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第507話 「ロドニア王国対抗戦②」

 ヴァレンタイン王国『狩場の森』、7月11日午前9時……


 ここ『狩場の森』へ出場者を含む関係者全員が到着したのは午前8時過ぎ……

 着替えを含む支度が済み、『魔法の腕輪』の配布も済んで、これから対抗戦の開会式行われる寸前となっていた。

 進行担当はルウである。

 まずは魔法女子学園理事長アデライドの挨拶だ。 


「本日は天気も快晴。風も殆ど無く、天候は理由に出来ないベストコンディションです。実戦に限り無く近いというリスクを認識し、安全を1番に注意した上で、持てる力を発揮して両チームとも頑張って下さい――以上」


 アデライドの簡潔な挨拶が済んだ後に、『狩場の森』管理人のイベールが森の概要を説明をする為に進み出た。

 これは以前に事前の説明会で話した事と同じ内容だが、前回居なかった者に対しての説明と再度の確認を兼ねている。

 イベールの表情は真剣そのものだ。

 何しろ普段の訓練とは違い、魔物が相手の実戦である。

 一歩間違えば、怪我どころか、命にも関わる事になるからだ。


「この狩場の森は王都セントヘレナの近郊に位置し、生徒が魔法の発動及び効果を検証する為にヴァレンタイン王国騎士士官学校と同魔法男子、同女子両学園が共同所有で買い取り、建設した物である。中でも騎士志望者の実戦研修を行う為の場所と位置付けられている。森の大きさは魔法女子学園の屋内闘技場の約20個分近くなる広大な物じゃ」


 イベールは自分と同様に真剣な眼差しの出場者を見て満足そうに頷いた。


「森の周囲には高い外壁を設けると共に強力な魔法障壁を巡らし、外に害が及ばないようにしておる。森の中にはヴァレンタイン王国軍や冒険者が生け捕りにした魔物を人為的に放っておるが、高地、砂地、沼そして村や古代遺跡などが配されており、魔物と戦う上で実戦に即したものとなり得る。当然魔物の習性によって好む場所があり、それを認識するのが特定の魔物を狙い撃ちするコツじゃ」


 イベールの話の中には前回と違って若干アドバイスが入っている。

 フルール・アズナヴールを含めて魔法武道部の部員は相変わらず熱心にメモを取っていたが、ロドニア王国側でメモを取っているのはリーリャとラウラのみであった。


「魔物の種類もインプ、ゴブリン、オーク、オーガなど様々で多士済々じゃ。最近は大狼が加わり、更にバラエティに富むようになった。これらの魔物は基本的には参加者が致命傷を受けないように爪と牙を抜き、個々の魔物に束縛の魔法を掛けて膂力もだいぶ抑えておる」


 フルールは頷きながら、メモにチェックを入れている。

 どうやら個々の魔物の攻略方法の確認が彼女の頭の中で行われているようだ。

 ルウはそんなフルールを見て満足そうに頷く。

 その間もイベールの説明は続いている。


「しかし、たまにじゃがイレギュラーとして突然変異の上位種なども現れる事がある。こういったイレギュラーや森の中で自然繁殖した個体は自然のものと差が無く強力なので注意されたい」


 ここでイベールはひとつの腕輪を持ち出して上に掲げた。

 先程、配布された『魔法の腕輪』である。

 出場者の視線が集中した。


「試合の参加者は全員この『魔力の腕輪』を渡され、身に付ける事になる。ちなみに腕輪の能力じゃが、まず採点機能じゃ。先程話した魔物は強さによってそれぞれの獲得ポイントが決まっており、倒すとポイントが腕輪に記録される。不正が行われないようにこの腕輪は管理者以外には干渉出来ないし、特定の魔法以外では外せないようになっている。次に位置確認機能じゃ。索敵の魔法の応用でこの腕輪により参加者の位置確認も容易に出来るというわけじゃ――以上」


 続いてフランがルールを説明する。

 これも事前の打合せの時と殆ど同じだが、新たに加わったルールがあるようだ。


「競技は前半が午前10時から午後12時、後半制は昼を挟んで午後1時から午後2時30分までとなります。但し先攻チームには10分間のアドバンテージを与えます。なお、終了時間までにこの管理棟に戻って来ない、もしくは来れない場合はペナルティとして1分につき1ポイントの減点になります。ご注意下さい」


 新たに告げられたアドバンテージと減点のルール!

