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第680話 「選定された依頼」

「ようこそ! バートランド冒険者ギルドへ! 我がクランステッラがこの地で初陣を飾るのは喜ばしい限りである」


 バートランド冒険者ギルドマスター、クライヴ・バルバーニーは高らかに言い放つ。

 何故か、その表情は笑顔に満ち溢れていた。

 フランはクライヴの言葉尻と満面の笑みに不自然さを感じたようだ。


「ええと、ちょっと待って! クライヴさん!」


「何か? フランシスカ様」


 相変わらず笑顔で返すクライヴはどうしてストップを掛けられたか理解出来ないようである。


「フランと呼び捨てで構いませんわ、クライヴさん。それより我がクランステッラの『我が』って一体何ですか?」


 フランは重ねてクライヴに不自然さを問い質した。

 何故『我がクラン』なのかと!


「簡単な事ですよ、俺が言った通りの意味です。実は俺もクランステッラのメンバーだから。ちなみに肩書きはエドモン様と同じ特別顧問ですね」


「はぁ……呆れた」


 フランは驚きの余り、大きく目を見開いてしまう。

 まさかエドモンだけでなく、このギルドマスターまで……

 一体、何を考えているのか彼女には理解不能である。


 フランの表情を見て、クライヴは彼女の気持ちを読み取ったらしい。


「いえいえ! クランステッラはこの世界でも有数なS級レベルのクラン……いや、実力ではナンバーワンと言っても良い最有力クランだ。エドモン様と俺が特別顧問になるのは当然ですよ」

 

 まだ呆気に取られているフランに代わって、今度はルウが質問する。


「ははっ、じゃあ改めて聞こう! それで爺ちゃんとクライヴさんは特別顧問としてどう関わるのだい?」


「ルウ! その質問の前に『さん付け』は、やめにして貰おうか。エドモン様が自ら希望されて『爺ちゃん』と呼ばせているのではな……俺の事はクライヴと呼び捨てでOKだ」


 年上だろうが、呼び捨てにして構わない!

 これはささやかながら、クライヴからエドモンへの対抗心だろう。


 これを拒否したら、また話が面倒なのでルウは快諾した。


「ははっ、了解!」


 満足そうに頷いたクライヴはルウをじっと見詰めた。


「ふふふ、じゃあルウの質問に答えようか。特別顧問の最初の仕事だが、クラン星に依頼する依頼ミッションの選定だ」


「ミッションの選定?」


「ああ、クラン星はこれがデビューだから、改めて最初から説明しょう。依頼には討伐系、護衛系、探索系、採集系、そしてメッセンジャーや運搬等を含めた、その他系の5種類があるのだ」


「成る程!」


 クライヴの話を聞くルウの瞳がキラキラと輝いていた。

 

 フランはちらっとルウを横目で見る。

 元々、ルウは冒険者志望であった。

 しかし自分の為にセントヘレナに留まって教師になってくれた、そんなルウがフランは大好きである。

 身を乗り出してクライヴの話を聞く、少年のようなルウの仕草をフランは慈母の如く見守っていた。


「今回の予定はどうなっている? ルウ」


「ああ、今日が7月29日だから……8月4日までにクリア出来る依頼ミッションを希望だな」


 ルウはリーリャとの結婚を了承して貰う為に7月10日の終業式の後、7月11日の魔法武道部対ロドニア王国選抜チームとの戦いを経て、今日まで魔法女子学園に出勤していない。

 校長代理であるフランも同様だが、8月8日から始まる夏期講習、2回目の魔法発動訓練、OG座談会、そして来年入学対象者に向けてのオープンキャンパスには必ず出勤しなくてはならない。


