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第517話 「ロドニア王国対抗戦⑫」

 ロドニア王国選抜チームが出発して10分後……

 ヴァレンタイン魔法女子学園魔法武道部チームが出発する。


 ジゼル、シモーヌ、フルールの前半戦のメンバーに加えて今回は土属性の魔法使いである2年生のデジレ・バタイユ、フルールの同級生で火属性の魔法使いイネス・バイヤールが入れ替わりで出場していた。


「頑張れよ、デジレ! 2年生の存在感を示せ!」


 デジレに対してミシェルやオルガなど2年生の声援が飛ぶ。


「フルール! イネス! 頑張って!」


 しかしそれに負けじとばかり、最大数の部員が居る1年生からも自分達の代表として出場するフルールとイネスに大きな声が掛けられたのである。


 ときの声を上げるのに近い、気合の篭もった応援を背に受けてジゼル以下後半戦出場者は出発したのであった。


 ――5分後


 正門から出たジゼル達はロドニア選抜の後を追って『村』へ向う。

 身体強化の魔法を発動させた魔法武道部の出場者達はロドニア王国選抜の移動速度を超える。

 暫く歩くと、先行したリーリャ達の姿を捉えるに至ったのだ。


 リーリャめ、とっくに気付いてはいるだろう。

 私達の存在を、な。


 ジゼルは鋭い視線でリーリャ達を追っている。

 リーリャの索敵能力は300mという広い領域を探知するのに加えて詳細な情報まで彼女にもたらす。

 後方わずかに迫った魔法武道部の存在を察知し、把握している筈だ。


 リーリャにフルール――2匹の可愛い子狐め。

 どちらの知恵が、上か――勝負だ、な


 ジゼルは勝負が楽しみで堪らないと言う様ににやりと笑ったのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 一方のロドニア王国選抜……


「リーリャ様、やはり相手は『村』に向うようですね」


 背後から来る魔法武道部チームを見たラウラ・ハンゼルカがリーリャに囁いた。


「前半戦で遺跡の食人鬼オーガを全て掃討したのであれば、『村』を目指すのは当然です。私達の結果を見て『村』が手付かずというのは誰でも分りますからね」


 やはり魔法武道部が『村』へ来るのをリーリャは計算していたようであり、彼女の表情は全く変わらなかった。

 マリアナ・ドレジェルが顔を顰めて吐き捨てるように言う。


「むう! では村では敵味方が入り乱れて『獲物』の取り合いになりましょうか?」


「問題はそこです! 私は『村』へは直接来ないと踏んでいます。理由は2つ……この戦いが元々親善試合である事、そして得点差が大差である事ですね」


 マリアナの問い掛けに対してリーリャは彼女の『読み』を伝えた。

 それはこの試合の意味とフルールの思惑を見事に読み切ったものである。


「本当に来ないでしょうか?」


 今度はもう1人の騎士、エルミ・ケラネンがリーリャに問う。

 乱戦になった場合、当初立てた作戦の遂行が心配なようだ。


「うふふ、来たら来たで仕方がありません。先程も言いましたが、私達は私達ですし、直接戦うのはヴァレンタインではなく、食人鬼オーガ達です。惑わされずに決定した作戦を遂行し、状況が変わったら軌道修正しながら臨機応変に対処して行きましょう」


「そうですね! リーリャ様の仰る通りです」


「但し、『村』へ直接来なくとも、彼女達は周辺の食人鬼オーガを根こそぎ掃討するつもりでしょう。これは止むを得ません。こちらはいち早く『村』の食人鬼オーガを殲滅し、それ以外の食人鬼オーガを相手に狩られる前に少しでも狩る事にしましょう」


 そう言いながらもリーリャは対策を考えているようだ。 


 うふふ、頼むわね……


 彼女はまるで誰かに頼むようにそっと呟いた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 時間は僅かに遡る……


 ロドニア王国選抜が出発した直後の事だ。


 狩場の森『村』に通じる道に突然栗鼠のような小動物が現れた。

 異界から現れた、その『栗鼠』は左右を見渡すと短く鳴き、その姿を消したのである。


 暫くして……その栗鼠が狩場の森『村』の周囲を素早く移動していた。

 全身が薄いグレーのふさふさした毛並みを持つ栗鼠のような動物――それはリーリャの使い魔であるカーバンクルのクッカである。


 カーバンクルとは手に入れた者にとてつもない富と幸運をもたらすと言われている伝説の聖獣だ。

 滅多に出現しないこの聖獣の名は赤い宝石と言う意味を持ち、紅玉ルビー柘榴石ガーネットを表す事もある。

 今、クッカの額には彼女がカーバンクルである事を示す真紅の宝石は見当たらない。

 ルウのアドバイスにより、主のリーリャが額から隠すようにクッカへ命じたからである。

 しかし彼女のカーバンクルとしての能力は決して損なわれてはいなかった


 やがてクッカのつぶらな瞳に2匹の食人鬼オーガが映り込む。


 キッ!


 ひと声鋭く鳴くクッカ。

 それはわざと自らの存在を報せる様な意図的なものであった。

 案の定、2匹の食人鬼オーガはクッカを認め、咆哮する。

 背を向けて走り出したクッカを食人鬼オーガ達は本能的に追い始めたのであった。


 そもそも食人鬼オーガという魔物は何も人間だけを襲うのではなく、この大陸の食物連鎖の上位に位置する捕食者だ。

 彼等は小動物から鹿、猪、大狼、熊など中大型の獣も餌とし、加えて人間の飼育する家畜も襲うのである。

 クッカも彼等には単なる餌に見えたようだ。


 だがカーバンクルは見かけよりは、ずっと霊格の高い聖獣である。

 高い知能を有するだけではなく、多くの魔法を使いこなし、動きも俊敏だ。

 食人鬼オーガのような鈍重な魔物に捕まる筈もなかった。


 案の定、村の中までクッカを追った食人鬼オーガ達ではあったが、いつの間にか、逃げるクッカの姿を見失っていたのである。


 食人鬼オーガ達が見失うのも当然だ。


 クッカは『村』まで食人鬼オーガ達を誘き寄せると、転移魔法で姿を消していたのである。

 索敵魔法も行使出来るクッカはこうして『村』の周囲の食人鬼オーガを特定し、殆ど村へ誘き寄せてしまったのであった。

 これが主リーリャの指示であった事は言うまでも無い。

 当然の事ながら、こうしたクッカの働きは全てリーリャに報告されている。


 これも旦那様が私にしっかりと召喚魔法を手解きしてくれたお陰だわ。

 それでクッカみたいな良い子に巡り会えたのだもの。


 この対抗戦の勝利、そしてこれから許しを得るルウとの結婚。

 いずれもクッカの働きは目覚しく貢献度は大である。


 ありがとう! これからも宜しくね、クッカ!


 リーリャはこれから大事な作戦のキーウーマンとなるクッカにこころから感謝と期待の気持ちを呼び掛けていたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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