているのだろう?

 喧嘩友達かもしれないが、既に気心は知れている。

 現に気絶した自分を、背負ってこの部屋まで運んでくれたのはモーラルだという。


 ウッラには皆目見当もつかなかった。

 しかしとりあえず返事をしなくてはならない。

 なのでウッラはありのままの気持ちを述べた。


『だだだ、大丈夫だ。何故お前の事を我慢などしなければならない?』


 ウッラの言葉を聞いたモーラルは皮肉っぽい笑みを浮かべる。


『ふ! 私は本来お前にとって、世の中で最も嫌われる生き物だ。蛇蝎の如くな』


『は!? …………どどど、どういう意味だ』


『夢魔で吸血鬼……こんな私に手を握られて我慢出来るならあの女性職人など平気な筈だ。彼女に殺気があるかないか、お前にはすぐ分かるだろうに』


 さすがにウッラも馬鹿ではない。

 モーラルが自分に対して、楽しく買い物をして貰おうと気を遣ってくれているのが分かるのだ。


 だが何故!?

 ウッラは不思議だった。


『モモモ、モーラルゥ!』


『おう!』


『どうして!? どうして? こんなに私の面倒を見てくれる? 知り合って僅かな私の事を!?』


 ウッラの問いに対してモーラルは優しく微笑んだ。


『初めて会った時に言っただろう? 私も同じだと……お前達と。望まれずに生まれた呪われし魔族の子なのだと』


『だから! 何なのだ? ななな、何故なのだ!?』


 もうウッラは泣いている。

 大粒の涙を流して泣いている。


 モーラルは言う。

 彼女はずっとウッラの事を理解しようとしていたのだと。


『お前と話すうちに私達は親しい友達になれるのでは? 分かりあえるのでは? そう思った! そしてやはり私の予感は当っていた』


『なな、何が!?』


『私の手を嫌悪せずに確り握ってくれた。やはりお前は私の大事な友なのだとな』


 大事な友!

 私が大事な友達!


 もうウッラは我慢出来なかった。


「うわああああ~ん うううううわ~ん」


 嬉しさのあまり号泣するウッラを、モーラルは確りと抱き締めていた。


 更に15分後……

 全員の採寸が終わった。

 これから様々な種類の衣服が用意されるのだ。

 それらはオーダー用のサンプルであるが、気に入ってサイズが合えばそのまま購入出来るという商品である。


 段取りを組んだのは当然、ルウとモーラルであった。

 ウッラがモーラルに笑い掛ける。

 満面の笑みと言っても良い。


「モーラル! 楽しみだな」


「ははは、そうだろう。お前は可愛い服など着た事がないだろうから」


 しかし素直に返さないのがモーラルらしいところである。

 所詮モーラルとパウラは親友であり、悪友なのだろう。


 だがウッラも、もう慣れたものだ。


「くう! そう言われると悔しいが事実だから否定出来ない。なあ、パウラ!」


「姉さん! 本当にそうよね!」


 笑顔の姉を見守るパウラは幸せな気持ちに満ち満ちていたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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