 両チームの出場者全員が携帯用の魔導時計を管理塔の魔導時計と見合って遅れていないか確認する。


「このポイント制で高得点を上げたチームの勝ちとなりますが、ちなみに出場者全員のポイントを合わせた数字となります。注意して頂きたいのは魔力が尽きたり、負傷して競技の参加継続不可能となった場合はその場でリタイア扱いとなる事です」


 リタイアになった者に関して再度出場は不可だとフランは念を押す。

 こうしておいた方が無理をする者が出なくなるという判断である。


「こうした判断は立会人が行なう事になっています。最後に表彰ですが優勝チーム、及び立会人が判定した優秀者を両チームの中から3名選出します。賞品も用意しましたので期待してください――以上」


 表彰とそれに伴う賞品の話になった時にジゼルの顔が少しほころんだ。

 子供のようではあるが、そのような事を励みとするのがジゼルの癖なのである。


「次に両チームの先発メンバーを発表する」


 ルウの手には両チームから渡されたメンバー表が掲げられていた。

 彼から出場者の名が読み上げられて行く。


「まずはヴァレンタイン王国魔法武道部。ジゼル・カルパンティエ、シモーヌ・カンテ、ミシェル・エストレ、オルガ・フラヴィニー、フルール・アズナヴール――以上」


 フルールが決めた作戦通りに、ジゼルとシモーヌの両エースを投入して先行逃げ切りで勝ち切る作戦だ。

 また、1年生のフルールが先発に入っている事に会場の結構な人数が驚いた。

 指導するルウ達教師や部員以外はフルールの能力を知らないのが原因である。


「次にロドニア王国選抜チーム。マリアナ・ドレジェル、ペトラ・エスコラ、ミーサ・キヴィ、ラウラ・ハンゼルカ、リーリャ・アレフィエフ――以上」


 こちらもどよめきが起こった。

 リーリャがメンバーに入っているからである。

 ルウや妻達とラウラ以外にリーリャの実力は未知数と見られているからだ。


 続いて立会人の発表である。


「ヴァレンタイン王国魔法武道部はシンディ・ライアン、ロドニア王国選抜はルウ・ブランデルが立ち会います」


 この発表を聞いたジゼルの表情が曇り、リーリャの表情が輝くばかりになったのは言うまでもない。


 最後に1枚の大銀貨をルウが出場者全員に見せる。

 どうやらコインの表裏で先攻後攻を決めるようだ。


「では先攻後攻を決める。前半戦の先攻を取ったチームは自動的に後半戦は後攻となるから、よく考えて決めるように!」

 

 ぴいん!


 乾いた音を立ててルウの指から大銀貨が弾かれ、宙に舞う。

 落ちて来た大銀貨を左手の甲で受け、右手で隠したルウ。

 両チームの主将に表裏を選んで貰うのである。

 ちなみに魔法武道部は当然の事ながらジゼル、ロドニアはマリアナであった。


 マリアナが目でジゼルに合図をする。

 選択を先に譲るという意味であった。

 ルウと出会う前のジゼルであったら、絶対にむきになっていたであろう。

 しかしジゼルは以前の彼女とは違っている。

 一礼してマリアナの提案を受けたのだ。


「ありがとうございます! では表!」


「では私は裏だ!」


 果たしてルウが見せた大銀貨は?

 結果は……表であった。


「よし!」


 思わずジゼルは拳を振り上げる。


「先攻でお願いします」


 迷わず先攻を宣言したジゼルに対してリーリャとラウラはがっくりと俯いたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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