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第664話 「闘う街で①」

 ルウ達がロドニア王国の王都であるロフスキに入ってから7日余りが過ぎていた。

 

 ルウは既にリーリャとの結婚を許され、加えてヴァレンタイン王国から命じられたロドニアの魔法学校の創設の公務もボリスに了解を貰ったので、山場は越えている。

 そして本物のリーリャと、彼女に擬態したアリスとの『交代』も無事に終わって、この旅の9割以上の目的は果したと言って良いだろう。


 その間、フラン達はロフスキの観光を充分に楽しんでいた。

 ルウも忙しい公務の合間を縫って、彼女達に付き合ったので食事、買い物などを存分に堪能出来たのである。

 

 今日は新たに妻となったラウラ・ハンゼルカも、グレーブ・ガイダル騎士団長の娘で婚約者となったエレオノーラも加わっていて、フラン達に全く違和感なく溶け込んでいた。


 しかしロフスキは街として独特のカラーを持っていたのだ。

 街を散策するルウ達は毎日特別な『洗礼』を受けていたのである。


「おお、い女達だな!」


 あちこちに傷がある金属製のごつい鎧を纏った戦士風の男が、いきなりルウ達の前に立ち塞がった。


「何だ!? 男連れか?」


 戦士の男はルウを認めるとねめつけるような視線を送って来る。


「だったらお前、俺と勝負するか? 女を賭けてよ」


 ここでもし『結構』などと言ったら大騒ぎになるという。

 結構=了解=勝負の受け入れという意味だからだ。

 当然ルウは断固とした拒否の意思表示をする。


「悪いがこの娘達は全員俺の嫁なんだ、断る!」


「ふん! 仕方が無い。人の妻であれば諦めるしかあるまいよ」


 ロドニアの法律でおおっぴらに他人の妻を誘惑する事は禁じられていた。

 さすがに創世神の教えは絶大であった。

 男は歯軋りすると悔しそうに去って行く。


 暫く、街を歩くと今度は派手なつくりの革鎧を纏った逞しい女戦士が現れる。


「ほう! 強そうな男だな。私に勝てば、この魂と美しい肉体はお前のものとなろう! 勝負してくれないか?」


 声を掛けられたのはルウ……ではなくアモンであった。


「……悪いな、仕事中だ」


 寡黙なアモンがぽつりと呟くと女戦士はあっさりと諦め、大袈裟に肩を竦めて去って行く。

 どうやら女戦士の意図はいわゆる逆ナンらしい。

 去って行く女戦士の後ろ姿を見ていたフランが苦笑する。


「旦那様……漸く慣れましたけど、ここは凄い街ですね」


 フランは以前研修でロドニアへ来たのだが、王宮で魔法について講演したのみである。

 その時はこのように街中を歩いてはいなかったのだ。

 ちなみにラウラは丁度他国へ出張しており、残念ながらすれ違いであった。


「ああ、ロドニア王国は力こそ正義! 強さこそ誇り! それを信条として切磋琢磨している者が多いからな」


「旦那様、それは男女とも変わりなしなんですね」


 フランが確かめるように問うが、それは先程の男女の戦士を見れば明らかであった。


「ああ、男はい女を力で得る事を正義とし、女は強い男を伴侶とする事を誇りとするからな」


「ヴァレンタインと大違いですわ」


 ルウとフランの話を聞いていたジョゼフィーヌも苦笑いだ。

 今度はオレリーの目が遠い。


「最初、リーリャにこの街を案内して貰った時には吃驚しましたけど……」


 オレリーの言葉を聞いたルウ達はロフスキへ来て、リーリャに初めて案内して貰った時の事を思い出していた。


 ちなみに今、この場にリーリャは居ない。

 久し振りに帰省した『実家』で家族の団欒を楽しんでいるのだ。

 明後日あさってに開かれる内輪の結婚祝いにはルウの妻達は全員招待されている。


 アリスに擬態したリーリャの先導により、初めてロフスキに観光目的で入った妻達の印象はロドニア人がやたら逞しいというものであった。

 元々ヴァレンタイン人に比べてロドニア人の体格はふたまわりほど大きい。

 力を尊ぶだけあって騎士の地位が上なのは勿論、冒険者にしても戦士タイプが圧倒的に多いのだ。

 今迄に訪れたロドニアの町や村に比べて異邦人が圧倒的に少ないのも逞しいロドニア人が目立つ原因でもある。


 案内に立ったリーリャはロドニア人の気質について教えてくれる。


「ロドニア人は勝つ事は勿論必須ですが、強い相手と競ったり、争う事が好きなのです」


 競う!

