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第651話 「友情の回復⑥」

 ルウとバルタザールが去った後の異界……

 辺りには2つの強大な魔力波オーラが満ちていた。


『やはり、な』


『……人の子とは分かりません! まさか最高の名誉である聖人になるのを放棄するとは……』


 いきなり厳かな声と凜とした声が交錯する。

 不可解な事象を考え込んだのであろうか、暫しの時を経た後に、厳かな声が達観したように言う。


『人の子とはしゅが自分に似せてお創りになった。我々が主の全てを知り得ないように人の子も理解するのは無理かもしれぬ』


『…………』


 厳かな声の問い掛けに凜とした声は答えない。

 もしくは答えられないのかもしれなかった。

 しかし、厳かな声はさほど気にせずに話を続けている。


『人の子はあの日から原罪と共にある。辛さを伴う罪から一生逃れる事は出来ない。しかしそれは彼等の幸福と表裏一体でもある』


 厳かな声がそう言い放つと、今度は凜とした声も喜びの感情でそれに応えた。


『はい! 愛とこころざしを持ち、原罪を乗り越える事で人の子は無限の可能性を見せて行く。今、私はその姿を目の当たりにしました……やはりこの場に残るお許しを頂いてよかった』


 凛とした声が納得した様子なのを見て、厳かな声がぴしりと指摘する。


『それだ!』


『は!?』


『今のお前のこころの事だ。我々、天の使徒は主の定められた秩序と調和のことわりに乗っ取り、粛々と役目を果たして行く。本来ならばそれ以上でもそれ以下でもない』


『…………』


 厳かな声が告げたのは彼等天の使徒自身のことわりである。

 しかし、またも相手は無言であった。

 彼自身、その理から外れている事を自覚しているからかもしれない。


『だが我々・・は、人の子の可能性を見たくなった。それは否めない事実であり、我々にとっても新たな可能性が示されたといって過言では無い』


 ここで厳かな声は『我々』と強調した。

 厳かな声自身も、他の使徒同様に感じていたようである。


『天使長……』


『私には分かる。それが主の御心なのだということが、な』


『はい!』


 凛とした声は力強く答える。

 自身が感じていたものは錯覚や誤りではなかったのだ。


『告げる者や癒す者も同じ様だ。だが照らす者よ! 世の終末を告げるという、お前を遣わしたのは、主が人の子に対して大きな試練を与える為かもしれぬ』


『…………』


『では我々も行くとしよう!』


『は!』


 いきなり2つの魔力波が消え失せる。

 暫くすると異界は大きく歪み、徐々にその姿を消して行った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ロドニア王国王都ロフスキ、バルタザール・フェレ公爵邸……


 バルタザールは永き眠りからとうとう目覚めた。

 ずっと閉じられていた彼の目はゆっくりと開いて行く。


 誰かが……居る!?


 バルタザールは人の居る気配を感じて視線を向ける。

 果たして……傍らに置かれた椅子に座っている者が居た。


「ははっ、目が覚めたみたいだな」


「おお、君は……」


「はい! ルウですよ、バルタザールさん」


「ふふふ。私は君のこころを見た。だから……呼び方を変えて貰おうか……ヴァレンタインの宰相がフィルなら……バルと呼んでくれ!」


 バルタザールは珍しく悪戯っぽい表情で笑っている。

 ささやかながら、フィリップ・ヴァレンタインに負けまいとする対抗心が芽生えたようだ。


「了解! ではバル! 今日から貴方はロドニアの宰相に戻る。覚悟はいいな?」


「当然だ! 私はボリス、グレーブ、そしてロドニアと共にある!」


「ありがとう! 貴方は信じられる人だ。敢えて茨の道を歩む事を選択してくれた」


「いや! 私に言わせれば君……こそだな。私には良く分かったんだ。これからもロドニアの……いやこの世界の為に頼む!」


 ルウは黙って頷いた。

 相変わらずルウには自分が何者かという確信がない。

 ただ、自分が使う魔法が、人の役に立っているという手応えはあった。


 それは彼が今迄接して来た人々の笑顔によるものだ。

 目の前のバルタザールの笑顔もまたその中に加わったのである。


 窓から見える空がほんの少し明るくなって来た。

 夜が明ける気配が2人を包んでいる。


 バルタザールがゆっくり起き上がると、ルウの姿はいつの間にか消えていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ご主人様がお目覚めだぞ!」


「今日から王宮へ出仕されるそうだ!」


「気合を入れて仕事をするぞ!」


 バルタザール・フェレ邸の朝は久し振りに活気に満ち溢れている。

 屋敷の主人が長い患いから、回復したのでモチベーションが上がっているのだ。


 暫し前に王宮からの遣いが来て、宰相として出仕するようにとの通達があったので彼等のボルテージは上がる一方であった。

 主人が永い眠りについていたのと同様に、彼等も眠っていたのだが、当然自覚は無い。


「ご主人様がお召しになる物の準備は整ったかぁ!?」


「はいっ!」


 大声を張り上げる家令は当然、あのラティオではない。

 以前から忠実に仕える老齢の男である。


 その瞬間であった。

 いきなり表が喧騒に包まれる。

 様子からいって尋常ではない騒ぎのようだ。


「どうした!?」


 家令が大声を張り上げ、数人の使用人を伴い表に飛び出して行く。

 そこで彼が見たのは信じられない光景である。


「おお、バルを迎えに来たぞ!」


 屋敷の入り口の前に立っていたのはルウと騎士団長グレーブを伴った国王ボリス・アレフィエフその人であったのだ。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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