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第536話 「妖馬ベイヤール」

 ルウ達一行は捕捉した敵との遭遇に備えて隊列を組んで進んで行く。

 先頭を行く騎馬の真ん中はベイヤールに跨ったジゼル。

 そして左右をケルピーに跨ったバルバトスとアモンが固め、騎馬3頭のやや離れた後方にルウ、ナディア、ジョゼフィーヌが徒歩で続いている。

 ルウ達から更に離れた位置にフラン、オレリー、リーリャが同じく徒歩で進んでいた。


 今回戦うのはジゼル達3人であるが、フラン達もジゼル達が戦うのを見て自分の糧にするべく見守ろうというので馬車から降りたのだ。

 先頭を行くジゼルに代わってルウが相手の情報を説明する。


「敵までの距離は約200m……この先は街道がゆるやかに曲がっていて周囲は森林だ。風下のお陰もあるだろうが、視覚でも嗅覚でも相手が俺達を察知した様子は無い」


 ルウの話によれば先制攻撃をかける絶好の機会であるのはいうまでもない。

 問題はその戦法だ。

 これもジゼルに代わってナディアが説明する。


「旦那様、相手を攪乱した上で先制攻撃をかけます。敵が視認出来た瞬間に風弾ウインドブリッツの魔法を発動して混乱させ、敵の様子を見極めてからベイヤールに騎乗したジゼルを突撃させます」


 ナディアが話した作戦は妻達の間でいくつか考えていた作戦の応用らしく示し合わせは既に出来ているようだ。

 

「ふむ。ただジゼルだけを突撃させるのはどうかな? 相手が相手だから大丈夫とは思うがもし敵中で囲まれたら厄介だぞ」


 ベイヤールは飛翔能力を持っている。

 素知らぬ振りをしてルウは尋ねた。


 ルウの指摘を聞いて、今度はジョゼフィーヌが話し始める。

 どうやら先ほどの作戦には続きがあるらしい。


「はい、旦那様! それもちゃんと考えてあります」


 ジョゼフィーヌはにっこりと笑う。

 抜かりはないという表情である。


「ここで作戦の2つめが発動するのです。召喚魔法で私の従士であるプラティナを召喚して彼女の飛翔魔法フライトでナディア姉を敵の頭上に運んで貰いますの。残った術者の私はここでプラティナの制御コントロールに注力しますわ」


