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第573話 「リーパ村観光①」

 ヴァレンタイン王国の貴族であるフラン達が王都セントヘレナから普段出る事がないように、リーリャも留学するまでは、ロドニア王国王都ロフスキからは滅多に外に出なかった。

 王族のリーリャは王都ロフスキでさえ、外出する度に護衛の騎士が大勢、その脇を固めるのである。

 生まれてから自由にロフスキを歩き回った事のないリーリャが街を知り尽くしているとは言い難い。

 もしルウの妻達の誰かが、リーリャへロフスキの案内を頼んでも心もとないだろう。

 このリーパ村においてもリーリャにとっては本の知識しか持ち合わせていないのだ。


 リーパ村の市場を眺めながら、リーリャはヴァレンタイン王国王都セントヘレナで、ルウと初めてデートした時の事を思い出していた。

 リーリャにとっては、人生初めてのデートであったし、ルウとの2人だけでの数少ない楽しい思い出である。

 見るもの、聞くものが珍しく、出会った人は皆、親切であった。

 リーリャはルウがセントヘレナを案内してくれたように張り切って案内をしたかったのである。

 ブランデルの家族の中で唯一のロドニアの民なのだから、家族の皆にロドニアの素晴らしさを自ら教えたかったのだ。


 その時、リーリャの肩をポンと叩いた者がいる。

 リーリャが振り返ってみると、アールヴのケイトであった。


「ケイトさん……」


「うふふ、リーリャ様、大丈夫!……私がフォローしますよ」


 談笑しながら歩いている他の妻に気付かれないように、ケイトがリーリャの耳元で囁いた。


「ルウ様の奥様であれば私達アールヴとも、仲間どころか、文句無く家族ですよ」


「え!?」


 目を大きく開いて驚くリーリャにケイトは再度、念を押す。


「うふふ、私とリーリャ様は家族なのです!」


 家族とは何と素晴らしい響きであろう。

 リーリャは改めてそう感じる。

 この可愛いアールヴへ感謝の言葉が出たのは自然な気持ちであった。


「……ケイトさん、ありがとう!」


 笑顔で礼を言うリーリャへケイトも同じくらいの笑顔で返した。


「さあ、楽しみましょう! まず市場を回って、その後に美味しい店へご案内しますよ」


「はいっ!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 リーパ村はヴァレンタイン王国との国境沿いの村というだけでなく、北と南を結ぶガラヴォーグ川の水運により、あらゆる人種の坩堝である。

 雰囲気は冒険者の街であるヴァレンタインのバートランドに似ているかもしれない。

 市場を歩くルウ達一行、特に妻達へは小売商人や行商人から威勢の良い声が頻繁に掛かる。


「おおっと、そこの綺麗なお姉ちゃん達、良い品あるからさぁ、ぜひ寄って行ってよ!」


「ウチのアクセサリーは掘り出し物揃いだよぉ! きっと似合うぜぇ!」


「ロドニア風のブリオーは如何いかがかね! 安くて気軽に着れて色もサイズも沢山あるよぉ!」


「新鮮な魚は如何!」


「美味しい兎に雀はどうだい、獲り立てで新鮮だよぉ!」


「籠に、箒はどうかね、生活の必需品だよぉ!」


 許可を受けていない者が扱うと、村の治安を乱すという理由において市場で売買が禁じられている武器防具だけは無かったが、それ以外には様々な商品が、ありとあらゆる人種により、売られていたのである。


「お姉さん達、蜂蜜は如何かね?」


「蜂蜜!?」


 露店の蜂蜜売りの声に反応したのはまずジョゼフィーヌである。

 しかし一緒に居たオレリーはこのような市場での買い物に慣れていて親友の為にフォローに入る。

 店主である人間族の若い女性に、まずは味を確かめたいと申し入れたのだ。


「お姉さん、蜂蜜、試食は出来るの?」


「試食? ああ良いよ! ひと口食べたらウチの蜂蜜の美味しさに飛び上がるよ!」


 オレリーと店主のやり取りを見てルウと他の妻達も露店の傍で足を止めた。

 妻達の美しさのせいで、途端に周囲が華やかになる。


「店主さん、私達も試食して良い?」


「うわぁ、凄いお客さんの数だね。それも美人揃いだ、良いよ、ひと口ずつどうぞ!」


 こうなると試食といっても結構な量になってしまうが、店主は客寄せになると思ったのであろう。

 妻達の願いを快諾したのである。


 そして……


「美味しい!」


「凄いわ!」


「甘過ぎず、ほどよい甘さね!」


「ぜひお菓子作りに使いたいわ」


 試食した結果、妻達の感想は何と賞賛の嵐であった。

 勿論、甘いものが好きなルウも試食してにっこりと笑っている。

 そうなるとルウの決断は早い。


「ここにある商品、全部買おう!」


「ええっ、全部!? 宜しいのですか?」


 流石に店主は驚いた。

 展示台に並べられている蜂蜜が詰められた陶器製の小型の壺は30個以上あったからだ。


「人も食べ物も一期一会さ、全部いただくよ」


「あ、ありがとうございます! ええと、全部だと33個で1個大銀貨2枚だから、大銀貨66枚、ええと金貨6枚と大銀貨6枚になります」

 ※大銀貨=約1,000円です。


 値段を聞いてもルウに驚いた様子は無い。

 アールヴの里に居た頃は蜂蜜作りを手伝った事もあり、大変な手間を要すると分かっているからだ。


「じゃあ金貨7枚で……たくさん試食させて貰ったし、お釣りは要らないよ」


 ルウがすかさず金貨7枚を握らせると、店主は感激した様子である。


「本当ですか! そんなに気に入っていただいたなら大サービスします! 私が個人用で使おうと思っていたローヤルゼリーも3つお付けしますよ!」


「王乳を? そんなに貴重な物を良いのか?」


 店主がサービスすると言ったのは王乳とも呼ばれるローヤルゼリーである。

 働き蜂が女王蜂に食べさせる為の乳白色のクリーム状の物質であり、美容と健康に良いと言われ珍重されている。

 女性にはとても人気のある商品だが、産地以外ではそう簡単には手に入らない貴重品だ。


「どうぞ、どうぞ! ちなみに貴方様とこの女性の方達とのご関係は?」


「ああ、全員、可愛い嫁さ」


 ルウがそう言った瞬間、フラン達からは大きな歓声が上がったのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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