 争う!

 そのような勝負が好きなのには原因があった。


 ルウはずばりと言い放つ。


「かつて栄華を誇った北の神々の影響だな」


「はい! なかでもロドニアの騎士の獰猛さはあらぶる北の戦神を称えるところから来ているのです」


 北のあらぶる神々は南の洗練された神々とは好対照である。

 奔放な行いから滅びを招いた南の神々に対して、戦いに明け暮れた北の神々は世の終末を招くほどの大戦争で滅びてしまったのだ。


 妻達が歩きながら気になったものがあった。

 大きな酒樽の上に腕をのせて2人の戦士が睨み合っているのである。

 その周囲には人だかりが出来て双方に声援を送っていた。

 フランが思わずルウに問う。


「あ、あれは?」


「おお、アームレスリングだな」


 ルウが即座に答えると、寄り添っていたリーリャの表情が笑顔から一転し、心配そうなものに変わる。

 無謀なアームレスリング勝負を仕掛け、敗北した兄ロディオンの現状が気になったらしい。


「お兄様……今頃、セントヘレナで何をしていらっしゃるのかしら? お元気でしょうか」


「ああ、この前も言ったが、鋼商会カリュプスは皆、良い奴さ。そういえば、この前はメラニー・バラボーが柄の悪い冒険者に絡まれているのを助けて、名も告げずに去ってしまったそうだぞ」


「メラニーを助けた!? わぁお! そうなのですか! 私も鋼商会カリュプス様にお会いしてみたいです! セントヘレナに戻ったら、お兄様がお世話になった御礼も言いたいですし!」


「ああ、今度紹介しよう」


 ルウ達が周囲を見ると、ちょっとした公園があって、あちこちで人だかりが出来ている。

 樽を置いて闘っているアームレスリングは相変わらず多かったが、中には組み合っている者達も居た。

 組み合うといっても、激しくぶつかり合い、吐く息は荒い。


「ええっ!? 喧嘩?」


 今度はナディアが驚いた。


「うふふ! 違いまぁす! お相撲ですよ」


 得意げに答えたのは当然、リーリャである。


「相撲!?」


 リーリャによれば、アームレスリングと並んで純粋に力比べをするのに適した勝負方法が力と肉体を武器にした相撲だという。


 ずし~ん!


 地響きをたてて、組んでいた男が投げ飛ばされた。

 投げた男は力を誇示するようなポーズを取る。

 これまでは、とても分かり易い勝負である。


「そして……このロドニアの最大の娯楽が闘技場なのです。人間対魔物、もしくは人間同士の勝負が頻繁に組まれます」


 ヴァレンタイン王国の王都セントヘレナには闘技場がない。

 ここでルウが例えを出してくれた。


「人が魔物と戦うのは狩場の森と一緒だな」


「そうです! 人間同士の場合は武器を所持させず、今見た相撲での勝負となります」


「お、面白そうだ! 行ってみたいぞ、旦那様!」


 闘技場と聞いて、武技&格闘技好きなジゼルがずいっと身を乗り出す。

 ジゼルの笑顔を見たリーリャは思うところがると見てにっこりと笑う。


「闘技場はお父様が大好きなのです。ジゼル姉はきっとお父様と話が合うと思いますよ! 私は格闘技がそれほど好きではありませんが、良く連れていかれました……私が挨拶をする時、結構盛り上がるのです」


 リーリャの言葉を聞いたルウ達は、父ボリスに紹介された可憐な王女が立ち上がって挨拶すると、闘技場が歓声で揺れるのを容易に想像出来たのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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