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第537話 「山賊の言い訳」

「おう、てめぇ! 命が惜しければ有り金と女を全部置いていって貰おうか」


 髭面の男が毒づく。

 オークを簡単に倒したルウ達が、今度は20人程のいかつい男達に囲まれていた。

 彼等はいわゆる山賊だ。


 薄ら笑いを浮べた男達は全員が武器を持ち、革鎧を纏って武装している。

 見るからに怖ろしげな男達ではあったが、良く見ると武器は皆錆び付き、革鎧は擦り切れて酷い風体であった。

 多分自前ではなく、誰かから奪ったものに違いない。

 肝心の実力もルウ達から見れば、赤子のようなものである。


 それがどうしてこのような状況になったのか?

 答えは簡単である。

 弓などの飛び道具を持たないのを確認した上で、ルウがわざと隙を見せ彼等に囲ませたのだ。


 場所は目的地であるアレシアの町の少し手前の街道である。

 標識が町まで間も無くだという事を伝えているその場所に、山賊は待ち伏せをしていたのだ。

 旅人がふっと気を抜く所を襲う……

 人を襲う事を生業なりわいとしているだけあって彼等もやり方をしっかりと心得ていた。


 ルウは髭面の男と対峙したまま背後の妻達へ問い掛ける。

 彼等に囲まれる前に念話で趣旨を伝えてあるので、妻達や悪魔の従士2人も平然としていた。

 

「皆、これが今日学ぶ中で1番大事な所だ――分るな?」


「はぁ!? 何言っているんだ、てめぇ?」


 山賊の首領らしいその男は憮然とした表情でルウを睨みつける。


「旦那様、良く分ります。『抗う兎』を襲う同胞とは彼等みたいな人間なのですね」


 ルウの後ろに居るフランがにっこりと笑う。

 まるで山賊などその場に居ないような口調であった。


「フラン、お前は言ったな。話し合いが出来ないものかと」


「はい! 一応彼等の事情と言い分を聞きたいとは思いました」


 フランの表情が真面目なものに変わる。

 まさに先生と話す生徒といった所だ。

 片や穏やかな表情のルウは髭面の男にも言い放つ。


「と、いう事だ。お前達の主張を聞いてやるから思う存分喋ってみろ」


 しかしルウがそうは言っても男が素直に聞くわけがない。

 激昂した男が片手を挙げて部下に命じた。


「ふざけるな! お前達、やってしまえ!」


「困った奴だ……とりあえず話し易くするか」


 その瞬間であった。

 ルウを始めとして妻達とバルバトス、アモンが素早く動いたのだ。


「がっ!」「ぎゃっ!」「ぐうっ!」「あぶしっ!」


「へ!?」


 髭面の男は呆然としていた。

 気が付くと率いていた手下共が全員倒れていたのである。

 ルウや妻達が魔導拳で、悪魔達も一気に身体能力をあげて体術で倒したのだ。

 男にとってみれば、まるでルウ達が手品を使ったように不可思議な現象であり、青天の霹靂であった。


「さあ、お前1人なら話し易くなっただろう?」 


 部下達が倒され、たった1人になった男はさすがに覚悟を決めたようだ。


「くそ! こ、殺せ!」


「お前を殺すのはいつでも出来る。さあ喋って貰おうか」


 相変わらず穏やかな表情でルウは男へ話すように促す。


「だ、誰が! ……俺達は元傭兵だが、長い間雇い主が居なくてな。困窮してこんな浮き草稼業が嫌になったんだ」


 男は最初抵抗しようとしたが、何故か身の上を語りだす。


「ふむ、それで山賊に身を落としたか」


「そうだよ! 他に何も食う術が無くてな。だからお手軽なこの稼業をやろうと決めたんだよ。 は!? な、何故だ!? 何故俺はぺらぺらと!?」


 どうしてこうも自分の身の上を、ルウへ簡単に話してしまうのか、男は理解が出来なかった。

 いつの間にかルウの魔法、白状コンフェッションが無詠唱で発動されていたからである。

 

 己の意思にかかわらず山賊になった男の告白は続いていた。


「傭兵になる前は農夫だったがよ。王国の税の取立てがきつくて村を捨てたんだ。それで傭兵になったが、上手く行ったのは最初だけだ」


「農夫には戻らなかったのか?」


「農夫が一旦村を捨てたらこの国では住所不定の無宿者扱いさ。それに余所者は他の村になんかまともに入れない、せいぜい上手くいって下働きだ。それによ、辛い農夫なんて今更かったるくて出来るかよ!」