「成る程! 本当は飛翔魔法を発動して敵が居る上空に行き、直接攻撃魔法が放てれば良いが、お前達は異なる魔法の同時発動を未だ上手く使う事が出来ないからな」


 ルウの言葉を聞いたナディアとジョゼフィーヌが目を丸くする。


「旦那様! 異なる魔法の同時発動なんて、しっかりと出来るのは旦那様とフラン姉くらいだよ。ヴァレンタイン王国の魔法使いは殆ど出来ないもの!」


「もう! ナディア姉の言う通りですわ。旦那様とフラン姉が凄過ぎるのですよ!」


 頬を膨らませて抗議する可愛い妻達の頭をルウは撫でてやる。

 この甘い愛撫に不慣れなナディアが感極まって言葉が出ない中、若干耐性のあるジョゼフィーヌが何とか口を開く。


「あううううう……そ、それにジゼル姉のベイヤールは素晴らしい飛翔能力がありますわ。い、いざとなったら空へ撤退すれば済みます」


 ジョゼフィーヌが満点の答えを出したのでルウの笑顔がこぼれんばかりになった。


「おう! 2人ともここまでは合格だ!」 


 しかし、ここで大きな怒声が響く。


「こらぁ! 何をやっている! 腹黒な女狐共ぉ!」


 甘い雰囲気? を察知したらしいジゼルがカンカンに怒っているのだ。

 余りの迫力にベイヤールでさえ歩みを止めている。


「戦いの最中だぞぉ! 旦那様も旦那様だ、しっかり集中してくれ!」


「ああ、済まない。ジゼルも頑張ったら倍、撫でてやろう」


 ジゼルの怒った原因は半分以上が嫉妬である。

 ルウは素直に謝ると同時に人参をぶら下げたのだ。


「え、ええっ!? や、やったぁ!」


 思わず叫ぶジゼルの声は一転して喜びに満ち溢れている。


「はい~!?」「ず、ずるいですわ!」


 対してナディアとジョゼフィーヌからは抗議の声が発せられた。

 戦いへの緊張感が無くなったら不味いと思ったのであろう。

 そこにバルバトスの重々しい声がぴしりと響く。


「皆様、敵はもう直ぐそこの林に居ますぞ!」


「ようし、揉めている場合ではないな。 ナディアにジョゼ! 援護を頼む!」


 先程より気合の入ったジゼルの指示が届いた瞬間、ナディアとジョゼフィーヌは風の魔法式をほぼ無詠唱で発動させている。


「了解! 風弾ウインドブリッツ!」


 馬上のジゼルの遥か上を放物線を描くようにまずナディアの風弾が放たれる。


 魔法を使った戦闘で意外に注意しなければならないのが同士討ち、いわゆる誤爆だ。

 無詠唱で魔法を撃つのは誰も誤爆しない不意打ちをする時に限られている。

 通常は無詠唱で魔法発動出来る術者も敢えて魔法の種類は味方に告げてから発動するのだ。


 また魔法使いが直線的に魔法を撃つ時、その軌道内に居る味方は退避するのが通常だが、ルウの妻達は攻撃魔法の軌道を自在に変える訓練も続けていたのである。

 但しその軌道変更の技も容易いものでは無かった。

 魔力を高めて変換した魔力波を放出する際の感覚イメージにより異界から呼び寄せた物質を上手く制御コントロール出来るかが、鍵となるのは言うまでもないのだ。


 一方、林に隠れていた悪豚鬼オーク達はジゼルが気合を入れた瞬間に自分達と敵対する存在に気付いた。

 何匹かの悪豚鬼オークが餌だと思い、奇声をあげて騒ぎ飛び出すと、まるで伝染病のように騒ぎが広がって行く。

 それは喜びの声と言えるもので、漸く食事にありつけた喜びを示すものだ。


 ぐえおおおおおおお!


 喜びの余り踊りまくり、ルウ達へ襲い掛かろうとした悪豚鬼オーク達。


 そこにナディアの風弾が何発も着地した。

 数匹の悪豚鬼オークは固い大気の塊をもろに受けて即死し、仲間の無残な死を見た残りの者も恐怖の余り、浮き足立った。

 そこへジョゼフィーヌの風弾も着弾すると辺りは更に大混乱となった。


 どどどど!


 これを好機と見たのであろう。

 間髪を容れず、ジゼルの騎乗したベイヤールが重々しい蹄の音を響かせて接近する。

 凄まじい速度で肉薄したベイヤールは悪豚鬼オークの群れを蹂躙した。


 このベイヤールは並みの馬ではない。

 とてつもない速さで地を走り、翼を持たずとも大空を自在に駆け巡る事も出来る。

 疲れを知らぬ頑健な身体は大抵の事では少しの傷もつかない。

 かつての主、悪魔ゼーレの自慢の愛馬だったのだ。

 

 ダークブルーの瞳を持つ金髪の美少女を乗せた妖馬が、逞しい鹿毛の馬体を戦場に踊らせる。

 額の真ん中には白い星がくっきりと浮かび、陽に反射して輝く純白の脚が容赦なく悪豚鬼オーク達を蹴り殺して行く。


「ふん! もう後詰めのナディアが来たか。退くぞ、ベイヤール!」


 ジゼルがベイヤールに合図を送ると今迄、暴れていた戦馬がふわりとその巨体を浮かせ、空に駆け上がったのだ。


 ベイヤールが駆け上がった先には2人の美しい女性が宙に浮いている。

 ジョゼフィーヌの召喚魔法で参上した従士プラティナと彼女の魔法で飛翔したナディアであった。


「ふふふ、最後の美味しい所は譲ってやろう。後は頼んだぞ!」


 馬上のジゼルは手を伸ばし、ナディアとハイタッチすると、あっという間に天空を走り去った。


「ふふふ、やりますね、ジゼル奥様は……さあ、ナディア奥様、仕上げにかかりましょうか?」


 プラティナに促されたナディアは黙って頷くと魔法を発動すべく魔力を高め始めたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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