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第528話 「アリスの願望」

 対抗戦のあった7月11日の夜、ルウと妻達は異界に集合していた。

 翌日出発するリーリャの里帰りの打ち合せの為だ。

 ヴァレンタイン王国の都セントヘレナから、まともに馬車でロドニア王国の王都ロフスキまで行けば、片道2週間はかかる距離である。


 実際、ルウの転移魔法や飛翔魔法を使えばたった1日で済む距離なのだが、彼の魔法の実力を秘する為とリーリャの護衛の騎士達同行の問題があるので馬車で街道を移動してロフスキに入る手段を取らざるを得ない。


 今夜の打合せの場にはリーリャは勿論の事、妖精グウレイグのアリスも居た。

 本人がぜひ参加したいと志願して異界にやって来たのである。


 そのアリスがいきなり挙手をした。

 何か意見を述べるようだ。


「私がロドニアに着くまでリーリャ様の身代わりになりますよぉ! ご主人様マスターの変身魔法ならバッチリです。絶対にばれません!」


 ルウを除く全員が吃驚して、爆弾発言をしたアリスを見る。

 中でもリーリャは目を大きく見開いていた。

 アリスはいつもと同じ様に笑顔で話を続ける。


「リーリャ様になり代わって、ロドニア行きの馬車に乗り込んで正規ルートは私が護衛の騎士達と旅をしますから」


「アリスさん! そんな!」


 アリスの予想だにしない提案にリーリャは目を丸くしたままだ。


「そうすればリーリャ様はご主人様マスターと旅が出来ますもの! アリスは1回で良いから、王女様をやってみたかったんですよ」


「で、でも……アリスさんだって旦那様と旅をしたいのでは?」


 口篭るリーリャを励ますようにアリスは言う。

 それはリーリャの気持ちを良く理解した優しい言葉であった。


「良いんです、貴女様はかつて『泥の池』で皆様と一緒に私を助けてくれました。そして今迄ずっとご主人様マスターとの別離の寂しさに耐えて凄く頑張った事はアリスも良く知っていますよぉ。だから今回は楽しく旅をして下さい」


 気丈に言うアリスではあったが、ルウだけは彼女の本心を見抜いていた。


「アリス、お前の気持ちは分かっているさ。いつも俺に、そして家族の為に尽くしてくれてありがとう――お前だってリーリャ同様にいつも明るく頑張っているからな」


「…………」


 優しくルウに言われた言葉を噛み締めるようにアリスは黙って聞いている。


「でも俺は寿命の限られた人間だ。お前の気持ちはとても嬉しいが、またもや俺とお前は別離の悲しみを味わう事になるぞ」


 ルウはアリスの気持ちを良く分かっていた。

 何せご主人様マスターが大好きだ、と公言しているのだ。

 しかし、かつて夫であった人間の騎士の死を看取り、別離の悲しみを味わったアリス。

 彼女が苦しんだ事も考慮して、ルウは敢えてその気持ちに応えないようにしていたのだ。


 だが、アリスは大きく首を横に振った。


「……良いのです。私はご主人様マスターが好きです! 大好きです! だから少しでもお役に立ちたいのです。もし妻にしていただけなくとも結構ですから、嫌わないで何とかお傍に置いて下さい!」


 必死で訴えるアリスに対してルウは即座に答える。


「お前を嫌うなどするものか。分かった、アリス。お前が望むのなら俺は構わない。今日からアリスは俺ルウ・ブランデルの妻になれ」


「はいっ! なります! 喜んで妻にならせて頂きます。ご主人様マスター、いえ旦那様! 嬉しい! 私も今夜から旦那様と呼ばせて頂きます!」


 そのやりとりを聞いていた妻達は皆、喜び祝福した。

 中でも1番喜んだのがリーリャである。


「わぁお! アリスさんったら私と同期ですね! 妻になる同期ですよぉ! 今後とも宜しくお願いします!」


「うふふ、了解ですよぉ! こうなったらさっきの任務は妻としての初仕事ですよ。喜んでやらせて頂きます!」


 アリスだってルウ達とロドニアへの旅に同行したかったのは間違いが無い。

 しかし王女になりたかったのも実は本音だったのだ。


 何という事かしら!

 今夜、大きな夢が2つも叶ったわ!


 アリスは嬉しさのあまり誰にも見えない所で、そっと拳を握り締めたのであった。


 ――30分後


 ルウ達の旅行の話は纏った


 リーリャはルウの妻アリスとして他の妻達と一緒の馬車で、一方アリスはリーリャに変身してロドニア王国への2週間の旅を『リーリャ王女』として楽しむ事となったのだ。


 ルウ達の馬車は『リーリャ王女達一行』より先に出発する事に加えて転移魔法により2週間の日程を半分の日数の1週間でロドニア王国入りする予定である。


 そして……


 2人の美しい少女がルウの前に立っていた。

 いよいよルウの変身の魔法が発動されるのだ。

 呼吸法で魔力を高めたルウが神速で言霊を詠唱する。


「ロドニアの気高き王女リーリャよ! 今ここに穢れなき清流の妖精グウレイグ、アリスの容貌フェアキース身体コルプス、そして性格カラクテールを与え、仮初かりそめの姿を出現させるものなり!」


 ルウの双腕から独特な魔力波が放出され、リーリャは軽い眩暈を感じた。


変化ムータティオー!」


 決めの言霊が発せられるとリーリャの身体が眩い白光に包まれる。

 妻達は余りの眩しさに眼を背けるが、一瞬で光は収まった。

 そして……その場には2人の『アリス』が立っていたのである。


「ああっ!」「アリスが……2人!?」「旦那様、凄い!」


 フランを始めとした妻達の驚きと賞賛の言葉の中、ルウはすかさずアリスに対して魔法を発動する。


「穢れなき清流の妖精グウレイグ、アリスよ! 今ここにロドニアの気高き王女リーリャの容貌フェアキース身体コルプス、そして性格カラクテールを与え、仮初の姿を出現させるものなり!――変化ムータティオー!」


 後は全く同じであった。

 白光に包まれたアリスがあっという間にリーリャに変身したのである。

 その結果、今度はリーリャとアリスが立っているが、妻達には全く見分けがつかない。

 服装だけが元のままなのでやっと分かるくらいだ。

 

 ルウの魔法の凄い所は魔力波も極めて近い物に変えてある所である。

 魔力波読みの能力を有するものにとって、魔力波は人間の内面と血液型のようなものだ。

 いくら容貌を変えていても直ぐに判別出来てしまう。


 入れ替わったリーリャとアリスはお互いを見て驚いた後に、にっこりと笑った。


「うふふ、今夜から暫く私は穢れなき清流の妖精グウレイグのアリス……ですね」


「そうですよぉ、私はロドニア王国の気高き王女リーリャ・アレフィエフね……あ、リーリャ・ブランデルかな?」


「あ、だったら私はアリス・ブランデルですねっ!」


 声や仕草までそっくり……

 そんな2人を見てルウは言う。


「ロドニアの王都ロフスキまで2人ともこの非日常を楽しんでくれ」


 ルウの言葉を聞いた2人はもう1度見つめあうと、また微笑んだのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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