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第7話 「笑顔」

皆様のご支援感謝です。

「何故、ジーモンが倒れているの? もう1度言うわ、フラン、説明しなさい」


 武道の達人でもある屈強な家令が、一方的に倒された……

 そんな状況にも動じることなく、フランの母アデライド・ドゥメール伯爵は娘に対し、状況の説明を求めていた。

 彼女はこのヴァレンタイン王国を建国した英雄バートクリードの子孫にあたる名門ドゥメ-ル家の流れを組む女伯爵である。


 ……アデライドは10歳を越えた頃から急激に魔法の才能を発揮し始め、その多彩な魔法の行使と華麗な発動から『舞姫』と称された天才であった。

 

 16歳で入学したヴァレンタイン魔法女子学園で才媛振りを欲しいままにし、3年間の修業年限をたった1年間で卒業。

 同魔法大学に進むと今度は4年の修業年限を2年で卒業し、その優れた魔法の研究結果が認められ、卒業と同時に特例として教授への就任を要請される。

 

 その職を受けたのを皮切りに、その僅か5年後には24歳の若さで学長に就任すると以降20年間―――44歳まで務めた超エリートと目されていた。

 

 しかし、魔法大学学長の任期途中で母校、魔法女子学園の前理事長が病に倒れた……

 それを機に、何度と無く要請されていた、学園理事長兼校長の職を熟考の上で受け……現在へと到っている。


 アデライドは再度娘のフランに問い質した後……

 魔法の研究同様いつもの癖で、その場の状況分析を始めていた。

 彼女は生まれ持った魔眼で生命力の有無や物質の質感を測る事が出来る。

 加えて優れた観察力と勘の良さで状況を把握し、常に冷静な性格で正しく事態を把握出来るのだ。


 万人より秀でたその才能を、単に魔法だけで使うのは惜しい……

 伯父であるバートランド領主のエドモン・ドゥメール公爵は度々、アデライドの政界入りを促した。

 しかし彼女の人生では、1番の関心事が魔法。

 その為に、心は一切、揺れ動く事は無かったのだ……


 閑話休題。


 アデライドは更に魔眼を発動し、倒れているジーモンの魔力波オーラを測ってみる。


 大丈夫!

 ジーモンの魔力波は、命亡き者のそれではない。

 でも、腹部には結構な裂傷を負って気を失っている。

 そしてウチの使用人達が遠巻きにしながら、娘と、私が見覚えの無い男のふたりを囲んでいるのね。

 

 ふ~ん、フランったら意外な反応だわ。

 あの娘が全然怯えたりせず、却って男の服の端を握っている。

 私に紹介していないから、……知り合って日が浅い筈。

 そんな男性を、信頼するなんて珍しい……

 どういう風の吹き回しかしら。


 アデライドはそこまで読み取ると、思わず苦笑する。


 あの娘の力では……

 ジーモンにあんな傷を負わせる事なんて出来ない。

 だから、黒髪の男が倒したという事になる。

 でも……あの男からは殺気が全く感じられない。

 だからこそ、フランも怖がらず……くっついているんでしょうけど。


 そこまで考えると、アデライドは「ずいっ」と足を前へ踏み出した。


「お、奥様!」


 使用人のひとりが、思わず叫んだ。


 こちらに近寄ると、「危ない」という意味であろう。

 しかし、アデライドは警告に構わず、ルウとフランが立っている所まで近付いた。

 

 目の前には、相変わらずジーモンが倒れている。

 更に近寄ったアデライドは、無防備にルウに近付く。

 そして、ルウの顔を思い切り、まじまじと見たのである。


「ちょっと、お母様ったら! ルウに失礼よ!」


 母親の行動が無礼だと思ったのであろう。

 フランが精一杯、抗議の声をあげるが、アデライドは何処吹く風だ。


 ふ~ん、ルウという名前なのね。

 どれどれ……

 背は結構、高いわ……185cmくらいあるかしら?

 痩身だけど、バネがありそう。

 黒髪に黒い瞳か……

 人族で顔の造りは彫が深いけど、この国の人間には見ない顔立ちだわ。

 

 いわば異相って奴ね!

 少し、ヤマト皇国人の血が入っているのかしら?

 でも! 凄い!


 アデライドが改めて感じたのは……

 ルウの体内の、圧倒的な魔力量である。


 さっきから感じていたけど、これは常人の量ではない。

 正確な量は私の魔眼では見えないけど、底が知れないとは……この事ね。

 そして彼の周りに居る、人智を超えたいくつもの気配は……何? 

