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第526話 「ロドニア王国対抗戦㉑」

 『狩場の森』においてヴァレンタイン王国の各学校の生徒達が訓練の際に倒した魔物のむくろは殆どが他の魔物の餌となり、そのまま残る事は少ない。

 しかし、骸の残骸を放置して悪戯に時が経つと、殺された恨みを持つ魂の残滓ざんしが残って悪霊化したり、不死者アンデッドとなる事もある。

 その為に管理者イベールの配下である司祭達が訓練が終わった後には戦闘地域を出来るだけ浄化して回っている。

 神に仕える司祭が行う浄化とは邪悪な穢れを払う事であり、具体的には葬送魔法で魂と遺体を害の無いように処理する事なのだ。


 ルウが倒したオーガエンペラーを見たジェローム配下の、とあるベテラン騎士がオーガエンペラーの骸をそのまま引き取りたいと願い出た。

 騎士や貴族、そして裕福な商家の一部には鹿や猪、狼と同様に魔物を剥製はくせいにして鑑賞するのが趣味の者が居たのである。

 どうやらこのベテラン騎士もこのオーガエンペラーを飾りたいと思ったようだ。


 このような場合、本来は自らが狩った獲物なのに越した事はない。

 プライドの高い貴族であったら、尚更である。


 しかしルウは騎士の申し出を丁重に断った。

 バエルの紋章を額に刻まれた邪悪な存在であるオーガエンペラーの骸がどのような悪い影響を与えるかもしれなかったし、それ以前に哀れな存在であったこの魔物を丁重に冥界へ送りたかったのである。


 そして……

 オーガエンペラーの骸の前で司祭でない者の葬送魔法が朗々と詠唱されている。

 本職以上の見事な葬送魔法を詠唱しているのは――ルウであった。


「命のことわりを司る大いなる存在よ! 彼等の魂は天空の貴方のもとに旅立った。残された肉体の器を母なる大地に返す御業みわざを我に与えたまえ! 母なる大地も我に力を! 貴女のもとに帰る為の道標を我に示せ! 我は天空の御業を使おう、その道に貴女の子等を送る為に!」


 言霊が神速で唱えられ、ルウの体内の魔力が凄まじい勢いで高まって行く。

 彼の全身は眩いばかりに白く煌き、誰も今のルウをまともに見る事は出来なかった。

 周囲に居るジェローム以下の王都の騎士達はその様子を固唾を呑んで見守っている。


鎮魂歌レクイエム!」


 ルウが両手を骸へ向けると厳かな白光が放たれた。

 白光に包まれたオーガエンペラーの巨大な骸はあっという間に見えなくなり、暫くして光が収まると、その場には何も残ってはいなかったのである。


 その様子を見詰めていたジェロームは思わず「ほう」と溜息を吐いたのであった。


 こうして……

 恐るべき大魔王と邪悪な魔法王によってつくられた異形の怪物はこの世からの痕跡を一切消し去ったのだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 キャルヴィン・ライアン伯爵以下11名の騎士に守られながら、待避所を出てひと足先に管理棟に戻った両チーム、そしてアデライド等関係者は1人の男の帰りを今か、今かと待っていた。

 両チームの為に身を挺して魔物の脅威に対して立ち塞がった男――ルウ・ブランデル。


 管理棟から見える道路に、救出に向った騎士隊と一緒に、長身で痩身の彼の姿が認められた瞬間、彼女達は大きな歓声をあげたのである。


「旦那様、ご無事で!」


 フランが夫の無事を喜び、花の咲くように微笑ほほえんだ。


「「だ! い、いえっ! ルウ先生~!」」


 続いてジゼルとリーリャが同時に旦那様と言い掛けて、慌てて先生と呼び直す。

 それはまるで息がぴったり合った姉妹のようである。


 旦那様が絶対に勝つ!

 平気!

 大丈夫!


