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第538話 「アレシアの町へ」

 街道で襲って来た山賊達は全員アレシアの町の守備隊へルウの転移魔法で送られる事となった。

 ちなみに彼等は未だルウ達に気絶させられたままである。

 モーラルが感嘆したように言う。


「20人を1度に送るなんて私には到底無理です。旦那様はやはり凄いです」


 ルウは軽く首を横に振ると、穏やかな表情でモーラルへ指示を出した。


「悪いが、オレリーの時と同様にお前から投げ文でもしてアレシアの守備隊へ知らせてくれ。『善意の市民』からの通報という事で、な」


「はいっ、旦那様――モーラルはいつでも行けます」


「ああ、じゃあアレシアの門の手前の街道で落ち合おう」


 にこやかに返事をしたシルバープラチナの美少女にルウも微笑む。

 山賊の送り先はアリシアの町の正門の付近であり、モーラルが彼等の罪状を書いた投げ文を守備隊の詰め所へ放り込んで引き渡すといった按配あんばいだ。

 投げ文を見た守備隊は直ぐに駆けつけるであろう。

 ちなみに髭面の首領には白状コンフェッションの魔法が掛けられたままであった。

 衛兵が詰め所で連行された彼を尋問すれば全てを白状する筈である。


 ルウが山賊達が発する魔力波オーラを読み込んだ所、彼等はどうやら賞金首だったらしい。

 投げ文には守備隊へ懸賞金は全額寄付すると記載されている為に隊員達もやる気を出して対応する筈だ。


 いよいよルウが大規模な転移魔法を発動する。

 以前のように地界王アマイモンの魔力を使うのだ。

 

「ルウ様! いつでもお声掛け下さいませ」


「そうだな、バルバトス! 偉大なる地界王アマイモンの力を借りるぞ」


 悪魔バルバトスは『高貴なる4界王』への仲介役を務めている。

 ルウは声を掛けて来たバルバトスに対して大きく頷くと、呼吸法で一気に魔力を高めて行く。


「我は『高貴なる4界王』の偉大な力を欲する者なり! ――土の王アマイモンよ、さあ我に力を与えよ! この者達をこの地より離れた遥かな地へ運ぶが良い!」


 モーラルとその傍らに倒れている山賊達が白光に包まれた。

 地界王アマイモンの力により今ルウ達が居る場所と、アレシアの町の正門付近の地を異界で一瞬にして繋ぐのである。


転移トランティスウツ!」


 大きく手を振るモーラルはあっという間に消え去ったのであった。


「さあ、今度は俺達だな」


 穏やかな表情を変えずに言うルウに妻達は畏敬の気持ちを持って見詰めている。

 古代に栄えた魔法王国で使われた転移魔法は伝わる事も無く、古文書の中だけの話となっていた。

 それもあくまでも個人から少人数が移動するのが主である。

 例外は伝説の魔法王が自軍を自在に転移させ、どこにでも現れる無敵の軍として怖れられたという唯一の伝説のみだ。

 ちなみにその魔法王こそが怖ろしい悪魔をも容易に従えたルイ・サロモンである。


 ルウはまたもや魔力を高めて行く。

 転移魔法に必要な魔力自体が莫大な量の筈だが、ルウは涼しい顔をしていた。


 ちなみに体内の魔力量が著しく減ると、人やアールヴ、人外である魔族に関わらず全ての者は持てる力も比例して著しく落ちる。

 そして完全に枯渇したまま暫く放置されれば例外なく死に至るのだ。


 だが、かつて師であるシュルヴェステル・エイルトヴァーラが驚嘆したくらいにルウの魔力の量は底が見えない。

 悪魔であるバルバトスやアモンは勿論、かつての大天使ルシフェルでさえ及ばない、とてつもない魔力量なのである。


転移トランティスウツ!」


 ルウの決めの『言霊』が言い放たれるとルウ達の姿もまたかき消すように居なくなっていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ルウ達はアレシアの町の少し手前の街道に転移すると暫く走った。

 途中にはモーラルが待っており、御者台に飛び乗るとぴたりとルウに身体を寄せる。


「旦那様、任務は無事完了です。 彼等は近日中に犯罪奴隷として他国へ売られるでしょう」


「ああ、彼等の苦しみは犠牲になった200人の無念には到底及ばないが、残った罪は冥界に行って清算して貰おうか」


 ――10分後


 ルウ達の目の前にアレシアの門が見えて来た。

 城砦の町、アレシアはヴァレンタイン王国の防衛上重要な拠点である。

 そもそもアレシアはロドニア王国との戦いにおいて王都セントヘレナの防波堤として築かれた町なのだ。

 最初はモット・アンド・ベリーと呼ばれた形式で造られた、土を盛り、簡素な砦を建て、丸太で囲っただけの小規模な村であった。


 村は戦争が繰り返される度にその規模を大きくして行く。

 敷地は広げられ、城壁や建物が火に強い石造りとなり、砦も大きく頑丈になった。

 村に居るのは常駐の守備隊だけに留まらなかった。

 物資の運搬、そしてそれらを売る商店の開業に伴い、ひとやま当てようとする商人達も大量に流れ込んだのだ。

 ロドニア王国との戦争が無いときには商人達は交易に重要な役割を果したのである。


 そして平和が続く今では人口は約5,000人とまでなり、王国の主要な町となっているのだ。


「そこの馬車、停まれ~!」


 町に入る為に馬車の列に並んでいたルウ達の番が来たのである。

 門の前に居た衛兵が大きく両手を挙げてルウ達の馬車を制止させた。

 見ればバルバトスとアモンが跨ったケルピーも他の衛兵達に止められている。

 衛兵は御者台のルウとモーラルを見て、問い質す。


「そこの者、名前と身分、住所を明かせ。証明書を持っているなら後で照合させて貰う」


「ああ、俺はルウ・ブランデル。ヴァレンタイン魔法女子学園の教師で王都セントヘレナ在住だ。この子は俺の妻でモーラル、馬車の中の娘達も全員俺の妻だ」


「何? ルウ・ブランデルだと!?」


 黒髪で黒い瞳のルウとシルバープラチナの美しい少女モーラルをまじまじと見て、訝しげな表情を見せる衛兵であったが、一瞬間を置いてはたと手を叩いた。


「おお、聞いておりますぞ! この町の執政官であるクリューガー伯爵が屋敷で貴方様をお待ちになっておられます」


 衛兵はルウ達がこの町へ到着したら、執政官から屋敷へ連れてくる様に命じられていたらしい。

 ルウは衛兵をちらっと見ると小さく頷いた。


「クリューガー伯爵か。分った、同行しよう。後、あの馬に乗った戦士2人は俺の供の従士だから一緒に連れて行くぞ」


「了解です。身分証明書はお持ちですかな? 一応身分照会はさせて頂きます。では馬車のままで結構ですから、こちらへ……」


 ルウ達は衛兵に誘われ正門に到着する。

 正門の前では町へ入る申請をする旅人の徒歩の列も結構な列を作っていた。


 ――15分後


 正門外の衛兵詰め所で町へ入る者達の身分照会は行われる。

 ルウと妻達、そしてバルバトスとアモンは時間も大して掛からずに問題無く終了した。

 身分照会は魔法水晶を使った簡易な識別であるが、ルウの魔法なら容易に調整出来るのだ。

 

『フラン……』


 ルウは詰め所から出る時に、他の皆に気付かれぬように念話で彼女へそっと呼びかけたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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