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第663話 「不器用な魔法使い」

「ではルウ様、失礼致します! 月に1回は鳩便で手紙を出しますので! まあ、ラウラも頑張れよ!」


 マリアナ・ドレジェルは自分の気持ちを伝える事が出来たので、ラウラにエールを送ると嬉しそうに手を振って去って行った。

 彼女が部屋を出て扉が閉まってから、ラウラ・ハンゼルカは何故かどっと疲れが出て「ふう」と息を吐いたのである。


 ラウラは真っ直ぐで大胆なマリアナが羨ましくて仕方がなかった。

 歴戦の騎士として今迄に何度も修羅場をくぐっただけあって度胸が据わっており、いざという時には自分の意思をはっきり伝える事が出来るのだ。


 自分の気持ちに忠実なマリアナに対して、この私は一体何だ?

 

 ラウラは自問自答する。

 情ない事だが、最近はルウに対して愚痴ばかり言っているような気がするのだ。

 魔法の師匠である事もあって、当初魔法の指導に全く関係ない私的な事は一切話していなかったが、ルウから何でも話して良いと了解を貰ってからは、全く遠慮していない。


 こんなに愚痴だらけの女なんて……

 私がもし男だったら絶対にお断りだ!

 そ、そうだ!

 この場の空気を変えよう!

 何か、違う話題を話さないと!

 ええと……


 ラウラが考えているうちに、逆にルウがはたと手を叩いた。

 何かを思い出したようである。


「ああ、そう言えばモーラルが言い過ぎたから、お前に謝りたいと言っていたぞ」


「え!? モーラルさんが?」


「ああ、この前ラウラに対して、ずばずば言ってしまったけど、いくら他人に辛い経験があったって簡単に自分へ置き換えられるわけがないってな」

 ※第495話~496話参照


 先日、ラウラが落ち込んでいた時に叱咤激励してくれた事を言っているのだろう。

 あの時はモーラルの言葉で立ち直れたとも思っているのに、彼女は言い過ぎたと反省しているらしい。


「そんな!」


「あいつ、どうか許して欲しいってさ」


「で、でも! 私が詰まらない事で落ち込んでいる時に励ましてくれました、彼女は! 私、小さな事で悩んでいる自分が馬鹿らしくなって切り替える事が出来たのですもの」


 ラウラが必死に訴えたので、ルウもモーラルの考え過ぎなのだと理解したようである。


「そうか! だったらモーラルもお前の役に立ったと伝えておくよ」


「そんな! 私の役にたったどころか凄い恩人です!」


「ははっ! それを聞いたらモーラルも、とても喜ぶぞ」


 ルウはそう言いながら、いきなり手を伸ばして来た。


「え!?」


 な、何!?

 もしや!?

 あ、あれを?


 異界での訓練時にラウラは見ている。

 ジゼルやジョゼフィーヌが頭を撫でられて気持ち良さそうにしているのを、だ。

 傍で見ていたラウラに興味はあったが、妻でもない大人の自分が、このような愛撫をルウにおねだりするわけにはいかない。

 あのような行為は妻という立場で、且つ美少女だからさまになるのだ。


 しかし今、ルウの手は確実に自分の頭に迫っていた。


「よしよし、ラウラ……」


「ひいいいい……い! あきゃあああ……」


 あ、あれ!?

 何? この感覚!

 温かくて優しい!


「ラウラ、お前だってずっと頑張って来たんだ。魔法に人生の全てを賭けてな」


「あ、うううう!? あああ、……き、気持ち良い!」


 ラウラは思わず吃驚して大きな声をあげたが、それは段々違う声へと変わって行ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ルウ様! え、ええと……ボリス陛下とのえええ、謁見は上手く行ったのですよね?」


