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第547話 「レオナールの手腕」

 アレシアの町の庁舎内の大食堂で1人の中年男と美しい少女達が真剣に話している様子ははたから見ると滑稽でもある。

 しかし男はいやに真剣だ。


「でも君達から見たら私は完全な『おじさん』だから……」


「いや、ボクがもし独身だったら絶対『あり』ですから!」


「そうですよ、ギルベルト様は渋くて恰好良いですよ」


「そうそう! 大人の男の魅力って感じですわ」


「ほ、本当か? でも君達みたいな可愛い女性に褒められれば自信になるよ、ありがとう」


 少女達=ナディア、オレリー、ジョゼフィーヌの言葉を聞いて中年男=ギルベルト・クリューガーは頬を少年のように紅潮させる。

 自分では密かに満更ではないと思っていたマスクも、改めて女性に言われれば、また気分も違うというものだ。


 実際ギルベルトはイケメンである。

 今は亡き弟のラインハルトと共に、父アロイス・クリューガー伯爵譲りの甘いマスクなのだ。

 王都騎士隊のホープ、ジェローム・カルパンティエと同様に、もっと生身の女性と話して相手を知れば、もてる男に覚醒する可能性は大である。


 先程フランにこっぴどくやられたギルベルトを見かねたルウはちょっとしたアドバイスをした。

 ルウ自身、普段意識しているわけではないが、まず女性の話を良く聞く事、加えて彼女達を滅多矢鱈に叱らず逆に褒める事を心がければ良いと伝えたのである。

 ルウの許可を貰い、移動してナディアを始めとした他の妻達の席の隣に移ったギルベルトは早速、実戦に近い練習を行っていたのだ。

 習うより、まず慣れろ……である。


「本当にルウ君とフランにはお礼の言いようがないな。これであいつも結婚する意思を持てば良いのだが……」


 アロイスは改めて深々と頭を下げた。


 彼から見ても息子のギルベルトは完全に変わったのだ。

 自分もルウに自分達を愛称で呼ぶように言われてからは更に距離間が縮まっている。

 そうなるとアロイスも自分をファーストネームで呼ぶように頼んだのは言うまでも無い。


「ははっ、多分大丈夫ですよ。いずれギルベルトさんも俺の妻達のように素晴らしい女性に巡り会えますから」


 ルウの言葉に周りに居たフラン、ジゼル、モーラル、そしてアリスに擬態しているリーリャが胸を張った。

 話の流れとはいえ、夫のルウに褒められて皆、嬉しいのである。

 ルウの妻達の笑顔に囲まれ、アロイスも自然と笑顔になった。


「ははは、そうなると良いのだが、な。まあルウ君の場合は男の甲斐性って奴だな」


「うふふ、お父上様も良く仰いますね。でも旦那様みたいな素晴らしい殿方は中々居ませんわ」


 一夫多妻制を揶揄やゆするように聞える男の甲斐性とは、とても微妙な表現ではあるが、フランは今更そのような事で怒ったりはしない。

 実際、アロイスに他意は無いからだ。


「ははは、フランもとても幸せそうで私は嬉しいよ」


 満面の笑みを浮べるアロイス。

 これが彼の本音であろう。

 アロイスはラインハルトの死後、ふさぎ込んで元気の無いフランの噂は常々、耳にしていたのだから。


 そこへルウが何気に提案をする。


「ところでアロイスの親父さん、俺から贈り物をさせて下さい」


「贈り物?」


 不思議そうな表情をするアロイスに対してルウは話を続けた。


「ええ、アレシアの町の中に立ち入り禁止区域がありましたね?」


「ああ、あの呪われた土地、だな」


「ええ、冥界の瘴気と共に、怨みを持つ魂の残滓が充満していましたが、浄化しておきました。もう事故など起きず、ばっちり再開発出来ますよ」


「え!? ど、どうして!? い、いつ、そんな?」


 瘴気? 魂の残滓? そして浄化?


