第52話 「悪い予感」
ルウとフランが組んだ対オーガ戦は中盤戦を過ぎている。
ふたりは、『村』にいたオーガのほぼ7割を、既に屠っていた。
村への入り口に陣取ったルウとフランは、はっきりと役割を分担。
フランが遠距離攻撃魔法でひたすら射撃に徹する一方……
ルウはフランが撃ち洩らした敵を同じく遠距離攻撃魔法で確実に倒し、更に奇襲を警戒して、索敵を行なっていたのである。
「フラン、さっき群れの何体かがいきなり吼えただろう」
「ええ、凄い声で吼えたわね」
「あれは外に居る群れのリーダーに助けを求めたのさ」
「え? リ、リーダー!?」
ルウによれば、こちらへ新手のオーガが10体、救援に向かっているという。
そのうちの1体は、通常のオーガの反応ではないらしい。
「そいつは上位種……多分オーガキングだ。ケリーも聞いてくれ。俺達は安全な場所へ移動し、奴らを待ち伏せする」
今や村にいたオーガ達でこちらに向かってくるものはごく僅か。
ルウ達の攻撃魔法により、負傷した者は村の奥に逃げ込んでしまっていた。
なので、ルウの言う通り、ここが引き際である。
「フラン! 向かって来る奴らだけ、撃破したら撤退だ!」
「了解!」
ルウとフランは頷き合うと、炎弾を撃ち出し、襲い掛かるオーガを殲滅したのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
約15分後……
ルウとフラン、そしてケルトゥリは村を見渡せる小さな丘の上に移動。
身を隠すと……
仲間たちの悲鳴を聞き、駆けつけたと思われるオーガ達が出現した。
「上位種とは思わぬ相手だ。あいつを倒せばジゼル達にポイントでだいぶ追いつける」
ルウはそう呟くとフランとケルトゥリに移動を促した。
まだオーガの群れはルウ達には気がついていない。
ルウが指摘していた通り、オーガキングはひと目見ただけでも、他のオーガとは全く違う個体である。
まず体格が違う。
通常のオーガの倍以上はあり、その凶悪なくらいに発達した胸の筋肉が痛いほど目に飛び込んでくる。
オーガキングは、村に居た仲間たちの惨状にすぐ気がついた。
怒りと哀しみを込め、大きな声で咆哮する。
空気がびりびり震え、この森の狩りに慣れていたフランも思わず身を硬くした。
そんなフランの肩に優しくルウの手がまわされる。
「悲しい声だ……しかし俺達は餌で奴らは捕食者。結局、相容れない運命なんだ」
フランはルウのその言葉を聞いて、この森の意義とは何だろうと考えずにはいられなかった。
愛する者を守る為に魔物と戦う……
自身が殺されない為に、スキルアップを目標に実戦を積む。
理屈では分かる……
かつて、婚約者ラインハルトは王都を襲撃した二足竜に殺された。
こちらには何の落ち度も無いのに、一方的に襲われて殺されたのだ。
しかし魔物にも感情があり、そして家族も居る事が、目の前のオーガ達からはしっかりと伝わって来る……
「考える事は大切さ。しかし考えすぎるあまり、肝心な事を見失ってはいけない」
「ルウ……」
「つい見失うと……更に大事な物も失くしてしまいかねない。そうなってからではもう遅い……」
フランは、ルウの言っている意味が分かる気がした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ここは俺が行こう、フランは援護を頼む」
村に入って行くオーガ達を見ながら、ルウが告げた。
「大丈夫?」
「うん! 何か嫌な予感がする……この戦いをすぐに終わらせ、アデライドさん達の所へ移動しよう」
「嫌な予感?」
「ああ、フランはここで待機していてくれ」
ルウはそう言い残すと、あっという間に飛翔してオーガの下に向かって行く。
そしてオーガの群れの真後ろに着地した。
「おい! お前達の探している敵は俺だ」
ルウの声にオーガ達全てが気付き、怒りの咆哮をあげる。
「……悪いが時間が無い。一気に片をつけさせて貰う」
ルウは「すう」と息を吸い込むと神速にて言霊を詠唱する。
「左手には燃え盛る大地の血脈、右手には渦巻く大地の息吹。火と風よ、紅蓮の炎刃はお前達精霊の合一により生まれ、敵を撃つ!」
すると、ルウの左手には炎が立ち上り、右手には一陣の風が渦巻き始める。
何と!
ルウは一度に2体の精霊を呼び出し、合体魔法を発動しようとしているのだ。
通常、一度の発動で違う属性の魔法を使える者など……
人智を超えた存在しか不可能と言われていた。
人間などよりずっと妖精族に近いアールヴにしても同じ事だ。
その姿をフランは勿論の事、ケルトゥリも息を呑んで見守っている。
あれだけルウの凄さを話していたケルトゥリにしても、実際に目の当たりにするとあまりの規格外さに目を奪われていたのである。
「爆炎刃」
ルウの左手から轟音と共に巨大な炎が竜が天に昇るように立ち上り、右手からは同時に立ち上った巨大な竜巻がオーガキングとその群れに襲い掛かった。
あっと言う間に炎に包まれ、更に竜巻に巻かれ、切り刻まれ絶命して行くオーガ達……
燃え盛る彼等の姿は、まるで巨大な送り火のようである。
しかしルウは「もう済んだ」とばかりに、オーガ達を見向きもしない。
「悪い予感が当たりそうだ、これはやはり闇の気配だぞ!」
オーガ達をあっという間に屠ったルウは唇を噛み締める。
「闇の気配?」
「悪いが、説明している時間は無い。アデライドさん達の魔力波反応が弱まっている。すぐ現場へ移動しよう」
ルウはそう言い放つと……
またもや地の女精霊、ヴィヴィを呼び出す。
フランの顔を覚えたらしく、ヴィヴィはルウだけではなくフランにも笑顔を見せる。
アデライド達の危機を感じたルウは、転移魔法を使い、一気に現場へ行くつもりなのだろう
「フラン!」
ルウが呼び掛けると、フランは以前同様に、何の躊躇もなく彼に身体を預けた。
フランの手がしっかりと自分の身体を掴んだのを確認すると、ルウはケルトゥリに向かって叫ぶ。
「ケリー、悪いが転移魔法を使う。お前は後から来てくれ!」
聞いたケルトゥリは、大きな声で言い返した。
「じょ、冗談じゃないわ! 私も一緒に行く!」
「こうすれば良いんでしょ!」と
ケルトゥリは、ルウとフランを一緒に抱き締めた。
「私だって、理事長とジゼル達が心配だもの。お願い! 連れて行って!」
ケルトゥリの願いを聞き、咄嗟に頷くフランを見て……
ルウはヴィヴィの名を再び呼び、3人は異界へと落ちて行った。
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