 ルウからの頭への愛撫で恍惚となったラウラは、我に返ると恥ずかしくて堪らなかった。

 かといって折角、2人きりになった機会チャンスである。

 何とかルウと話す話題はと考えた末に、ラウラはボリスとの謁見の話をせがんだのだ。

 魔法を華麗に発動する時と違って、とてもぎこちなく不器用だがラウラ自身はルウと話したくてうずうずしているのである。


 謁見の中でも、特にロドニアに魔法学校を創設する話は絶対に聞き逃せない事だ。

 しかもルウの様子だと全てが万事、上手うまくいったらしい。


「ああ、ばっちりだ! ヴァレンタイン王国の援助で創設する魔法学校も契約書に署名して了解を貰ったぞ。それも『ルウに一切任せる』ってお墨付きまでついているんだ」


「ルウ様に一切任せるって……凄いですねえ!」


 ルウが話した事はラウラの予想以上に素晴らしい結果であった。

 何と、ルウに与えられた権限が考えられないくらい大きいのだ。

 そして話は学校創設の際に進められる具体的な準備内容に変わって行く。


「ああ、最初はヴァレンタイン王国から教師が赴任するが、徐々にロドニアのスタッフも増やす予定だぞ」


「ロドニアのスタッフ……」


「ああ、ラウラ。お前がヴァレンタイン魔法大学の留学を終えるくらいのタイミングで、ちょうど教師として赴任出来るのではないかな。ロドニアの魔法教育の明日はラウラに掛かっているぞ」


 明日のロドニアの魔法教育はラウラにかかっているって?

 ルウ様は私に少しは期待してくれているのだろうか?


「私にかかっている?」


 ラウラは確かめるようにルウの言葉を繰り返した。

 ルウは肯定するという意思表示で大きく頷く。


「ああ、お前ならロドニア魔法学校のトップを目指せる。 目標は校長かな、いや大きく理事長だな!」


 ロドニア魔法学校の校長……いや、理事長!

 凄い響きだ!

 それって目指している夢の第一歩!

 私はロドニアの魔法教育の長を目指していた筈……


 だけど……

 さっきのマリアナじゃないけど……


 ラウラの中に先程のマリアナの言葉がリフレインする。


『だが、ときめかない! 憧れのロドニア4騎士の1人になるのに胸が全くときめかないのです』


 私も……やっぱりときめかない!

 目指していた魔法学校の幹部の話なのに……胸が全くときめかない!

 それは……何故!?


 しかしそんなラウラの思いと裏腹に話は進んでしまっている。


「お前の努力次第だが、この学校の理事長はお前しか居ないのではと、俺は思うぞ」


「は、はい……私、頑張り……ます」


 ラウラは何とか声を絞り出すように返事をした。

 彼女の声は掠れ、ルウの顔をまともには見ていない。

 

「そうか! お前の気持ちは良く分かった」


「え?」


 ルウのいきなりの言葉にラウラは驚いた。

 そして真意を探るような眼差しでルウを見詰めたのである。

 ラウラに見詰められたルウはいつもの穏やかな表情だ。


「分かったと言ったのさ。お前の気持ちが納得しないのであれば、無理にロドニア魔法学校の幹部を目指す必要はない」


「ルウ様!」


 やはりルウはラウラの気持ちを見抜いていた。

 そして!


「それより一緒にヴァレンタインに帰ろう。なあに、ボリスの親父さんの許可はもう取ってある」


「え? 親父さんって!? 陛下の許可を? 何の許可ですか?」


 この人は……

 ルウ様は一体何を言っているのだろう?


 ラウラは思わずぽかんとしてしまう。


「ああ、当然お前をめとる許可さ。ラウラ、俺の嫁になってくれるかい?」


「えええええっ!」


 夢にまでみた欲しかった言葉がラウラに投げ掛けられた。

 それも1番、望んでいる相手からである。

 ラウラにとって最も愛しい人は優しい笑顔で自分を見詰めていた。


「俺と同じで不器用な魔法使いは、皆で助け合って生きていくべきさ。おいで、ラウラ」


 ラウラはもう迷わなかった。


 大きな声でルウの名を呼んで、彼の胸へ飛び込んで行ったのだ。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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