 とてつもない事をさらりと言うルウにアロイスは戸惑ったが、様々な人間が見込んだルウ・ブランデルなのだ。

 魔法使いとして底知れない実力を持っているのに違いなかった。

 だが執政官としてアロイスは事実を知りたいと思ったのである。


「ははっ、詳しい経緯は伏せますが、あの土地はもう呪われてなどいません。心置きなく開発して下さい」


 そう言われるとアロイスもそれ以上の詮索は無用だと考える。

 ここは単純に礼を言うべきなのだ。


「おおお、何から何まで! ありがとう! 本当にありがとう! どうだろう、愛称で呼ぶだけでなく私もエドモン様やフィリップ殿下同様に気安く付き合ってくれぬか? ルウよ、息子共々宜しく頼むぞ」


「ははっ、任せて下さい」


 ルウがそう言うと、何故かアロイスはとても嬉しそうな表情をしたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「さて、ルウ達の旅の次の目的地はどこかね?」


 アロイスはこれからのルウ達の予定を尋ねる。

 

「一応、ロドニアとの国境、ガラヴォーグ川の橋を渡り、川向こうの村リーパですね」


 ルウが立てた予定はヴァレンタイン王国の王都セントヘレナ出発後、アレシア⇒リーパ⇒ノースヘヴン⇒そしてロドニア王国の王都ロフスキに1週間以内に到着するものだ。

 1週間以内に到着とは曖昧ではあるが、後発のリーリャ=アリスの擬態達より1週間は早く到着する筈だ。


「成る程、まあ至極当然だ。ここから出るとロドニアの商業都市ノースヘヴンとの間に人間の集落はリーパ村しか無かったからな。だが、少し前に『キャンプ』が完成したからリーパの手前で宿を取る事が出来る。安全に国境を越える確率が上がったのだよ」


「キャンプ……ですか?」


 アロイスによればガラヴォーグ川の橋を渡ったロドニア王国領リーバ村の手前にキャンプが出来たという。

 聞き慣れない言葉にフランは首を傾げた。


「ああ、フランは2度と思い出したくないだろうが、お前が異形の怪物に襲われた事件があっただろう?」

 

「はい! 護衛の騎士が殺されたのは思い出したくはありませんが、旦那様に助けて頂いた事は一生の思い出ですわ」


「ははは、そうだったな。あの事件の解明と旅人の保護の為にカルパンティエ公爵の指令が出たのだ。最終的にはこの町の執政官の私が許可を出したのだが」


 どうやらアロイスはフランをいたわりつつ、キャンプ設立の原因を話そうとしているようだ。


「父上が?」


 今度はジゼルが訝しげな表情になる。

 だがレオナールの政策は国の機密事項なのだから、彼女が父の動きを全く知らなかったのは当然だ。


「ああ、ジゼルは知らなかったのだな?」


「はい、アロイス様」


「結局、あの事件は約4ヶ月経っても未解決のままなのだ。そなたの父、レオナール・カルパンティエ公爵は王都騎士隊のかなりの人数を投入したが、殆ど手掛かりも掴めない」


 ここでアロイスはコホンと咳払いをした。


「かといって放っておいて良い訳がない。ドゥメール伯爵家の令嬢であるフランシスカが襲われ、護衛の王都騎士が5人も殺されたのだ。だが、調査に対してあまりにも時間と金がかかり過ぎた」


 アロイスは、苦渋の表情を見せた。

 悪戯に予算を浪費したら、王国の軍務を統括する公爵といえども王や宰相から叱責されるのだ。


「それで成功報酬という条件で、カルパンティエの親父さんは冒険者ギルド経由で依頼を出したのですね。そうすれば騎士隊の人員を常時調査に充てるより、大幅な経費節減となるし、重大な事件解決を放棄した事にもならない」


 ルウがレオナールの意図を読むと、アロイスは感心したように頷いた。


「ルウの言う通りだ。王都からの調査命令で冒険者が結構来たのだが、彼等は難儀した。通常の魔物は出るし、あの辺りは何も無い森だからな。で、だ。これからの事も考えて私へ拠点造りの命令が下った」


 こうして王都騎士隊、アレシア、冒険者ギルドの3者による拠点作りが開始され、規模としては『村』程度のキャンプが完成したのである。

 完成したキャンプはフランの未解決事件の調査だけではなく、附近の治安の良化に役立ち、ゆくゆくはヴァレンタイン王国とロドニア王国をつなぐ街道沿いの町へ発展する筈だ。


「これからロドニアとの交易は王国の重要な産業になる。流石だな、カルパンティエの親父さんは」


 ルウが父親を褒めるのを聞いて、ジゼルは自分の事の様に嬉しく感じたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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