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第666話 「闘う街で③」

「もう! 貴方ときたら往来でぺらっぺら、ぺらっぺらと! 家族としてのデリカシーというものがないの!?」


「す、済まない!」


 ロドニアの騎士イグナーツ・バプカは婚約者であるカリナ・ドレジェルに散々、説教を食らっていた。

 昨日、カリナの姉であるマリアナがルウに対して自分の気持ちを告白した事を往来で暴露したからである。

 それにしても、カリナの糾弾は傍で見ていても激しい。

 イグナーツより年下で体格も小柄なのに全然臆したところが無いのだ。

 なかなかどうして見事な『かかあ天下』っぷりなのである。


 その様子を見ていたルウの妻たちの視線が、暫くすると一斉にフランに注がれた。


「な、何!?」


 慌てるフランに対して口を開いたのはナディアである。


「ええと……ボク、ふと思ったけど……」


「だから、何?」


「フラン姉もいずれはカリナさんみたいになるのかなって?」


「はぁ!?」


 フランは何を馬鹿な事を!というように周囲を見回すが、全員が疑惑の視線で見詰めている。

 ルウとの馴れ初めを聞いた他の妻達はフランが命令して、彼が教師になったのを聞いて驚いていたからだ。


「私は! ああはならないわ! ……多分……」 


 最後は消え入りそうな声で否定するフラン。

 そこへ……


「私がどうかしましたか?」


 いつの間にか、カリナが腕組みをしてフラン達を凝視していたのである。


「「「「「「「「「「いいえっ!」」」」」」」」」」


 ここで肯定などしたら、大変な事になる!

 フラン達はカリナの問い掛けに対して、一斉に否定したのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ここは先程ルウ達が居た場所に隣接する公園である。

 ここでは相変わらずアームレスリングと相撲が行われていた。

 その中で、とある大きな酒樽を挟んでルウとイグナーツが向き合っている。

 これから2人はアームレスリングの勝負をするのだ。


 こうなったのは全てイグナーツのこだわりであった。


 そもそものきっかけは今、傍に居る戦士バルバに完敗した事である。

 初めてリーリャをヴァレンタイン王国へ護衛した際に、国境ともいえるガラヴォーグ川にかかる橋上にて、悪魔バルバトスが擬態した人間の戦士バルバと戦った時、イグナーツは『瞬殺』されていたのだ。


 あまりにもあっさりと負けたのであまり現実感は無いが、イグナーツのショックは大きかった。

 バルバとはいずれ再戦してみたいと考えてはいたが、何となく勝負を受けてくれそうもない雰囲気を相手は醸し出している。


 幸いバルバの主人であるルウと親しくなっていたことから、イグナーツはさりげなくルウの『強さ』を聞いてみた。

 聞いた相手は当然バルバである。

 イグナーツに質問されたバルバは一瞬目を閉じた上で即答した。


「ふ! ルウ様から見れば俺など赤子だ」


 赤子!?

 このバルバが赤子!?


 イグナーツはバルバの顔をまじまじと見たが、元より嘘をつくようなタイプではない。

 かといって主人を必要以上に持ち上げているようにも見えなかった。


 では!とイグナーツは決意した。

 ルウと勝負をしてみようと!


 しかし、真剣勝負などして相手を傷つけたり、万が一殺してしまっては禍根が残る。

 ルウは平民とはいえリーリャ王女と結婚する男であり、イグナーツから見れば身分を越えて主筋となる相手なのだ。

 それにイグナーツは友としてルウが好きであった。

 これほど私利私欲がなく、さっぱりして義理人情に厚い男など、他には居ない。


 そして考え抜いた結果がアームレスリングでの勝負なのであった。

 アームレスリングにおいてもやり方が荒っぽければ腕を痛めたりする可能性はある。

 しかし生き死にのやりとりまでにはならない筈だ。


 少し迷ったが、イグナーツはルウへ勝負を申し込んでみた。

 最初はあっさりと断られたが「もやもやして我慢が出来ない」と何度か食い下がると、ルウは漸くOKを出してくれたのである。


 勝負をする事が決まったところ、周囲からは当然の事ながら賭けの声があがる。

 ロドニア人はダイスやカードの賭け事よりも、このように肉体を使った勝負事に賭けるのが大好きなのだ。

 このような時は必ず場を仕切る者が出てくるのが常である。

 名乗り出たのは勝負に使う酒樽の持ち主で、審判役を兼ねていた人間族の中年男であった。


「よおし! 俺が仕切らせて貰おう! 皆、金額がばらばらだと面倒だ! 一口金貨1枚で統一する!」

※金貨1枚=約1万円です。


「じゃあ俺は戦士に金貨1枚だ!」


「じゃあ俺も、戦士に金貨1枚賭けよう!」


「同じく戦士に金貨1枚!」


 周囲の男達は皆、イグナーツに賭けるようである。

 これでは賭けが成立しない。


「おおい! 魔法使いに賭ける奴はいないのか?」


 胴元の男は歯噛みしながら、大声を張り上げた。

 それを聞いて、既に賭けた男達から笑い声が起きる。


「何だよ、親爺! だったらお前が賭けてみろよ、魔法使いに!」


「…………」


 胴元の男は黙って首を横に振り、腕組みをしている。


「は! つまらねぇ!」


「何だよ!」


 男達は胴元へ罵声を浴びせるが、彼等だって同じようなものだ。

 ルウとイグナーツは体格差を見たら、膂力の違いは一目瞭然に見えたからである。

 当然勝負の行方も然り……であった。


 しかし!


「私が旦那様に賭けましょう!」


 凛とした声で名乗りをあげたのはフランである。

 こうなるとルウの妻達はどんどん名乗りをあげた。


 ジゼル、ナディア、オレリー、ジョゼフィーヌ、モーラル、ラウラ、エレオノーラ……そしていつの間にか異界から来たエレナまで……

 そしてバルバトス等、従士達3人も参加したので何と金貨12枚がルウに賭けられた事になる。


 これを見た胴元の男はしめたとばかりに、下卑た笑いを浮かべたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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