第706話 「カサンドラの課外授業①」
ご、がはああああああああああ!
フランによって召喚された冥界の魔犬オルトロスが咆哮し、猛炎を吐く。
それだけで充分威嚇になり、オーク達は動揺する。
怯えて砦に向けて逃げ帰る者も出る始末だ。
人間が肉食獣に対して臆するのと同様に、本能的に勝てない相手だという事を知っているからである。
一方、不死者である骸骨剣士達には恐怖という感情が一切ない。
ルウの強力な火弾により結構な数が焼き払われたが、まだ100体を超える者達がぎくしゃくとした動きで一斉にオルトロスに向けて襲い掛かろうとしたのである。
そこへルウ達が到着し、逆側から攻め掛かったのだ。
ルウからカサンドラへ念話により指示が飛ぶ。
『カサンドラ! 戦いの流れを良く見ろ! オルトロスが左翼から攻め掛けて敵の動きが生まれている。それを見極めるんだ!』
『は、はいっ!』
カサンドラが敵軍を見ると、ルウの言う通り様々な『動き』が出ていた。
恐怖を感じ砦に逃げ帰るオーク。
オルトロスから逃れんと右翼へ移動するオーク。
そして一斉にオルトロスへ襲い掛かる骸骨剣士。
砦に逃げ帰るオークはとりあえず放置!
こちらへ来るオークより、背中を見せている骸骨剣士へまず対処!
カサンドラは状況を見て、瞬時にそのような判断をした。
『ようし、カサンドラ! 良い判断だぞ!』
いきなりルウの声が響く。
カサンドラの放つ魔力波を読み取っての呼び掛けらしい。
褒められたカサンドラは返事の声も弾む。
『はいっ!』
『ここでは接近しないで骸骨共を叩く! ミンミ!』
『はいっ! ルウ様!』
ルウとミンミの手の中に、いつの間にか小さな火球が生まれていた。
ええっ!
無詠唱!?
凄い!
カサンドラは目を丸くする。
『威力の小さな火弾でもこう接近すれば――』
ばっ! ばっ! ばっ!
ルウとミンミの2人から至近距離での火球が放たれ、骸骨剣士達が面白いように燃え上がった。
まるで充分に乾燥させた燃えやすい薪に火をつけたように!
『カサンドラも分かっているだろうが、不死者に火属性の魔法はとても有効だ!』
『はいっ!』
ルウの言う通り、不死者に火属性の魔法はとても有効である。
以前のカサンドラだったら常識と言い捨て、碌に返事もしなかったに違いない。
だが今のカサンドラは違う。
ルウのいう事を素直に受け入れる事が出来るのだ。
『よっし! 次はオーク共だ。しかし骸骨の反撃には注意しろ! 囲まれたら不味いから自分の間を確り取って戦うんだ!』
間違い無い!
これは――授業だ!
ルウとの課外授業だ!
妹のルネが王都の魔道具店で受けた課外授業を今、姉の自分も受けている。
『剣を抜けっ!』
『『了解っ!』』
カサンドラの顔に笑みが浮かんでいる。
彼女は改めて実感していたのだ。
こんな敵、クラン星のメンバーなら、遠距離からの攻撃魔法で全て方が付く筈なのに……
それをわざわざ接近戦で戦うのは……やはりルウの少し危険な授業、実戦的な授業なのだ。
「しゃっ!」
「たあおっ!」
「とぉっ!」
オルトロスに追い立てられ逃げて来たオークにとって、目の前にいきなり新手として現れたルウ達3人に直ぐ対応出来る筈もない。
3人の剣が振るわれる度にオークの死骸が増えて行く。
片や、オルトロスは縦横無尽に駈け巡り、敵を蹂躙していた。
逃げるオークを食い千切り、灼熱の炎を吐いて骸骨剣士を炭化させる。
まもなくオークは砦に逃げた者を除いて全滅し、後は骸骨剣士数十体になった。
『よっし、仕上げだ! オルトロスと連携して挟み撃ちと行こう! ここは接近戦で行くぞ』
『『了解っ!』』
ルウはダマスカスソードを構え、ミンミはミスリルのロングソードに炎を纏わせている。
そしてカサンドラの剣は鋼のショートソードだ。
カサンドラが間近で見ても、ルウとミンミは剣技だけで相当な達人だと分かる。
2人はカサンドラを庇いながら、戦っているのに全く隙が無いからだ。
たっ!
ルウは骸骨剣士の剣を躱すと、思い切り骸骨を蹴り上げる。
結構な威力らしいルウの蹴りを受けた骸骨剣士は、あっさりと粉々になった。
え!?
蹴り!?
剣技と蹴り!?
カサンドラは驚く。
剣技と魔導拳の組み合せ――ルウはまた違うバリエーションを見せてくれたのだ。
これも授業――であろう。
しゃっ!
とっ!
こちらは剣に炎を纏わせた剣を一閃したミンミである。
彼女に襲い掛かろうとした骸骨剣士が2体、瞬時に燃え尽きる。
こ、これが魔導……剣!
す、凄い!
『ほら、カサンドラ! 油断するな!』
いきなりルウの声が魂に響く。
カサンドラは我に返ってハッとする。
2人に見とれていたカサンドラに骸骨剣士がぎくしゃくとした動きで襲いかかろうとしていたのだ。
ガキン!
骸骨剣士の振るった剣をカサンドラが自分の剣で受け、押し返した。
日々鍛えたカサンドラの膂力もなかなかのものである。
加えて身体強化の魔法が彼女の通常の力を遥かに押し上げていたのだ。
よろめいた骸骨剣士の首があっという間に刎ねられていた。
『おっし! 良いぞ! 但し、余り敵の攻撃を剣で受け過ぎるな。刃こぼれするからな』
『はいっ!』
この充実感!
最高だ!
「おおおおりゃぁ!」
カサンドラは剣を構え直すと、気合を入れ直す為に大きな声で雄叫びをあげたのであった。
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