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第68話 「言質」

 ルウから付呪魔法エンチャントを掛けて貰い……

 ナディアは風の精霊シルフの杖として、新たに念願の愛杖を得た。

 

 複雑な表情のマルコに見送られ、キングスレー商会を出たふたりであったが……

 ナディアがルウの手を引っ張る。


「さあて、買い物もしたし、昼食ランチにしようよ。結構、お腹が空いたからね。今度はボクが君を連れて行くよ」


 そう言い放ち、ナディアはルウの手を引き、どんどん歩いて行く。

 言葉通り、行く店に心当たりがあるようだ。

 

 しかし、ルウはナディアが自分を連れて向かっている方向に、何故か覚えがあるような気がしてならない。


 ―――15分後


 瀟洒な造りの垢抜けた雰囲気。

 看板に薫風亭という文字。

 やはりこの店は、ルウが先日、フランに連れて来て貰った店である。


「ナディア」


「ん?」


店内なかにフランが居るな?」


 ルウが言うと、ナディアはぺろりと可愛く舌を出す。

 ばれた?

 という悪戯っぽい笑みも見せる。


「わぁ、さすがだね。ルウが索敵の魔法以上に凄い魔法を使えるから分かってしまうって校長、いやフランシスカ先生に言われたけど……やっぱりか……どうする? 店を変えるかい?」


「いや変える理由が無いし……お前達はふたり一緒に、俺へ話があるんだろう?」


 ルウの言葉を聞き、ナディアは笑顔から一転。

 真剣な表情で、まじまじとルウを見て、


「ふ~ん。勘が良過ぎるっていうか、ルウがそんな事言うなんて、ボク、想像もつかなかったな」


 感心したように、頷いたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ええと待ち合わせなんですが……」


 レストラン薫風亭の店内に入ると……

 ナディアが支配人らしき男に自分の名前を告げた。

 

 『待ち合わせ』は良くある事らしい。

 支配人は慣れた様子でふたりを奥の席に連れて行く。

 

 奥の席にはルウの指摘通り、フランがひとり、食事を摂らずに待っていた。

 近付くふたりに気付き、フランは軽く手を振った。

 

 当然、周囲の迷惑になるし、マナー違反なので、声を出さずに黙って。

 しかしナディアと一緒の食事というのに、何故か不機嫌そうな様子はない。


「フランシスカ先生、お待たせしました」


「ええ、少し待ったわ。だけど全然辛くなかった」


 フランは嘘をついていない。

 自然な笑顔が証明していた。


「ああ、そうだ。フランシスカ先生、さっき弟君にお会いしましたよ」


 ナディアはフランの顔を見て、先ほどのジョルジュの一件を思い出したらしい。


「え!? ジョルジュに? 何かあったの?」


「ええっと……ボクからはちょっと……」


 歯切れの悪いナディアの言葉を聞き、フランは苦笑した。


 もう、あの子は何か不始末をしでかしたの?

 

 フランは姉として、ジョルジュの性格を知り抜いていた。

 母や姉にはとても優しいが……

 貴族の身分をかさにして、商人や平民にはやたらと威張る。

 反面、小心で、分を弁えず暴走する癖があるのだ。


 ナディアが意味ありげに目配せしたので、ルウが話し出す。

 それを見て、フランは「ほう」と息を吐いた。


 ……もう呼吸いきが合っているじゃない。

 この人って一緒に居ると、女子を楽しくさせてしまうのよね。


 フランはそんな事を考えながら……

 ルウが弟ジョルジュの件を話すのを聞いて行く。

 

 話の内容はといえば、やはり予想した通りであった。

 しかも、ならず者に暴行される所をルウに助けられたと言う。


「そうだったの、ありがとう、助かったわ」


 あ~あ。

 姉弟揃ってルウにお世話になっちゃって……


 フランは苦笑しながら、改めてルウへ礼を言ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ジョルジュの話が終わり、食事となった。

 気心の知れた3人は和気あいあいの雰囲気である。

 

