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第677話 「大公の笑顔」

 ヴァレンタイン王国バートランド、エドモン・ドゥメール邸……


「そうか! 全て上手く行ったのか、よくやった!」


 ルウはエドモンへ今回のロドニア行きの件を説明していた。

 フィリップ・ヴァレンタインへの報告時とは違い、妻であるフランとモーラルも同席している。

 エドモンがクランステッラのメンバーでもある3人で、報告に来るように指示したからであった。


「フィルとボリスの親父さんには相当いじられましたが……爺ちゃんも同じく面白がって書いたのでしょう、あの親書?」


 ルウの言葉を聞いたエドモンは豪快に笑う。


「ははははは! まあな。だが皆、別にお前の事を面白がっていじっておるのではない。儂も含めて全員がお前の事を『頼り』にしておるのだ」


「そうなのですか?」


 エドモンの力強い口調に対してルウの返事は思わず脱力するような調子であった。

 相変わらずなルウの様子を見たエドモンはフィリップの行動を指摘する。


「ははは、どうせ、フィリップの奴はどさくさに紛れてお前にまつりごとへ関わるように誘ったであろう?」


「まあ、一応言ってみようか、という感じでしたがね……」


 アデライドの申し入れにより、ルウの『引き抜き』は厳禁となっている。

 だがフィリップはルウが持つ政治や人たらしの才能を目の当たりにして我慢出来なかったのだ。

 

 約束が破られた!

 

 自分の知らない事実を知り、傍らに控えるフランの頬が不機嫌そうに膨れて行く。


「ははははは! それは擬態だ! あ奴め、9割以上本気で言っておる。もしお前が少しでもその気を見せたら一気に畳み込んで来よう」


「ふ~ん……そんなものですか?」


「ああ、そうだ、儂には分かる。かつてお前の師匠であったソウェルが自分の跡を継がせようとしたのは決して魔法の才能だけではないのだぞ」


「シュルヴェステル爺ちゃんが?」


「ああ、儂もソウェルと全く同じ考えだ。お前の政治の才能を見れば、ドゥメール宗家を継がせても良いくらいだぞ」


「……冗談でも勘弁して下さい」


 ルウが顔をしかめると、フランもルウに同意してエドモンへ噛みついた。


「旦那様の仰る通りです! 大伯父様! 絶対に駄目ですからね!」


「ほう! フランよ、お前が儂にそこまで言うとはな。どんどんアデライドに似てくるな」


 口を尖らせ、頬を膨らませるフランを見てエドモンは微笑んだ。

 気難しいと言われているエドモンであるが、特に怒っている様子はない。


「まあ良い。儂もフィリップ同様、今回の件に関しては褒美を用意しておる。現金は勿論、ルウには特別なものを、な」


 ドゥメール一族の長であるエドモンの言葉は基本的に絶対と言って良い。

 一族の中で唯一意見をするのは姪のアデライドくらいであり、彼の息子達などは絶対服従の態度をとっているのだ。

 大人しい性格と見られていたフランが、ここまできっぱり自分の考えを言うのは意外であった。


 これもルウの影響か?


 エドモンは目を細めてフランの成長を喜んだのである。


 この後……ルウからは更にロドニアの概況について報告が為された。

 それらはヴァレンタイン王国との良好な関係をもたらすであろう事象であり、エドモンは満足そうに頷いたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「それでこの後はどうするのだ?」


 報告が終わったルウ達が出された紅茶を飲んでいると、エドモンがにやりと笑って聞いて来た。


「ええ、クランステッラのデビューですね」


「おお、初陣というわけか! で、あれば、お前達に頼みたい依頼が山ほどあるぞ。お前達クランの特別顧問として儂が調整してやろう」


 特別顧問!?

 特別顧問って何?


 そんなルウ達の視線に対してエドモンは堂々と言い放つ。


「お前達がクラン登録した後、儂も仲間に入れて貰いたくてな。さくっと内緒で登録しておいたぞ」


「…………」


「ははははは! 儂を誰だと思っておる! 最近頂いたのだが、バートクリード様以来となるΩオメガの称号を持つ冒険者ギルドのグランドマスターだぞ」


「…………」


「宿泊先はバートランドでは第一と言われるホテル、ホテルバートクリードのスイートルームを手配しておいた。宿泊費も儂が払っておく。どうしてもホテルが嫌なら儂の屋敷に泊まるのもOKだ」


「あの……大伯父様」


「何だ? フラン」


「デビュー前の何の実績もない冒険者クランが普通、超高級ホテルのスイートルームに泊まりますか? どうかキャンセルして下さい」


「おお、そうか! では儂の屋敷に泊まるのだな?」


「それも……却下です!」


 フランの脳裏にはエドモンの三男ケヴィンの顔が浮かんでいた。

 ルウを連れて行けば、また不毛な引き抜きが行われるのは明らかである。


「はっきり言うわ! やはりアデライドそっくりだ。ははははは!」


 エドモンは自分が指示した事に対してフランが従わない事に怒ってはいない。

 それどころか、いかにも楽しそうである。

 はっきり言ってエドモンは面白がってルウ達をいじっていたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ルウ達はエドモンの屋敷を出た後、馬車で冒険者ギルドへ向っている。

 こちらもルウが固辞したが、エドモンから宿泊手配の申し出を受けない代わりに厳命されてしまったのだ。


「もう! 大伯父様ったら! 特別顧問って何!? それも内緒で登録って」


 まるで子供のようなエドモンの行動にフランは呆れ顔である。

 だがルウは苦笑しながらも理解を示している。


「爺ちゃんは俺達と繋がっていたいんだろう? 冒険者繋がりなら尚更だ」


「それは分かりますけど……」


 フランはまだ口を尖らせていた。


「まあまあ、フラン姉。こうなったらある程度甘えちゃいましょう。この短期間で効率よくこなせて、見返りのある依頼なんてそうそう無いですからね」


 モーラルがフランをなだめると、漸く彼女も納得したようである。


 やがて……馬車は冒険者ギルドの正門前に到着した。

 入り口にたたずむ1人の女剣士が居る。


「ルウ様ぁ!」


 菫色の瞳、輝き揺れる長い金髪、独特の整った顔立ちにやや尖った耳……バートランド冒険者ギルドサブマスターであるミンミ・アウティオであった。


 大きな声で叫ぶミンミを誰もが注目してしまう。

 美貌のアールヴ魔法剣士がこころを寄せる相手は誰なのだと?


 ルウが馬車を降り立つと、ミンミは人目も憚らず、彼の胸へ飛び込んだのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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