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第730話 「再会の約束」

 8月1日早朝、タトラ村正門……


 まだ太陽が東の地平線から僅かに顔を出した時間……

 クラン星(ステッラ)のクランメンバーはタトラ村を出発するべく全員が揃っていた。


 ルウにより召喚されている妖精馬ケルピーは昨夜、タトラ村にてマルコシアスの世話により万全の状態に仕上げられていた。

 ルウとの約束通り、ジュリアも深夜に起きて正門の傍らに佇んでいる。


 タトラ村の大勢の村民も『恩人』のルウ達が出立すると聞いて、正門に立って見送ろうとしていた。


「ルウ様! 皆様! 本当にありがとうございました!」


 ルウを見送る村長のゼタは感謝の気持ちで一杯だ。

 昨夜、訪ねて来たルウが自分のルーツである初代村長縁の品を持参してくれた事にも、大いに感謝しているのである。


「ありがとうございました!」


「また来てくれよぉ!」


「タトラ村は良い所だろぉ! 遠慮なくあんた達の故郷だと思ってくれよぉ」


 村民達の大きな声を背に受けながら、ルウ達、クランメンバーはケルピーに跨った。


「ルウ様! お願い! 乗せて!」


 ジュリアが切なげにルウへ視線を送る。


「OK!」


 ルウがピンと指を鳴らすと、浮上の魔法でジュリアの身体がふわりと浮き上がった。


「あは! ルウ様ぁ!」


 ルウは甘えるジュリアをしっかり抱き止めると、自分の前に跨らせる。

 ケルピー達はゆっくりと歩き出す。

 こうしてルウ達クラン星(ステッラ)はタトラ村を出発してジェトレ村へ向かったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 妖精馬ケルピーはルウの指示によりどこへ向かうか、分かっているので特別な指示は不要だ。

 例によって最初は常歩である。


 ゆっくりと街道を進む7頭のケルピーは規則正しく足を交互に踏み出していた。


「ルウ様ぁ! ルウ様ぁ!」


 今日限りで別れると分かっているので、ジュリアはルウに思い切り甘えている。

 そんなジュリアをフラン達は温かく見守っていた。

 クランメンバー全員がジュリアの生い立ちを知らされているからだ。


 5年前、魔物の襲撃により両親を亡くしたジュリアは叔母のジェマに引き取られ、ただひたすら真面目に嫌われないように一生懸命働いて来たのである。


「ジェマ叔母さん! 捨てないで! 私を捨てないで!」


 両親が亡くなった直後、ジュリアは叫びながら、泣いて取り縋ったという。

 今、ジュリアがルウに甘えているのは単に好きな男性として見ているだけではない。

 恋人としては勿論、父として兄として、全ての愛情をルウに求めているからなのである。


 ジュリアが遠い目をしながら呟く。


「ルウ様! ルウ様の予言、外れてくれれば良いなぁ……」


 先日、ルウがジュリアの幸せを予言したが、外れて欲しいと言う。

 その真意は押して知るべしである。


「ああ、確か最高の恋人が現れるって奴だな」


「外れますよね?」


 念を押すジュリアに対して、ルウはゆっくりと首を左右に振った。


「多分当たるだろうな」


 ルウの残念な答えを聞いて、ジュリアは顔を顰めていやいやをした。


「いや! ねぇ、ルウ様、このまま王都へジュリアを連れて行って下さい! 私は奴隷でも何でも良いのです。ルウ様から離れたくない!」


 頬を膨らませるジュリアを、ルウは優しく諭す。


「ジュリア、お前タトラ村に尽くすのだろう? 村でハーブを育てるという夢を持っていたじゃあないか」


「う……ん」


 辛そうに答えるジュリアにルウは晴れやかな笑顔を見せる。


「頑張ってみろよ、とりあえず! 俺、いつかまたタトラ村へ行くよ、絶対」


「本当……ですか?」


「ああ、約束する。その時、俺の予言が外れてお前がもしフリーなら……」


「フリーなら?」


「その時は俺が逆に攫(さら)ってやろう」


 お前を攫う!

 ルウの言葉を聞いて、ジュリアは吃驚する。


「ええっ?」


「ははは、お前と駆け落ちするって事になるな」


「うふふ、駆け落ちって響きは凄く素敵です」


 どうやらルウはやけになりかけた、ジュリアの気持ちを鎮めたようである。

 ジュリア自身も自分が投げ遣りになった事を分かっていたらしい。


「いや、素敵じゃないかもしれないぞ。好きな男が居るかもしれないお前を、無理矢理俺の女にするんだからな」


「俺の女に? うふふ! 私ったら、いや~、やめてぇ! この悪魔ぁとか叫ぶかもしれませんね」


「ははっ、俺は酷い悪魔かもしれないからな」


「私、悪魔でも良い。優しくしてくれる人なら悪魔でも……でもね、私もたった今、気付きましたよ」


「ほう! 何がだい」


「はい! 本当に愛し愛されるには、私がルウ様に幸せにして貰うだけじゃ駄目なんだって! 私も同じくらいルウ様を幸せにしないと駄目なんだって。どんな事、どんな形でも良いから!」


 やはりジュリアは聡明な女の子だ。

 男と女の愛の真実を見極めようとしているからである。


「俺もそう思うよ。偉いぞ……ジュリア。お前は良い娘だ。何かあったら、すぐ俺を呼ぶんだ、絶対に助けに行ってやるさ」


「はいっ!」


 ジュリアが元気良く返事をして、ふと前方を見ると、何度か見たジェトレ村の巨大な街壁が見えていた。

 ルウと話しているうちに、もう目的地に着いていたのである。


 ――1時間後


 ルウはゼタと約束した家畜の購入を済ませると、ジュリアへ別れを告げた。

 これからケルピー達を急がせて、今日中にバートランドへ戻るのである。


 ジュリアは村に必要な買い物を済ませてから、ルウが購入した家畜を連れて3日後の昼に出発する。

 そんな彼女のタトラ村への帰途はジェトレ村の守備隊が勿論、護衛につく。

 この護衛隊はルウ達が街道封鎖の依頼を遂行する際に会った小隊であった。 

 

 ここで想定外な事が起こった。

 意外な人物も残ってくれたのである。


 ジェトレ村に残ったのは何と大悪魔マルコシアスであった。

 マルコシアスは自ら残ると宣言し、ジュリアの護衛役を買って出てくれたのである。

 ルウはジュリアの護衛に、王都に居たアモンとヴィネを呼んでいたが、結局マルコシアスの意気も買って彼女にも加わって貰ったのだ。


「おう! ジュリアと言ったな……私達が責任を持ってタトラ村へ送ってやる。任せろよ!」


「マルガリータ……様ですよね。宜しくお願いします」


「そのような、かしこまった呼び方ではなくマルガと呼べ。お前から見て私は新参者で馴染みがないから警戒するかもしれないが……ルウ様が大事にしているお前を絶対に危険になどさらさない。安心しろ!」


 マルコシアスはそう言うとにっと笑う。

 日焼けした肌の中で、僅かに開いた口から見える白い歯が眩しい。

 ジュリアは目の前に居る精悍な女戦士をじっと見詰めた。


 この人も同じ……なんだ。

 ルウ様に対して私と同じ気持ちを持っている……


 ケルピーで移動するルウ達は、もうあっと言う間に遠くへ離れている。


 ジュリアは感謝の気持ちを込めて、大きくルウ達へ手を振ったのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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