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第523話 「ロドニア王国対抗戦⑱」

 ルウとオーガエンペラーは正面から対峙する。

 もう少しという所で『獲物』を取り上げられたオーガエンペラーの表情は怒りに染まっていた。


『モウ少シデ、アノ女共ヲ全テ喰エタノニ、許サヌゾ』


 念話でも激しい憎悪をぶつけてくるオーガエンペラーであったが、ルウは穏やかな表情を一切変えなかった。


『ははっ、お前がどんなに腹を空かしていてもあの娘達を餌にするわけにはいかぬ。それより問題はお前の正体だな』


『何ダト!?』


 ルウのいきなりの指摘にオーガエンペラーはうろたえる。

 並外れた体格と膂力、そして魔法を簡単に弾いてしまう抵抗力。

 加えてこのような念話を使い、人間と話す時点で只の食人鬼オーガではない事は明白ではあるが、ルウの指摘は更に上を行っていた。


『常人には決して見えぬお前の力の源、そのひたいの中心に浮かび上がる悪魔の紋章が俺には、はっきりと見える』


 悪魔の紋章!

 

 ルウの眼にはこのオーガエンペラーの額の真ん中に浮かぶ不気味な紋様がはっきりと見えるようである。

 と、なればこのオーガエンペラーは自然が生み出した突然変異の上位種ではない。

 邪悪な存在である何者かが人為的に造ったのである。


『ナント、分カルノカ!? コノ紋章ガ見エルトハナ! ヨクゾ見破ッタ』


『その紋章は大魔王バエルの紋章だ。貴様の類稀な膂力と魔法への耐久性、加えて人と話す事の出来る知力も全てバエルから与えられたものだな』 


『ソコマデ分カルノカ。ソノ通リ、我ハ大魔王バエルノ忠実カツ最強ノ使徒ダ』


 オーガエンペラーの額に刻まれた紋章は大魔王バエルのものらしい。

 紋章に込められた強力な魔法がオーガエンペラーに加護を与えているのだろう。

 だが落ち着きを取り戻し、自信に満ち溢れたオーガエンペラーを見て、ルウはにやりと笑った。


『ははっ、変な奴が居るとは思ったが……良くぞ、気付かれずに潜んだものだ。この狩場の森に、な。大魔王の力でその強大な魔力波オーラを、通常は並みの食人鬼オーガくらいに見えるように抑えておけるのだな』


『貴様、並ノ魔法使イデハナイナ。紋章ノ存在ヲ見破ッタ事ト言イ、只者デハナイ』


 今迄ルウの事を小馬鹿にしたように見ていたオーガエンペラーがいぶかしげな表情でルウを見た。


『お褒めに預かり光栄だ。しかしお前をこのまま放置は出来ない。お前には主の大魔王から命じられた事がある筈だからな』


『ククク、ソコマデ見抜イテイルノカ? ソウダ! ソノ通リダ!』 


 ルウの魂にオーガエンペラーの高笑いが響く。


『グハハハハ! 来ルベキ大破壊ハボクノ日ニハ、全テヲ無二帰スヨウニ命ジラレテイル。人間ノ女ハ全テ犯シ、喰ッテヤル。ソシテハッキリ言エルノハ、ヒ弱ナ魔法使イノオ前ニ、我ガ倒セルワケガナイ。何セ我ニハドノヨウナ魔法モ、一切効カヌノダカラナ』


 勝ち誇るオーガエンペラー。

 殺戮と破壊に身を任せる事が楽しみで堪らないといった表情である。

 しかし、そのようなオーガエンペラーを見てもルウの表情は全く変わらない。


『ははっ、あの娘達の魔法は弾いたようだが……良く考えてみろよ。お前は今、吼えたくても吼えられないだろう? それがどのような事か分るか?』


『キ、貴様!?』


 確かに今、自分は吼えたくても吼える事が出来ないでいる。

 それは一体!?

 オーガエンペラーは自問自答したが、答えは出なかった。

 そんな相手にルウは言い聞かせるように言う。


『確かにその紋章の力は絶大だ。しかし『嘘』とか、『偽り』いう言葉の意味が分かるか? すなわち、お前に魔法が一切効かないとか、お前が最強とかいうありもしない虚言きょげんの事さ』


『グググ、貴様、殺ス!』


 強大な悪魔であるあるじを除いたら、自分が最強だと信じてやまなかったオーガエンペラーにとって、このような脆弱ぜいじゃく極まりない人間如きに舐められる事は我慢が出来なかった。

 元々、気が長いとはいえない彼の怒りは頂点に達してしまう。


 オーガエンペラーは鉛色をした岩のようなこぶしを伸ばした。

 目の前に居るルウの頭を掴んで握り潰そうとしたようである。

 しかしルウはあっさりと拳を避けて、逆にオーガエンペラーの腕を掴む。

 当然巨大な丸太のような腕を全て掴めるわけはなく、その1部を掴んだだけなのだが、不思議な事にオーガエンペラーの腕はぴくりとも動かなくなった。


 身体の自由が利かなくなったオーガエンペラーは焦った。

 今迄見せていた余裕の表情は影を潜め、必死な形相でもう一方の拳を伸ばし、ルウの頭を掴もうとしたのである。

 しかし結果は全く同じ事となった。

 ルウは先程と同様に拳を簡単に避けるとしっかりと腕を掴んだのである。


『バ、馬鹿ナ!? ソンナ馬鹿ナ!』


『お前は大魔王の膂力のみを与えられた使徒のようだが……単純な力など所詮このようなものさ』


『あがおおおおお!』


 腕を取られたオーガエンペラーからは絶望とも言える叫びが洩れたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ――リーリャ達が装着した魔力の腕輪が異常を報せたのは、彼女達が撤退した時であった。


 騎士隊隊長のキャルヴィン・ライアンと副隊長のジェローム・カルパンティエは部下の騎士48名のうち、20名を連れて急ぎ現場へ急行する。

 得点を示す魔法水晶製のタブレットとは別に、出場者の位置を示すタブレットが彼女達の位置を常に示しており、『村』の近くの現場を直ぐに特定したのだ。


 キャルヴィン達は狩場の森の中へ騎乗してきた馬では乗り入れられないので、徒歩で向わなくてはいけないが、暫く走ると待避所に居た出場者達を保護する事が出来たのである。


 幸いジゼルやリーリャを含め出場者と立会人のシンディ・ライアンは無事であった。

 2人程、食人鬼オーガの咆哮で麻痺させられた者は居たが、怪我では無いので時間が経てば問題なく回復する筈だ。


 だが、唯一不在の者が居た。

 ロドニア王国選抜の立会人を務めたルウである。

 ジェロームがジゼルに聞くと「大丈夫!」とひと言しか発しなかった。

 夫であるルウへ確固たる信頼を寄せている証拠である。


 対照的に心配で堪らないという者が1人居た。

 ロドニアの王女であるリーリャだ。

 ジェロームから見れば尋常ではない心配の仕方である。


「騎士様、ルウ先生が私達を逃がす為に残ったのです。今頃はたった1人だけであの凶悪な食人鬼オーガと戦っている筈です。私は、私は心配でなりません、早く! 早く助けに行って下さいませ!」


「よしジェローム! お前は10名を連れて直ぐルウの下へ向かえ! 急ぐのだ!」


 リーリャの訴えを聞いたキャルヴィンの命でジェロームは10名の騎士達と共にルウの救出に向った。


 あいつの事だから…… 簡単には死なないと思うが……

 俺が直ぐ行くから待っていろよ!


 ジェロームはもどかしい気持ちを隠そうともせず、ルウの下へ向うのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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