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第562話 「白鳥亭②」

「この白鳥亭は私達アールヴだけで経営し、運営している宿屋なのですよ。お客様はどのような種族でも受け入れますが」


 女将のアマンダ・ルフタサーリが微笑んで言う。


「ルウ様であれば特に大歓迎です。幸いこの宿で1番大きな部屋が空いております。さすがに従者の方々は別の部屋になりますが……」


 アマンダによればルウ達夫婦全員が泊まれる広さの部屋だと言う。

 普段は知らないもの同士を泊める大部屋として使っているらしいが、ルウ達は一緒に泊まれる方が良いので、気になどしていない。


「ケイト!」


 本館入り口には馬車の駐輪等を済ませたケイトが立っていた。

 イグナーツ・バプカの姿は見えないので一旦、騎士団の宿舎に戻ってからルウ達を迎えに来るらしい。


「ルウ様達をお部屋へご案内して! ルウ様、お荷物はどちらへ?」


 ルウは黙って左腕につけた収納の腕輪を見せた。

 それでアマンダは直ぐに納得したようだ。


「うふふ、流石ですね。ケイト、ご案内を頼むわよ!」


「はいっ!」


 打てば響くように元気良く返事をしたケイトを見てアマンダは満足そうに頷いた。

 そしてルウに正対すると真剣な眼差しを向けて凛とした声で言い放ったのである。


「ルウ様! 落ち着きましたら私の部屋でお話が……奥様方には申し訳ありませんが、ルウ様おひとりでお願い致します」


 アマンダはルウだけへ、何か話があるようだ。

 きっぱりとした物言いはアールヴの種族特有のプライドの高さを垣間見せる。


「こちらです!」


 ケイトが奥にある階段を示し、ルウ達へ登るようにジェスチャーをした。


「この白鳥亭は2階と3階が全てお部屋になっているのですよ」


「食事は?」


 ルウが聞くとケイトはいかにも残念と言った表情で答える。


「残念ながらお外で召し上がって頂きます。もしくはテイクアウトで購入されて部屋への持込みとなりますね」


「このお宿で食べられないのは残念ですが、楽しみも増えますね」


 食事の方法を一緒に聞いていたフランが優しく微笑んだ。

 一行は木製の階段を登って行くが、普段鍛えているせいか、3階に到着した時でも息が切れている者等居ない。


 ケイトがルウ一行を案内した部屋は3階の1番奥であった。

 この部屋は新しい木の香に満ちている。


「まるで森の中に居るみたいですね」


 リーリャがくんくんと部屋の空気を嗅いだ。

 皆もすかさずリーリャの真似をして木の香を楽しむ。


「この宿は殆ど木製なのですよ。元々アールヴは森に暮らす種族です。木々の息吹を感じていたいという願いでこのような建築仕様にしてあるのです」


「でも……特に新しいみたいですわ? この部屋」


 ジョゼフィーヌが物珍しそうに部屋の中を見渡すと、ケイトが悪戯っぽく笑った。


「はい、その通りです。実は10日ほど前に冒険者同士の喧嘩がありまして、死人は出なかったのですが、壁を壊したり、床に大穴を開けてしまったのですよ」


「それで最近直した……という事ですわね」


「はい! 当事者達から弁償して貰いました」


 嬉しそうにいうケイトに釣られてオレリーも同調する。


「よかったですね!」


「はい! ラッキーでした。では注意事項を……」


 ケイトはそう言うとルウ達を見渡した。


「出掛ける時は必ず施錠して下さい。ルウ様達は施錠の魔法も使えると思いますから、ダブルロックにして下さい」


「おう、分かった!」


 確かにルウは施錠の魔法を使える。

 魔法を無効化するためには開錠の魔法を発動するか、ドアを壊すしかないのである。


「それから施錠しても貴重品は部屋に置かないで……ああ、これは収納の魔道具を持つ皆様には関係ありませんでしたね」


 部屋の戸締り以外にもいくつかの宿泊に際しての注意事項がケイトから説明された。

 妻達は理解し、納得したようである。 


「了解です!」「分かりました!」「ありがとうございます!」


「では皆様は部屋で少し御寛ぎを……従士のおふたりは隣の部屋へどうぞ」


「分かった……」「…………」


 バルバトスはケイトの案内に短く返事をしたが、アモンは例によって寡黙であった。


 ――10分後


 ルウ達の居る部屋がノックされる。


「誰?」


 今度はナディアが返事をした。


「ケイトです、ルウ様をお迎えに上がりました」


 来たのはやはりケイトであった。

 モーラルがドアを開けるとケイトは満面の笑みを浮かべて部屋に入って来る。

 どうやらバルバトスとアモンを隣の部屋に案内して説明を終わったらしい。


「では奥様方、ルウ様を一時お借り致します」


 満面の笑みを浮べたケイトはルウの手をしっかり取ると、腰にもう片方の手を回して深く一礼した。

 何だかこれではケイトが抱きついて甘えているように見える。

 妻達はケイトの余りにもフレンドリーな行動を見て呆気に取られていた。


「行ってらっしゃいませ」


 しかし一旦は吃驚したフランがにっこり笑ってルウを見送ると、何か言いたげであった他の妻達は黙り込んだ。

 妻達の中で笑顔なのはフランとモーラルだけである。

 だが、ルウとケイトが部屋から消えるとジゼルが糾弾の口火を切った。


「一体何なのだ? あのアールヴ達は?」


「確かに! 凄く馴れ馴れしくてボクは腹が立ったよ!」


「私達のルウ様!とか、いきなり妻の前でキスするとか、そして抱きついて連れて行ってしまうとか、信じられません!」


「そうですわ! その上で内緒話なんて何?」


「私達を完全に無視していますね」


 ナディア、オレリー、ジョゼフィーヌと続いて憤り、最後に怒りを抑えたリーリャがポツリと呟いた。


 しかしそんな妻達の声を鎮めたのは意外にもフランであった。

 そしてモーラルも苦笑していたのである。


「仕方が無いわ……」


「そうですね……アールヴ達にとって旦那様は実質的に一族の長。その上、彼女達は独特の価値観を持っていますから……」


 2人の言葉に他の妻達は驚きの表情を浮かべている。

 フランは僅かに微笑んだ。


「旦那様は約束してくださったわ。絶対に私達を見捨てないし、裏切らないって……だから旦那様を信じましょう、そして彼女達も、ね」


 その場に居る者はフランの微笑を見て不思議な気持ちになる。

 彼女の穏やかな表情はルウの表情に酷似していたからであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!


新連載始めました。

異世界転生ものです。

宜しければお楽しみ下さいませ。


『超アイドルファンの神様に異世界でアイドル育成プロジェクトを頼まれました!』


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