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第65話 「威圧」

 大笑いするナディアを見て、


「ナ、ナディア様! 何故!? そんなに笑うのですか!?」


 フランの弟ジョルジュが悔しそうに歯噛みする。

 そしてルウを指差し、吐き捨てた。


「この野郎! 皆、お前が悪いんだ! 第一……何だ? 姉上の下僕の癖に、どうしてナディア様と一緒なんだよ?」


 ジョルジュの質問を聞き、ルウに代わって、ナディアが答える。


「うふふ、簡単さ。彼はボクの学園の先生だもの。そして生徒会の顧問をして貰っているんだ」


 だが、ジョルジュも納得せず反論する。


「はぁ!? ナディア様ったら、冗談がきついですよぉ!」


「冗談? 違うよ、全て事実さ」


「駄目です! 貴女みたいな美しく高貴な女性ひとが、このような下民などと一緒に居ては、絶対にいけません!」

  

 しかしジョルジュがいくらナディアを問い質しても……

 ルウが生徒会の顧問という……

 厳然たる事実のロジックを中心に持ち出し、ナディアは全く動じない。

 それどころか……

 速射砲のように撃ち出されるナディアの巧みな弁舌に、ジョルジュは為す術もなく打ち負かされてしまう。

 

 そして、遂にジョルジュが『止めを刺される時』がやって来た。


「それにジョルジュ。ボク、君の姉上の許可だって、ちゃんと貰っているよ」


「え、ええっ! あ、姉上が!? うぐぐぐぐう……」


 「姉の許可を取った」と聞き、ジョルジュはとうとう黙ってしまった。

 同級生の無様な?状態を見て、他の男子学生達がはやし立てる。


「おいおいジョルジュ。何だよ、そのざまは?」


「情けないぞ! 女ひとり、口説けないなら俺が代わってやるぞ」


「ち、畜生ぉ! こうなったら決闘だぁ!」


 仲間の激しい野次に耐えかねたジョルジュは自棄になり、とうとうぶち切れて大声で叫ぶ。

 聞いたルウは苦笑し、肩をすくめた。


「ナディア?」


「え? 何?」


「この国の奴って、すぐ決闘したがるんだなぁ……」


 ルウの言葉を聞き、いきり立つジゼルの姿が脳裏に浮かんだのか、

「ふふふ」とナディアは含み笑いをした。


 片や、怒りが頂点に達したジョルジュは、とんでもない事を言い出す。


「おい、下僕! 勝った方がナディア様をエスコートするぞ!」


 突如勝手な宣言をしたジョルジュに対し、驚いたナディアは本音を交えて抗議する。


「じょ、冗談じゃないよっ! ボクはルウ先生が良いんだ」


「う、うるさいっ! 俺が今、決めたんだ!」


 聞く耳を全く持たないジョルジュ。

 

 「もう!」とナディアは口を尖らせた。

 そして困った顔をして、ルウに目で合図をしたのである。

 

 ナディアから懇願されたルウとしても、これ以上、ジョルジュに好き放題言わせるわけにはいかなかった。


 ルウは頷くと、「ずいっ」と前に出る。

 

