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第689話 「クラン『星』の初陣③」

 ルウ達はヴァレンタイン王国騎士隊ジェトレ支部の騎士達に見送られ、再度出発した。

 再度、ケルピーに騎乗して南に向かったのだ。

 暫くして、騎士達の姿が見えなくなるとカサンドラが憤る。


「何という情けなさ! あれでも騎士でしょうか?」


 怒りと嘆きに満ちたカサンドラの言葉を受けてミンミも追随した。


「私も同意します! カサンドラの言う通りです。あのような戦意の無い者達が『戦う者』とは……」


 傍らのフランはカサンドラとミンミの言葉を聞いて迷っていた。

 確かにカサンドラ達の憤りも分かる……

 しかし先ほどの騎士にこころざしが無いとまでは感じられなかったのだ。


 傍らでケルピーの背に揺られて走るルネも同様である。

 もし自分が同じ立場だとしたら……

 無駄に死ぬ事が立派だとは、到底思えなかったのである。


 そんな中、ルウは穏やかな表情を変えなかった。

 モーラルも黙って微笑んでいる。


 一瞬の間の後、ルウが口を開いた。


「ははっ、カサンドラ先生、そしてミンミも……それは違うぞ」


 意外なルウの否定の言葉にカサンドラもミンミも驚いている。


「え?」


「どうして?」


 ここでルウは騎士に関して2人に聞いて来た。


「ははっ、2人とも軍対軍という集団戦における騎士の本当の強さが分かるか?」


「集団戦における……」


「騎士の本当の強さ?」


 いきなり聞かれたカサンドラとミンミは言葉に詰まる。

 決して難しい質問では無いのであるが、先ほどルウに否定された事が尾を引いているのだ。


 2人が答えないので、フランが一般的な答えを述べてみる。


「旦那様、馬による機動力は勿論、強靭な体力と卓越した武技に裏打ちされた戦士としての強さ……でしょうか?」


 フランの答えを聞いて、ルネも大きく頷いた。

 今、同じ事を言おうとしたに違いない。


「ははっ、フラン。その答えは正解だ。間違いではないのだが、それは騎士の『個』としての強さだ。騎士道と言う精神的な拠り所と並んで、な」


「個としての強さ……なのですか?」


 一方、モーラルは相変わらず黙っている。

 彼女は多分、ルウの言いたい事を理解しているのだろう。

 しかしここで得意そうに話をして出しゃばるタイプではない。


「ははっ、では正解はいくつかあるが、そのうちのひとつを言おう。集団戦における騎士の最大の強さは馬に乗った大きさで相手を心理的に威嚇し、圧倒する事にあるんだ」


「えええっ!」


「心理的に威嚇し、圧倒する?」


「ああ、鎧をまとい馬に乗った騎士というのは相手から見てとてつもなく大きく見える。それが大きなランスを抱えて集団で突っ込んで来るんだ、地響きを立ててな……とんでもない恐怖を感じるだろう」


 大地が揺れるほどの蹄音をたてて、騎士の大群が迫れば、通常の敵なら心理的効果は大きいだろう。

 戦意を喪失すれば尚更である。


「恐怖に駆られた相手が浮き足立ち、混乱している時に一気に蹂躙して殲滅する。それが騎士の理想的な戦法さ。だから短期決戦に秀でていて、逆に消耗戦には向いていない」


 ルウの説明が終わると、改めてフランが質問をした。


「旦那様、集団戦における騎士の強さは分かりましたが、それが先ほどの騎士様の件と何か関係があるのですか?」


「ああ、フラン。俺が見る限り彼は騎士の戦い方の本質を理解している。良く考えてみてくれ、もし相手に騎士の得意な戦い方が一切通じないとしたら、どうだろう?」


「得意な戦い方が一切……通じない!?」


 フランは大きく目を見開いた。

 魔法使いにとっては得意な攻撃魔法が無効化される事に近いだろう。

 驚きの表情をしたフランを見ながら、ルウの話は続く。


「そのような戦法が通じない相手は多種多様だ。遠距離攻撃が得意な高位の上級魔族や圧倒的な数を頼んで襲う魔物、そして感情のない不死者アンデッド……接近戦が基本で物理攻撃しか戦う術のない騎士が優位な条件で戦える相手ではないとしたら……」


「あ、ああああ……」


 今度はルネが言葉にならない声をあげた。

 彼女の脳裏には騎士が苦戦する様が浮かんだようである。


「戦術を尽くしても人数と物資が少ないという条件もあるが故に、戦いはいつも苦戦を強いられる。明日が……見えないだろうな」


「…………」


 フラン達は思わず黙り込んだ。

 ルウの「明日が見えない」というのは絶望とまではいかないが、苦難に満ちた地方騎士達の状況を明確に表す言葉であったからだ。

 彼女達の様子を見たルウが、今度は違う内容の話を始める。


「各自が思い描く理想というものは美しく素晴らしい。理想が全て実現すれば少なくとも掲げた者自身にとっては最高の世の中になり、悔いの無い人生を送る事が出来るだろう」


 ここまで言うとルウは「ふう」と息を吐いた。


「だが理想は理想。その前には行く手を阻むハードルだらけの現実がある。俺達は生きる為にその中でベストを尽くすべく足掻くしかないのさ」


「彼等も……そうなのですね」


 今度はミンミが呟く。

 彼女の表情からは先ほど見せた騎士に対する不快さはすっかり消えていた。


「ああ、ミンミ。お前が思った通りさ。少なくとも先ほどの騎士は部下の安全も考えて民を守る事にベストを尽くしている。俺達魔法使いだって他の人間から言わせれば、それだけの力を持つのだからこのような村の守りに立つのが義務と言われるかもしれない」


「私達にも色々と事情と都合がありますし、ずっと守るなんて……難しいです」


 ルウの問い掛けにミンミは首を左右に振った。

 魔物の脅威に晒されている村の『働く者』からすれば、『戦う者』の誰かが自分達を守ってくれるべきだと思うのは当然であろう。

 それが騎士でなくてはならない理由は村の民にとってはないのだ。

 彼等からすればその役目を果たしてくれるなら、多分ルウ達でも構わないと言うだろう。


「その通りだ。だから現状でベストを尽くせば良い。俺達は金で雇われた冒険者、本来戦う者の代理に過ぎない。それでも良いんだ」


「「「「「はいっ!」」」」」


 ルウの呼び掛けに全員が大きな声で返事をした。

 どうやらこの場の意思統一は出来たようだ。


「でも旦那様、立ち止まってはいけませんよね!」


 ここでモーラルが初めて口を開いた。

 いつも前向きな彼女らしい発言だ。


「ああ、モーラル、そうだよ。停滞しないように更に高みを目指せるように考える事はしなくてはいけない。もっと良い方法があるのではと、な」


 ここでフランが元気良く手を挙げた。

 最後に自分の思った事を述べておきたいらしい。


「旦那様! 私達はこうして様々な経験を積みながら優れた魔法使いの後進を育てるのが今やれるベストな事だと思うわ」


「ああ、フラン、俺もそう思う! 確かにそれもベストな事のひとつだ。さあ……もう少しで敵に接触する、彼等騎士の分まで頑張ろう」


「「「「「「おお~っ!」」」」」」


 再度のルウの呼び掛けに、クランステッラのメンバー達は大きな鬨の声をあげたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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