 そして美味しい食事の後は、お茶となり……フランが手をゆっくり挙げた。

 何故なのか、澄ました顔でルウを見つめている。


「では、落ち着いたところで、今日のこの会の趣旨を話しますね……」


 しかし、ナディアもフランと同じく手を挙げた。


「ええっと、フランシスカ先生。ちょっと待って貰えますか……先生とボクの『彼女宣言作戦』なんですけど」


「どうしたの?」


 と、フランが尋ねるとナディアが苦笑し、肩をすくめた。


「このままでは、上手く行きません」


「え? 上手く行かないって、どういう意味?」


「実はルウ先生って『彼女』の意味をしっかり分かっていないんですよ」


「な、何それ?」


 さすがに……

 ナディアもフランの前で、いきなりルウを呼び捨てにはしなかった。

 フランに対する自分の心証を考えての事である。

 

「ボクがつい先走ったのも悪いんですけど……」


 とナディアはフランに頭を下げた。


「ルウ先生は、『彼女』って守る人の事だと思っていて、それはそれでありがたいんですけど……」


 彼女とは守る人……と、ナディアに言われ、フランも納得してしまう。


「そうねぇ……確かに! 私に対してもそうだわ。それ以外の気持ちも持って欲しいよね」


「ですよね!」


 フランの愚痴とも言える呼び掛けに対し、ついナディアも相槌を打つ。

 と、その時。

 

 ルウがフランを呼んだ。


「フラン」


「何?」


「俺、ナディアの事も守らなきゃいけないって分かったんだけど……お前だけじゃなくてごめん」


「もう、ルウったら、うふふ」

「あははは」


 ルウの謝罪を聞き、フランもナディアもつい笑ってしまう。


「おかしいかな?」


 首を傾げるルウを見て、もう我慢が出来ない。

 フランとナディアは大声で笑い出してしまった

 すると、他の客の非難の目が集中した。


「あ、しまった!」


「フランシスカ先生、静かにしないと」


 何とか笑いを堪えて、ふたりは唇に人差し指を当てた。

 いろいろあったが、作戦の仕上げをしなければならない。

 

 実はフランとナディアは事前に打合せをしていた。

 改めてルウから言質げんちを取り、ある約束をさせてしまおうと考えていたのだ。

 

 『作戦』はいきなり始動。

 ふたりの口からは衝撃のお願いが炸裂する。


「ルウ」

「ルウ先生」


「何だ?」


「ねぇ、私達ふたりを貴方の婚約者にしてくれない?」

「そうそう! その通り! フランシスカ先生とボクを婚約者にして」


「う~ん、婚約者って、何か聞いた事はあるけど……」


 婚約者と聞いた、ルウの反応は何故か薄かった。


「ええっと、お前達を守る為には……それ、ならなきゃいけないのか?」


 フランとナディアは唖然として顔を見合わせた。

 『彼女宣言』が通じないのなら、ストレートに、単刀直入に告げたのに……

 ルウには通じないのだ。

 

 多分、ルウは嘘をついていない。

 知っていて惚けてもいない。

 大真面目なのだ。 


 フランとナディアは、状況を理解して頷くと……

 仕方なく咄嗟に作戦を切り替えた、

 『だんまり』で行く事にしたのである。

 

 結果……

 ルウがいくら尋ねても、ふたりは笑うだけで、答えない。

 

 女ふたり無言の圧力に……ルウはとうとう屈した。


「わ、分かった! 必要ならなるよ」


「やった~」

「よっし!」


 ルウの言質を取った!

 またもや大声で叫んだフランとナディアは、遂に支配人から注意されてしまった。

 だが、そんな注意など何処吹く風である。

 

 うきうきするふたりの様子に……

 「何かある」と感じたのだろう、ルウが恐る恐る尋ねる。


「……なあ、一応聞いておいて良いか? 婚約者って一体何だ?」


「ふふふ、じゃあ今度はボクが答えよう」


 ナディアが悪戯っぽく笑い……止めを刺すように告げる。


「婚約者とは、結婚相手の事だよ」


「え? 結婚? 俺が? お前達と?」


「そう! ルウ先生はゆくゆくはボク達と結婚・・するの。ボク達を―――にす・る・の・さ!」


 ナディアが勝ち誇ったように言い放ち、その横ではフランが満面の笑みを浮かべていた。

 そこまで聞いて……

 ようやく意味を理解したルウは大声をあげてしまう。


「えええええっ! 婚約者って? アールヴでいう許婚いいなずけの事なのか!」


「お客様! 先程からお静かに、というのが分かりませんか!」


 度重なる3人の大声に……

 薫風亭の支配人は堪忍袋の緒が切れたらしい。

 腕組みをして、怒りの表情を浮かべていたのである。

ここまでお読みいただきありがとうございます!


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