 自分にこう言い聞かせながら、夫の強さを健気に信じたジゼルも、ルウの姿を見るなり、脱兎だっとの如く駆け出していた。

 先行するジゼルの後を負けじとリーリャが続いて走る。

 そして魔法武道部の生徒達、アデライド、シンディ・ライアン、ケルトゥリ・エイルトヴァーラ、カサンドラ・ボワデフル等教師達も勿論、危難を救われたロドニア選抜の面々も、だ。

 手を振りながら、穏やかな表情を受かべる彼の周囲はあっという間に人垣で囲まれたのである。


「よかった! 無事でよかったぁ!」


 ジゼルが人目もはばからず抱きつくと、リーリャも同じ様にルウにしがみつく。

 2人の目は共に大粒の涙が溢れていた。


「ははっ、ルウ・ブランデル――無事、帰還しました」


 ルウが笑顔でひと言そういうと、彼を取り囲んだ人々から、またひと際大きな歓声があがったのであった。


 ――30分後


 管理棟のイベントスペースでは表彰式が行われている。

 結局、オーガエンペラーの襲撃という大きな事件があった事で、時間中ではあるが対抗試合は検討の上、終了となった。

 その為、勝利チームは終了時点の得点で決定されると告げられる。


 表彰式の司会兼進行は魔法武道部顧問シンディが務めていた。


「討伐結果を発表します! 魔法武道部は食人鬼オーガが40匹、悪豚鬼オークが4匹、大狼が3頭、ゴブリンが3匹です」


 コホンと咳払いしたシンディは続いてロドニア選抜の討伐結果を発表する。


「ロドニア選抜は食人鬼オーガが32匹、悪豚鬼オークが15匹、ゴブリンが25匹です」


 シンディが伝えた結果は、会場に設置された魔法水晶のタブレットには表示されていた。

 ポイントで言えば魔法武道部432ポイント、ロドニアが420ポイントで一見勝負はついていたが、問題となるのはルウの言っていたシークレットポイント対象の魔物であった。


「ではシークレットポイントの魔物を発表致します。該当する魔物はポイントが3倍となります」


 3倍!?

 これは大きなアドバンテージとなるに違いない。

 果たして――どの魔物だろうか?

 発表するシンディに全員の注目が集まった。


「前半戦は――ゴブリン! 後半戦は大狼! と、なります」


 シークレットの追加ポイントを加えた結果は……こちらもタブレットに数字が浮かび上がり、会場の全員から驚きの声があがった。

 その結果とは魔法武道部450ポイント、ロドニア選抜が470ポイントとなり、それまで劣勢であったロドニア選抜の逆転勝利となったのである。


「やったあ! 我々の勝利だぁ! リーリャ様万歳!」


 立ち上がって子供のように喜ぶマリアナに、握手をするリーリャとラウラ。

 他の騎士や魔法使い達も思わぬ勝利にはしゃいでいた。


 片や……

 魔法武道部の面々からは笑顔が消えている。


「も、も、も、申し訳ありません! 私の作戦ミスです」 


「いえ、フルールに作戦を任せた私達2年生の責任です」


 ジゼルや部員達に平謝りのフルール・アズナヴールに、彼女を庇うミシェル・エストレ。

 そんな2人を見てジゼルやシモーヌ・カンテは改めて屈託の無い笑顔を見せた。


「ははっ、2人とも何を言っている。言っておいた筈だぞ。余計な責任など感じるなと、な。この魔法武道部の部長はこの私だ。敗戦の責任は全て私にある」


「おいおい、ジゼル。1人で全部背負い込むなよ、副部長の私にだって責任はある。それに相手はリーリャ様以外は大人で構成されたチームであり、騎士に到っては世界でも名だたる猛者達もさたちだ。そのチームにこの僅差であれば恥じる事はない」


 きっぱりと言い放つシモーヌに部員達にも晴れやかと言って良い笑顔が浮かぶ。

 魔法武道部の部員達の絆も相当深まったようである。


 続いて最優秀出場者と優秀出場者が発表された。

 最優秀出場者はリーリャとなる。

 これは前半戦において劣勢だったロドニアを勝利に導いた事が評価された。

 ルウの目の前で良いところを見せる事の出来たリーリャが飛び跳ねて喜んだのは言うまでもない。


 次に優秀出場者だが、ジゼルとフルールとなった。

 ジゼルは魔法武道部の食人鬼オーガの大量討伐への寄与、そして1年生ながら『軍師』としてチームを引っ張ったフルールの手腕がしっかりと評価されたのである。


 魔導灯のスポットライトを浴びながら、リーリャ、ジゼル、そしてフルールの3人はがっちりと握手し、彼女達には惜しみない拍手が鳴り響いたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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