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第690話 「クラン『星』の初陣④」

「ルウ様……離れていてさすがに声は聞こえませんね。ただ魔力波オーラと雰囲気で何となく分かりますけど……あいつらは一体、何と言っているのでしょう?」


 ミンミが訝しげな表情でオークを睨むと、可愛らしく首を傾げた。

 ルウ達が今居るのが、討伐を依頼されたオーク達が街道を占拠した現場である。

 オークの群れとの距離は約200m……

 現在、クランステッラとオーク達は火花を散らして睨み合っているのだ。

 この先がタトラ村であり、先ほどの騎士に確認しておいたところ、距離にして約10Kmという事らしい。


 オーク達はルウ達に向って凄まじい形相で吼えていたのである。

 ルウは苦笑いして肩を竦めた。


「う~ん……美味うまそうな女を残して、男のお前だけさっさと帰れ!と吼えているようだぞ」


「はいっ! 確かに私の魔力波オーラ読みでもそう感じます」


「…………」


 ルウとミンミの言葉を聞いたフランも苦笑している。

 異界での訓練の結果、フランの魔力波読みの能力は最近、著しく発達していた。

 彼女の読み取ったオークの意思はルウ達の言った事と少々違うのだ。

 多分、ルウが少し『意訳』しているのであろう


 本当は……


 そこのお前等!

 そんな数で俺達に敵うと思うのか?

 不味そうな男と食いでのないアールヴ女はさっさと去れ!

 美味そうな人間の女だけ俺達に喰われてしまえ!


 ミンミにとっては逆鱗に触れると言ってもよい致命的な呼び掛けであった。

 『言わぬが花』ということわざの通りで、ルウは敢えて『意訳』したに違いない。


「奴等め……相変わらず本能のみで生きているようだ……仕方無い、殲滅しよう」


「「「「「了解!」」」」


 相変わらずというのはオークが『女の敵』と呼ばれている魔物だからである。

 本能の命ずるままに人間の女性を犯し、人肉をむさぼり、時には共食いまでする性癖から魔物の中でも特に嫌われる悪豚鬼オーク

 他種族と決して折り合わない彼等は、狩場の森の『商品』として生きたまま捕獲されるというレアケースを除いて、基本的には容赦なく殲滅されるのだ。


 ルウは目を細めてオークの群れを見直すと、にっこり笑う。


「再度、索敵をした結果、捕虜はいないようだぞ」


「はいっ! 私の索敵にも人間やアールヴなど他種族の反応はありません」


「同じく!」


「ミンミも同じです。容赦なく攻撃して良いと思います」


 ルウの言葉を聞いて、フラン、モーラル、そしてミンミが自ら行った索敵魔法の結果と照らし合わせて同意する。

 他種族の捕虜が居ないのであれば、思う存分遠距離から魔法で攻撃出来るからだ。

 索敵魔法を習得していないボワデフル姉妹はただただ唖然とするしかない。


「凄いな、ルネ!」


 姉のカサンドラが目を丸くして言うと、妹のルネも呆れたように言い返した。


「ええ、特にルウ先生は1km手前で敵の数や捕虜の有無を完全に把握していましたからね。あ、魔法発動の指示が出ますよ」


 ルネが言う通り、ルウが大きく手を振って合図をしている。


「フラン、ミンミ、カサンドラ先生、火属性の攻撃魔法発動の準備をしてくれ」


 ルウの索敵によれば、オークの数は103体……


 ギルドで依頼を受けた数よりは結構増えていた。

 これは何か原因があるに違いないが、相手は飛び道具を持たないオークの中規模部隊である。

 街道の先にあるタトラ村の状況を考えたら、悪戯に時間を掛けず一気にカタをつけるのが得策なのだ。


 やがてルウを含めた4人の魔法使いから、オークを殲滅するのに充分な火弾ファイアブリッツが放たれる。

 不気味な音をたてて飛ぶ、数十発の火球はあっという間にオークの群れに着弾し、彼等の肢体を灼熱の炎で炭化させて行く。

 阿鼻叫喚の地獄の中で『俺達に喰われてしまえ!』と偉そうに吼えていたオークもその身体を焼かれ、後には塵しか残らなかったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「あっという間だったな、これで討伐の依頼が完了だ! さすがルウ様だな」


「でも姉さんも火弾を撃ったじゃあないか」


「だが、4人の中で私の火弾が一番貧相だった。これで報酬の金貨を貰うのはなんだか悪い気がして来たよ」


 カサンドラとルネのボワデフル姉妹が先ほどの戦いを振り返っている。

 ルウ達は再びケルピーに跨り、急遽タトラ村へ向かっているのだ。


「おおい、そろそろ村の手前500mだ。俺の索敵ではタトラ村は完全に包囲されているぞ」


 何気に言うルウのひと言を聞いて、カサンドラとルネは仰天した。


「ええっ!?」


「な、ななな!?」


 村を包囲!?


 ヴァレンタイン王国の南端にあるタトラはとても小さい村だが、完全に包囲するとなると先程の100体余りでは少な過ぎて話にならない。

 少なくとも1,000体、いや……下手をすればその倍近くは必要であろう。

 

 まもなくクランメンバーの騎乗したケルピー達がルウの指定した場所に到着した。

 先程の話の通り、タトラ村から500mの位置らしい。


「ルウ様! あ、相手が多過ぎる。ここは一旦、撤退した方がよいのでは!」


「わ、私も姉に賛成です。あちらは最低でも1,000体……こちらはたった6人! 数が違い過ぎます」


 ルウ達の実力を知らないボワデフル姉妹が圧倒的に不利な状況を危惧するが、普通はこれが常識的な判断である。

 超常的な力を発揮して戦う魔法使いは常識外の戦いが可能であるから、単純な戦力数の対比はナンセンスだ。

 だが、こちらの6に対して、1,000以上の敵という数の対比を考えるとボワデフル姉妹が尻込みするのも無理はない。


「カサンドラ先生、ルネ先生、落ち着いて考えてくれ。こちらにはケルピーという足があるんだ。オークの走力は決して遅くはないが、囲まれさえしなければ走る事に秀でた妖精馬のケルピーには到底追い着けない」


 最後の撤退用にケルピー待機させておけば良いというルウの言葉を聞き、カサンドラとルネは納得して頷いた。


「あ、ああ……な、成る程! 先に退路を確保しておいて、遠距離から先程のように攻撃魔法で奴等の数を徐々に減らせば良いのだな」


 だがルウの話はこれで終わらなかった。


「ああ、それに俺とモーラル、そしてミンミは飛翔出来るから、これも作戦に組み入れる」


「ひひひ、飛翔!?」


「ああ、飛翔魔法さ」

 ※正確にいうとモーラルが飛ぶのは飛翔魔法ではありませんが、説明を省くという奴です。


 口をあんぐり開けたルネをそのままにして、ルウは他のクランメンバーに呼び掛ける。


「俺が作戦を立ててみた。皆、聞いてくれるか?」


 ルウは集まった5人を見て、親指を立てるとにっこり笑ったのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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