 税金の取立てがきつくて生活が困窮したのは同情する事が出来る。

 しかし農夫に戻れないのではなく、戻りたくない――男の我儘な気持ちを聞いてルウは複雑な表情だ。

 それに住所不定などと言ったら冒険者なども含まれるだろう。

 山賊などの犯罪者にならずとも、いくらでも生きる道はあった筈だ。


「……最後の台詞が本音のようだ。でも山賊とはいっても色々ある。お前達は何で暮らしを立てていたのだ?」


「奴隷よ!」


「奴隷?」


「ああ、奴隷売買さ。殺した奴を除いて、捕まえた男は労働奴隷、女は性的奴隷で散々売って、結構美味しい目を見たぜ。何せ高く買ってくれる国はいくらでもあるからな――がっぽり儲かったよ」


 男の言葉を聞いて怒りで拳を握り締めたのがオレリーである。

 ルウの表情も段々と厳しくなった。


「今迄どれくらい奴隷を売った?」


「ぐはは、今迄に200人くらいは売ったかな ここで待ち伏せしていれば旅人は幾らでも来る。当然強そうな奴はヤバイからスルーして少人数で旅をする弱そうな奴しか狙わないがな。ふふ、当然の事ながら女は上玉オンリーだぜ」


「許せない!」


 我慢し切れずオレリーが叫ぶが、男はせせら笑っている。


「何が許せないんだよ? 俺達だって生きていかなきゃいけないんだ。生きる為なら俺は何でもやるぜ――でもよ、俺達がこうなったのは貧乏にした社会が悪いんだ。いわば王家の責任だぜ」


 ぱあん!


 突然乾いた音が響き、得意そうに喋っていた男が呆気なく吹っ飛んだ。

 男の頬を張ったのはオレリーである。


「じゃあ奴隷として売られる人はどうなるの? 自分さえよければ知った事じゃあないって言うの? 知らない異国で屈辱に塗れた暮らしをして死んでいった人がどれだけ居たと思うの?」


「や、やめ……ぎゃう!」


 今度は男の顔面が歪んだ。

 オレリーが容赦なくグーで男の顔面の真ん中にこぶしを打ち込んだのである。


「ふざけないで! 私は貧乏だったけど……他の人を害してまで幸せになろうとは思わない」


 叫ぶオレリーの目には涙が一杯溜まっていた。


 溜息を吐き、振り返ったオレリーの瞳がルウに訴える


 あの時ルウが気にかけてくれなかったら……

 モーラルに護衛を頼んでいなかったら……

 そして危ない所を助けて貰えなければ、自分もどこか誰も知らない異国の地で悲惨な暮らしを強いられていたに違いない。


「だ、旦那様~!!!」


 とうとうオレリーはルウに抱きついて号泣してしまう。

 他の妻達もオレリーが助けられた話は聞いていたので彼女の気持ちは理解していた。


「旦那様、何故? このような人達が居るの? 何故!? 無慈悲に殺されたり、家族と引き離されて無念のうちに異国で死ぬ苦しさが何故分らないの?」


 引き続き訴えるオレリーの背をルウは優しくさすってやる。


「多分最初はちょっとしたきっかけなんだ。自分さえよければ少しくらいはという軽い気持ちなんだろう。それが度重なるうちに魂が麻痺して行くのさ。こいつらはもう他人の痛みなど全く感じない。反面、自分の痛みにはとても敏感な癖にな」


「旦那様、こいつら……どうしてくれようか?」


 傍らのジゼルが初めて口を開いた。

 ダークブルーの瞳が怒りに燃えていた。

 他の妻達からも怒りの魔力波オーラが立ち昇っている。

 ルウはジゼル達を見て大きく頷くと、きっぱりと言い放つ。


「因果応報……が良いだろう。オレリーの時の奴隷商人と同様に、逆に奴隷として遥かな地へ送ってやろう。自分の身をもって他人の痛みを知る……これしか無いだろうさ」


 ヴァレンタイン王国の法律では国内での不当な奴隷取引は禁じられていた。

 今回のように旅人を襲って奴隷として売るなど言語道断であり、厳しく罰せられる。

 その決まりを破ったものは、逆に奴隷制度を導入している国へ容赦なく売られてしまうのだ。


 オレリーに殴られた男はとうにのびている。


 ルウは「ふう」と息を吐くと倒れた男達を醒めた目で見詰めたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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