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第679話 「緊張の接見」

 5枚の大銅貨をあっさりと折り曲げたルウがにっこりと笑い、ミンミ、フラン、そしてモーラルも同じ様に笑う。

 それだけでカサンドラ達に絡んでいた冒険者達は震え上がってしまった。

 爽やかな笑いが不気味なものにしか見えなかったのであろう。


「お、覚えていろ……ひ、ひっ!?」


 ルウが硬貨を曲げた瞬間に冒険者の殆どが脱兎の如く逃げ去り、残った最後の1人もお決まりの捨て台詞を吐いて逃げようとする。

 だが、何故か蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまったのだ。


「ははっ、俺はその台詞セリフが大嫌いなんだ。今後、お前達が俺達に対して必ず仕返してやるぞ!って意味だろう、それ?」


 ルウはそう言うと、動けなくなった冒険者の男に近付いて、使い込んだ革製の兜を被った頭に手を掛ける。


「あ、わわ……」


 悲鳴をあげる男に構わず、冒険者の頭にかかったルウの指がゆっくりと内側に曲がっていく。

 軋むような音が鳴り、冒険者の男はくぐもった声をあげた。

 どうやらルウの魔法で大きな悲鳴もあげられないようにしたらしい。


「芝居などでは見逃してやる場合が多いが、俺は違う。もし俺の女達に指一本どころか、からかったりでもしたら、頭と手足を胴から引き千切って殺すぞ……分かったか?」


 ルウの漆黒の瞳に映った冒険者の男は真っ青になり、完全に戦意を喪失していた。


「約束だ! 女には常に優しく、な」


 冒険者は熱病に侵されたように身体を震わせると力なく頷く。

 ルウは冒険者の頭を掴んだまま空いていたベンチの傍まで行くとそのまま座らせてやる。

 何とか座った冒険者の男は、まるで魂が抜けたようにベンチの背もたれに倒れ込んだ。


 ルウと冒険者のやりとりを見ていたカサンドラがホッと息を吐く。

 以前のカサンドラならルウ達が到着するまでに、ひと悶着起こしていたのが確実であったから彼女も成長したものである。

 しかしだいぶストレスが溜まったのは間違い無い。


「ルウ様! お陰で助かった! でも大丈夫か? 手を出される前に攻撃すると正当防衛にならないのでは?」


「大丈夫だ! なぁ、ミンミ」


「はいっ! ルウ様は女性2人を襲っていた不良冒険者達に注意、警告し、最後は優しく頭を撫でてベンチに座らせました。問題ありません!」


「ははっ、サブマスターがこう言っているから全く問題無いぞ」


 ミンミの言っている事は実際とはだいぶ違うと思いながらも、カサンドラは敢えて反論はしない。

 実際、しつこく絡んでいたのは相手の方だったのだから、これくらい懲らしめてもよいとカサンドラも考えていたのである。


「ははははは! しかしルウ様、ナンパ男は今後このようにあしらえば良いのだな? とても参考になった。ただ私にはコインを一度に5枚も曲げられない。1枚がせいぜいだ」


 カサンドラが満面の笑みを浮かべている傍らでルネは黙って俯いていた。

 無遠慮な男性冒険者にもう少しで身体を触られそうになって嫌悪感を催したらしい。


「ルネ先生、もう大丈夫だぞ」


「ううう……」


 ルウの問い掛けにもルネは言葉を発する事が出来ない。

 しかし、確りとルウの法衣ローブを掴んでいたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「もう! 失礼しちゃうわ!」


 ルウに鎮静の魔法をかけて貰ったルネは完全に復活していた。


「今度来たら、ギタギタにするわ!」


「さあ、こちらです!」


 ミンミがルウの手を引っ張り、どんどん歩いて行く。

 その後から着いて行くフラン、モーラル、そしてボワデフル姉妹。

 魔導昇降機に乗って向かった先は最上階であった。

 最上階の5階はギルドマスター室とマスター専用の応接室となっており、ミンミは迷うことなく応接室の扉をノックした。


「はい!」


 渋い男性の声が答えると、ミンミも大声を張り上げる。


「マスター! クランステッラ、只今、参りましたぁ!」


「ようし! 入ってくれ!」


 入室の許可が下りると、ミンミは即座に扉のノブに手を掛けて回す。

 扉はあっさりと開き、正面の肘掛付き長椅子ソファには栗色の短い髪をした中肉中背の体格で、頬に傷のある鋭い眼をした男が座っていた。


 ルウ、フラン、モーラルの表情は変わらないが、緊張気味なのがボワデフル姉妹だ。

 無理もあるまい。

 冒険者の先輩と言っても彼女達はランクCの冒険者で、サブマスターのミンミに圧倒されているところに、ギルドマスターへの接見まで来てしまったのだから。

 場違いな所へ来てしまった、とばかりにルネが言う。


「姉さん! まさか!? これからギルドマスターに会うの? 私達!」


「あ、ああ! そ、そのようだ!」


「で、でも! バートランドのギルドマスターって、世界のギルドマスターの長でしょう? く、雲の上の人じゃない!?」


「ああ、そ、その通りだ!」


 憧れと不安……

 普段、魔法女子学園では堂々としている2人もやはり冒険者ギルドでは全く勝手が違うのである。

 ここでフランが助け舟をだした。


「カサンドラ先生とルネ先生はクライヴさん、初めてでしたよね。旦那様、紹介してあげましょう」


 ここはやはり案内してくれたサブマスターのミンミに仕切らせた方が良いであろう。

 そう判断したルウはミンミを振り返った。


「ああ、そうだな。ミンミ、頼む」


 ルウから頼りにされる事が至上の喜びであるミンミは、ひと際大きな声で言い放つ。


「ルウ様! 了解しましたっ! ところでマスター、初めてお会いするクランメンバーが居ますので、ご紹介します。カサンドラ・ボワデフル、そしてルネ・ボワデフルです」


「おおっ、それは失礼! 俺がバートランド冒険者ギルドマスター、クライヴ・バルバーニーだ」


 クライブは、すっと立ち上がり、部屋に入ったばかりのルウ達の1番後ろに居たボワデフル姉妹に近付いた。


「宜しく!」


 そして屈託の無い笑顔を浮かべ、大きくごつい手を差し出したのでカサンドラとルネはひどく感動してしまう。


「カカカ、カサンドラです!」「ルルル、ルネです!」


 普段は全く性格が違う2人だが、やはり双子……


 ボワデフル姉妹が噛みながらも、手を差し出すタイミングは全く一緒だったのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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