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第615話 「ロフスキへ」

 ロドニア王国王都ロフスキ……


 ロドニア王国の中心よりやや南方にあるこの都市は人口約7万を有するロドニア最大の都市である。

 ヴァレンタイン王国王都セントヘレナよりも遥かに長く、そして厳しい戦いの中に置かれたこの街の街壁は何者をも阻む険しい峡谷のように高くそびえ立ち、3重もの多重構造によって、中に暮らす人々をしっかりと守っていた。


 街壁にはいくつもの門があり、ヴァレンタイン王国への街道に接した南正門の前にも監視所を兼ねた入国管理所が作られ、毎日当番の騎士や衛兵達が目を光らせている。


 世界が平和になり、人間同士、他国との戦いが極端に減った現在となっては、商いや観光を目的とした一般の旅行者の入国確認が主な任務ではあった。

 ただ有事――すなわち、他国の騎士や従士達などの兵士の来襲は勿論、異形の魔物などが来襲すれば、彼等は直ぐに本隊に報せ、戦闘態勢を取る事になっている。


「天気は快晴! 本日も異常なし!」


 当番の衛兵が大きな声で叫ぶ通り、今の所、南正門の周辺に異常は無い。

 不審人物や魔物などは見当たらなかった。


 しかし彼等は街道を歩いて来る1人の法衣ローブ姿の男に反応する。

 紺色の法衣を纏った痩身の男が真っ直ぐ、この南正門へ向って歩いて来るのだ。


「ん? あれは誰だ?」


「司祭? いや魔法使い……か?」


 そもそもロフスキにおいて魔法使いは珍しい。


 確かにロドニア王国の各地方では古代からの神々を崇拝した呪術色が濃い魔法使いは大勢居る。

 彼等は既に滅んだ北の神々や精霊を崇拝し、独特な魔法を行使して来たのだ。

 地球の過去でいえば『ドルイド』と呼ばれた者達がそれに近いだろう。


 かつてラウラがロドニア国内を旅した事がある。

 こうしたロドニア独自の魔法を学び、記録し、習得する目的で各地を巡ったのだ。

 しかし魔法の発展途上国であるロドニアにおいて、創世神とその使徒の加護による魔法を行使する魔法使いはこの国では少数である。


 南正門の前には人々が列を作っていた。

 様々な地から、このロフスキへ来た旅人達が身分ごとに入国手続きをしているのだ。

 ルウは、その中で平民と思われる列の最後方に並ぶ。


 衛兵はルウの事で何か命じられているらしい。

 不審者を問い質すような口調でルウを呼んだのである。


「おいっ! そこの黒髪の魔法使い!」


「ん? 俺の事か?」


「そう、貴様だ! お前を先に入国手続きをさせる! 来い!」


「何だ!」

「不公平よぉ!」

「ずるいぞ!」


 最後方に並んだルウを先に入国させると知った大勢の他の者達は一斉に不満の声を洩らす。

 彼等の表情を見たルウはさすがにばつが悪そうだ。


「ははっ、俺は普通に並びたいのだけど」


「黙れ! 黙れ! これはロドニア王国騎士団長の命令だ! 逆らう者は逮捕する!」


 逮捕!?


 いきなりの切り札に不満を洩らしていた者達は黙り込んでしまう。

 しかしルウは相変わらず済まなそうな表情である。


「逮捕? それじゃあ仕方が無い……悪いな、皆さん!」


「お兄さん、良いよ! 謝らなくて! この馬鹿衛兵が悪いんだから!」

「そうそう!」

「先に済ませてしまいなよ、お兄さん!」


「な! ば、馬鹿だと! き、貴様等、逮捕する!」


 愚弄されて、激高した衛兵が思わず剣を抜こうとするが、ルウが手を彼の目の前に手をさし出して制止する。


「まあ、落ち着いて衛兵さん」


 飄々としたルウがピシッと指を鳴らすと、いきり立っていた衛兵が脱力する。


「…………」


「どうやら、落ち着いてくれたようだ。じゃあ皆さん、申し訳ないです」


 黙り込んでしまった衛兵をちらっと見たルウは、ぺこりと頭を下げた。


「衛兵さん!」


 ルウが少し大きな声で呼ぶとぴくりと身体を震わせた衛兵は我に返ったようにハッとした。


「あ、ああ、こっちだ」


 まるで今迄の様子が一変した衛兵がルウを手招きする。

 ルウはにっこり笑うと、行列に並ぶ旅行者達に手を振り、衛兵に着いて行く。

 彼が衛兵に連れて行かれた先は衛兵詰め所である。

 詰め所といっても大きな建物でいくつかの部屋があり、不審人物を留置する小部屋があり、有事の際に使用する武器庫もあった。


 ルウが連れ込まれたのは不審者の取り調べをする部屋らしい。


「そこに座れ」


「了解!」


 ルウは衛兵に勧められた木製の小さな椅子に座った。


「お前の名は?」


「ルウ・ブランデル!」


「な、何!? ル、ルウだと!」


 衛兵が吃驚したのは、やはりルウの予測通り、自分に対して『指示』が入っているらしい。

 ただロドニアに入国した瞬間から監視がついていた、というわけでもなさそうだ。


「ああ、ルウ・ブランデルだよ」


 ルウが繰り返すと衛兵は傍らに居た同僚へ叫ぶ。


「大変だ! 大至急、騎士団長様へ報せろ! ルウと言ったな! お、お前はそこへ座っていろっ! 指示があるまで動くな!」


「ははっ、了解!」


 衛兵は直立不動のポーズを取ると、微笑むルウを睨みつけたのであった。


 ――10分後


 1人の初老の男が詰め所へ入って来る。

 すると、それまでルウを睨みつけていた衛兵の態度が一変した。


「偉大なる騎士団長様!」


「ああ、ご苦労! ふむ……そなたが、ルウか?」


「そうだよ」


 相変わらずといって良いルウの態度を見た衛兵がまたいきり立った。


「そうだよ!? だとぉ!! き、貴様! 偉大なる騎士団長様に対して何て失礼な口の利き方を!」


 ルウの態度を無礼だと怒る衛兵を制して騎士団長と呼ばれた男は身元確認をするように促した。


「まあ、良い。 それより一応、身分照会をしておこう。ルウ・ブランデル、身分証は持っているか?」


「持ってはいるが……俺の名を聞いたのだから、そちらも名乗るのが筋だろう」


 堂々としたルウの切り返しに騎士団長は感心したようである。


「ほう! 確かに、な。 ……よかろう! 私はロドニア騎士団長グレーブ・ガイダルだ」


「成る程! マリアナ副団長とクレメッティ副団長には世話になった」


 ルウがそう言い放つとグレーブは怪訝そうな表情になった。

 ヴァレンタイン王国に派遣したマリアナはルウを完全に認めていた。

 彼女以外にも自分の部下とルウは結構、交流があるようだ。

 

 しかしこの男がクレメッティとは、どこで知り合ったのか?


「むう! 確かにマリアナの手紙には貴殿の名前があった。だから彼女との関係は分かるが、クレメッティとも知り合いか?」


「ああ、ついでにイグナーツとも、な」


 グレーブは苦笑する。

 イグナーツの人を喰ったような顔を思い出したからだ。


「ほう! イグナーツとも知り合いか? 良く分かった! ……だが、一応規則なのでな。身分照会はさせて貰う」


 徐々に笑顔に変わるグレーブへ、ルウは自分の身分証明証を差し出したのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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