 驚いたジョルジュが後に下がった。

 姉フランの下僕であるルウが、まさか歯向かうとは……

 全くの想定外なのだろう。


 何の事はない。

 ジョルジュは貴族である己の面子メンツを潰されたと思い込み、勢いに任せ、放言しただけだ。

 戦う前から勝負は見えており、所詮負け犬の遠吠えにしか過ぎなかった。


 と、その時。


「おい餓鬼共、その女達を勝手に連れ出しやがったな。どういうつもりだ?」


 いつの間にか、凶悪そうな面相の男達が周りを囲み、鋭い目付きでジョルジュ達を睨んでいた。

 その数、10名……


「えっ!?」

「う、うわっ!」

「お、おいっ、やばいぞ!」


 ジョルジュの後ろに居た4人の男子学生は、不穏な空気に対し、明らかに動揺していた。

 彼等は貴族の子弟らしいが、ジョルジュ同様、見栄のみで虚勢を張り、恐怖に耐えようとしていたのである。


「な、何だよ! お、お前等?」


 ひとりの男子学生が震える声で何とか言い返した。

 だが、その瞬間、最初に言葉を発した髭面の男に、思い切り平手打ちを喰らって無様に地へと倒れた。


「ああっ! ド、ドニ!」


 ドニと呼ばれた生徒に駆け寄ろうとするジョルジュ。

 連れられていた女達も叫ぶ。


「も、もうやめて! 相手はまだ子供なんだからさ」


 髭面の男はドニに近付いて、構わず足蹴にし出した。

 それを女のひとりが庇おうとする。

 もしや髭面の男の情婦なのだろうか? 

 だがその女も、男に腹を蹴られ倒れてしまう。


「ル、ルウ先生!」


 ナディアが縋るような目でルウを見上げた。

 ルウは分かっていると言ったように頷くと、ひと言呟いた。


「まあ、任せろ」


 そして髭面の男達とジョルジュ達の間に割って入ったのである。


「何だぁ、てめぇは?」


 目の前に立ち塞がったルウに対し、髭面の男はねめつける様な視線を投げ掛けた。


 しかしルウは全く動じない。


「お前達に名乗る名など無い」


 ルウの言葉を聞き、髭面の男の背後に居た手下達が、

「馬鹿にしやがって!」と叫び激高する。

 髭面の男は手で彼等を制し、口元に皮肉な笑いを浮かべる。


「おい! 女の前だと思って格好をつけるなよ。相手を良く見てから物を言え」


「ははっ、その言葉をお前にそっくり返してやろう。俺を良く見てモノを言え」


「はぁ? お前を見てモノを言えだと? 血迷ってるのか、くそ餓鬼め!」


「髭! 相手は餓鬼だ。女共々許してやれ」


 怪訝な顔をする男に、ルウは「ずいっ」と前に出た。

 そして、いつものように穏やかな笑みを浮かべ、口を開く。


「俺はお前みたいな男が大嫌いだ。女を食い物にして、暴力を振るう最低男がな」


 ルウは更に「ずいっ」と前に出る。

 何と!

 髭面の男が少し後ずさる。

 

 ルウの言いようの無い迫力に押されているらしい。


 髭面男の手が、懐でもぞもぞ動いている。

 きっと刃物か何かを取り出そうとしているのだろう……

 反撃の機会を窺がっているのは明らかであった。


 しかし!

 男の手はそのまま動かない。

 何と、硬直して動かないらしいのだ。


「て、て、てめぇ!? な、何をしたぁ!?」


「ふふふ、死んでみるか?」

 

 ルウの口角がすっと上がり、口元には冷酷な笑みが刻まれた。

 

 髭面の男の額に、「どっ」と汗が吹き出した。

 

 そういえば……

 最近、仲間内で噂になっている者が居た……

 男は、その風貌を急に思い出したらしい。


「お、思い出したぞぉ! そ、その黒髪に黒い瞳と背格好! う、噂になっていたんだ」


「…………」


「ま、まさかお前は! 蠍団スコーピオンズと事を構えた餓鬼なのかぁ?」 

 

 しかし、ルウは笑ったまま答えない。


「あ、あいつら、け、煙のように消えちまった。まるで神隠しだ」


 その時、髭面男の心に冷たい声が響いた。

 魂に直接呼び掛ける『念話』である。


『ふふふ、お前達も同じ目に遭ってみるか?』


 ルウの目が細められ、漆黒の瞳から放つ視線が男を射殺すように投げられる。

 髭面男は悲鳴さえ発する事が出来ず、ぺたんとその場に座り込んでしまう。


「さあ、次はどいつだ?」


 ルウは辺りを睥睨へいげいする。

 

 だが……

 その場でルウに反抗しようとする声は、一切起きなかったのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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