 その為には8月4日までには依頼を終了させて、出来れば翌8月5日にはセントヘレナに戻っておきたいのだ。


「ふうむ……で、あれば討伐系が良いかな……」


 グレイヴが腕組みをしながら、頷くと大きな声をあげた者が居る。


「ああ、魔物を狩る討伐系なら大歓迎だ!」


 ここで嬉しそうな声をあげたのはカサンドラであった。

 彼女は今迄のルウの指導で腕があがったと確信している。

 その実力を試してみたくて仕方がないのだ。


「おお! ではエドモン様と俺で厳選した討伐系の依頼リストを読み上げようか、ちなみに依頼主は全てヴァレンタイン王国となっている」


「ぜひ!」


「ミンミも討伐系がダントツで希望ですよ!」


「何か悪い……予感」


 クライヴの嬉しそうな表情を見て、美しい顔を顰め、ぽつりと呟いたのがフランである。

 ルウとモーラルは穏やかな表情で状況を見ていた。


 クライヴは全員を見渡すと、手に持った紙を見て、記載された内容を読み上げて行く。


「コホン! まずは南方の火の山に出現した凶悪なファイアドレイク5匹の討伐だ! 完全討伐条件で金貨5,000枚を支払おう。倒した後の奴等の部位も高く売れる」


 ファイアドレイクとは火竜とも呼ばれるドラゴンの一種である。

 火属性の攻撃を全く受け付けず、逆に高温のブレスを吐く強力な魔物だ。


 案の定、ルネが泣き声をあげる。


「ファイアドレイクぅ!? 火属性の強力なドラゴンでしょう? それも5匹なんて無理です、Cランク冒険者には絶対に無理!」


「おおお、おいおい! ル、ルネ」


 大声をあげる妹をなだめるカサンドラであったが、彼女も声が震えていた。

 余りにも難易度の高い依頼に対して怖れを抱いているのは確かである。

 ルネやカサンドラほどではないが、フランも醒めた目でクライヴを見た。


「クライヴさん、私達初ミッションですよ……いきなり初陣でそれですか?」


 しかしクライヴは全く意に介していないようだ。

 その場のクランメンバーに爽やかな笑顔を向けたのである。


「ははははは! クランステッラであれば楽勝だと思うがな! ではヴァンパイアの始祖が居ると噂される放棄された古城の探索と、吸血鬼軍団約500匹の完全討伐で金貨4,000枚というのはどうだい?」


「ヴァンパイアの始祖って不死の魔人でしょう!? 無理、無理、無理ですっ!」


「ぐ、くくく……」


「はぁ…………」


 今度もルネは泣き叫び、カサンドラは大きく目を見開き、フランは大きく溜息を吐いた。


「ふむ! では次だ。深き迷宮に蠢く不死者アンデッドの王リッチーを首魁とする死霊術師達と不死者軍団の完全壊滅で金貨3,000枚!」


「い、嫌です! 死霊術師と腐った死体なんて! 無理です!」


「むう! じゃあこれはいけるだろう! コカトリスの大群約100匹完全討伐が金貨1,000枚!」


 泣き叫ぶルネの連続拒否にクライヴの笑顔も消えている。

 ギルドマスターの不機嫌そうな顔色を見たカサンドラもさすがに不味いと思ったらしい。


「そ、それくらいなら……いけるかも……」


 ミッションを受諾しても良いという意思表示をしかけた、その瞬間であった。

 遠慮がちに言い掛けた姉の声を完全に打ち消す勢いでルネの声が部屋中に響いたのである。


「何言っているのよぉ! 姉さぁん! 私達、石に、カチカチの石にされちゃうよぉ! うわあああん!」


 ここで怒り出したのがミンミであった。


「これも嫌! あれも嫌! とは、何を、贅沢を言っている! そもそも冒険者というものはなぁ!」


 ルネに説教を始めようとしたミンミを手で制したのはルウである。


「ちょっと、待ってくれ! 悪いが、クランステッラは国家公務員である教師の俺達が公務員活動優遇制度により片手間で活動するクランだ。まずはデビューに相応ふさわしい依頼にしてくれないか」


 果てしのない砂漠を彷徨うようなプレッシャーをかけられた中で、優しい言葉を聞いたルネは、オアシスを見つけた商隊のように嬉しくなって、思い切りルウに抱きついていたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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