 

 そんなアデライドの思いは、ルウのひと言で破られた。


「ちょっと待って下さい。俺がこの人を回復させた上で、フランから話をさせて貰えますか?」


「どういう事?」


「俺はルウ、傷を負わせたのは自分です。とりあえず彼を回復させます」


「待ちなさい!」


 アデライドが止める間も無く、ルウは言霊の詠唱を始める。

 かつてフランを治療したのと同じ、回復魔法である。


「大地の息吹である風よ、大地の礎である土よ、大地に命を育む水よ、そして大地の血流である火よ。我は称える、その力を! 我は求める、その力を! そして我は与える、その力を! 愛する者に満ち満ちて行かん、大地の癒しを! さあ、この者に与えたまえ!」


 一瞬の溜めの後に、ルウの両手から魔力波オーラが放出される。


治癒ヒーリング!」


 暖かく淡い光が倒れているジーモンを包む。


「あ、あれは……」


 今、ルウが発動している回復魔法は、普段アデライド達が魔法式を組んで行使している魔法とは根本的に異なる。

 

 個々の魔力を決められた言霊により、様々な魔法に変換し、魔力波で撃ち出す……

 自分の運営する学校や、その上に位置するヴァレンタイン魔法大学で教授する魔法、魔法式なのだ。


 しかし、あらゆる魔法を今まで研究し、機会があれば試して来たアデライドにはそれが「何か」だけは分かっている。

 

 ……ルウが行使しているのは、4大精霊魔法と呼ばれるものだ。

 

 魔法式が神や使徒などが行使した偉大な力を、ほんの僅かに再現する為の、魔力から魔力波への変換マニュアルとするならば……

 

 精霊魔法は直接、精霊自身の力を借りて魔法を行使するものである。


 そもそも精霊を使役して、魔法を発動する人間族はごく僅かだと言われている。

 何故なのか?

  

 魔法式は、魔力を無駄に使わず、容易に魔法を発動させ、コントロールもし易い。

 つまり先人達の多大なる功績により、もっとも効率良く魔法を発動し、行使するのが魔法式なのだ。


 対して、未知なる精霊の力を直接借りる精霊魔法は、制御どころか、発動するのさえ困難だ。

 好奇心旺盛で人懐こい者もごく稀に居るが、基本的に精霊は気難しく、人間の性格では測れない。

 その為、彼等と折り合いをつけるのは、大変難しい。

 精霊=自然の力と考えれば納得が行くだろう。

 

 そして、この精霊魔法に1番適性があるのは人間ではなく、エルフと称されるアールヴなのである。

 種族的に彼等に近いアールヴは、森と言う自然の中で一体化して暮らしている為、精霊と魔力波の波長が合い易い。

 

 それでも、あくまで人間族に比べればという比較である。

 アールヴ族全てが、精霊魔法を完璧に使いこなすわけでもはないのだ。

 

 これまでに、亜流の精霊魔法は数多く見たが……

 完璧な精霊魔法は、見たのも今まで数度に過ぎない。

 勿論、アデライド自身行使した事は無い。


 しかも!

 これほど圧倒的な精霊の力を感じて、行使されるものは初めだった……

 

 さすがのアデライドも、暫く呆然としていると……

 重傷を負い、倒れていたジーモンが、ゆっくりと起き上がる。


「お、奥様……」


「ジ、ジーモン! け、怪我の具合はどう?」


 アデライドが、興奮で少し震える声で呼び掛けると……

 ジーモンは反射的に、ルウに撃ち抜かれた腹の傷に触り、驚きの表情を浮かべた。


「な!? ふ、ふ、塞がっている……」


「ね! 凄いでしょう、ルウは!」


 様子を見ていたフランが、勝ち誇ったように親指を立てる。

 満面の笑みを浮かべたいわゆる、『どや顔』であった。


 アデライドは驚きを通り越し、そんな娘の様子に呆れている。


 本当に困った娘ね。

 まるで、自分の事のように誇らしげ。

 このルウって男が、何となく悪人じゃない事は分かるけど……


 アデライドはもう、前向きに考える事にした。


 ……フランのこんな笑顔なんて……

 本当に! 何年振りかしらね。


 ほんの僅かだが、アデライドの口角が上がった。

 

 アデライドは自分でも知らないうちに、久々に見る愛娘の笑顔に癒されていたのである。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

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