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第501話 「作戦会議」

 魔法女子学園屋内闘技場魔法武道部部室、土曜日午後2時……


 今日はロドニア王国との対抗戦前の最後の練習が終わり、昼食を摂った後に部員全員が部室に集まっていた。

 顧問の教師が立ち会っていたのはお昼迄である。

 今、ここにはルウも顧問のシンディ・ライアンもコーチのカサンドラ・ボワデフルも居ない。


 これから対抗戦に向けて魔法武道部の『作戦会議』が始まろうとしていたのである。

 顧問の教師が居ないというのはあくまでも生徒達の独立心を養い、自主性に任せるという事に他ならない。


 魔法武道部は教師のアドバイスは一切無しで自ら作戦を立て勝利しなくてはならない。

 その為か、生徒達の表情はいつになく真剣だ。

 親善試合とはいえ、彼女達としてはやはり勝ちたいという思いが強いからである。


 まずは部長のジゼルが作戦会議開始の挨拶をする。


「明後日の狩場の森での対抗戦は3年生以外には初めての場所だ。通常でも2年生の後半から戦闘実習に使う場所だからだ。では改めてルール等の確認をしておこう」


 スケジュールは午前7時に魔法女子学園集合後、時間ごとの行動がきちんと決められていた。


 午前7時:魔法女子学園集合

 午前7時15分:同学園出発

 午前8時30分~45分:狩場の森到着

 午前9時00分:先発メンバー届け、発表

 午前9時30分~午前11時30分:前半戦

 午後12時~午後12時45分:食事休憩(後半戦メンバー入れ替え届け、確認)

 午後1時~午後2時30分:後半戦

 午後3時:表彰式

 午後3時30分:狩場の森出発

 午後5時:魔法女子学園到着、解散。


 また『狩場の森』自体の概要は1年生のフルール・アズナヴールが詳細にとったメモと調べた資料が部員全員に配布されている。


 森の大きさは屋内闘技場の約20個分近い広大な物である。

 森の周囲には高い外壁と強力な魔法障壁を巡らし、外に害が及ばないようにした上で中に王国軍や冒険者が生け捕りにした魔物を人為的に放っている。

 森の中には高地、砂地、沼そして村や古代遺跡が配されており、魔物と戦う上で実戦に即したものとなっている。

 ちなみに『狩場の森』を退去する為の出口は正門以外には無い。

 また正門の上には高くそびえる監視塔が造られているので森に入った者が正門への方角を間違う事も無い。


 魔物の種類はインプ、ゴブリン、大狼、オーク、オーガなど様々である。

 これらの魔物は基本的には参加者が致命傷を受けないように爪と牙を抜き、個々の魔物に束縛の魔法を掛けて膂力もだいぶ抑えている。

 稀にイレギュラーとして突然変異の上位種なども現れる事もある。

 こういったイレギュラーや森の中で自然繁殖した個体は自然のものと差が無く強力なので注意する。


 対抗戦の出場者は全員『魔力の腕輪』を渡され、身に付ける事になる。

 腕輪には採点機能があり、討伐した魔物の強さによってそれぞれの獲得ポイントが決まっており、倒すとポイントが腕輪に記録される。

 不正が行われないようにこの腕輪は管理者以外には干渉出来ないし、特定の魔法以外では外せないようになっている。


 この『魔力の腕輪』は他にもいくつかの能力を持っている。

 装着者の管理所からの位置確認や安否確認、装着者が緊急で危険を報せる時には同時にある一定時間、物理と魔法両方の攻撃に対応する魔法障壁が発生してある程度の攻撃からは身を守る事が出来るようになっている。

 安全対策はこれだけに留まらず、ある一定の距離毎に休憩所を兼ねた緊急用の避難所も設けてある。

 当然の事ながらこの避難所も魔法障壁で守られており、腕輪を装着した者しか入れないようになっているので、避難所の中に入りさえすれば魔物は追っては来れないようになっている。


「皆、良く読み込んだか? 狩場の森についてはざっとこのようなものだ。資料を纏めてくれたフルールには感謝したい。良くやってくれた」


 ジゼルが拍手をし、続いて部員全員が拍手をすると当のフルールは恥ずかしそうに俯いた。


「よし、次は作戦自体の検討に移る。ここから私達3年生は一切タッチしない。2年生以下で考案したものに従おう」


 ジゼルがミシェル・エストレやオルガ・フラヴィニー達2年生を見やるとミシェルは頷いてフルールに向けて手招きする。

 どうやら事前の打ち合せは済んでおり、またもやフルールの出番のようだ。


「1年生の分際で恐縮ですが、私フルール・アズナヴールが説明させて頂きます」


フルールは壁面に『狩場の森』の地図を張り出すと、軽く咳払いし、説明を開始する。


「今回は最も大事な相手の戦力分析が全く出来ていませんが、『狩場の森』のシステムを使用しての間接的な対決ですので、余り考え過ぎずある程度の把握で良いと思います」


 部員達は1年生のフルールの話をじっと聞いていた。

 フルールの能力は既に部員全員が知っているので、彼女を侮る者はもう居ない。


「ですので、私達が1番有利に戦い易い方法を考えて行きましょう。まず私達には相手にないアドバンテージがあります」


 アドバンテージ……それはここに居る者たちなら誰でも分る事実である。


「言うまでもなく狩場の森を知り尽くしたジゼル部長、シモーヌ副部長を含む3年生の先輩方4名がいらしゃる事です――これはとても有利だと言えます。この地の利を生かした上で……」


 フルールはまず『遺跡』のエリアを指で差し、次いで『村』のエリアを指差した。


「この『遺跡』と『村』エリアの制圧を目指します。制圧イコール掃討! この2つのエリアは食人鬼オーガ達の溜まり場なのです」


 ジゼルはフルールの説明を聞きながら納得したように頷く。


「ルウ先生はシークレットポイントの話をしていましたが、どの魔物にスペシャルポイントが付くのかは不確定です。であれば、やはり私は1番高得点の食肉鬼オーガを少しでも多く狩る事が勝利への近道だと思います」


「質問だ、フルール」


 挙手をしてフルールに質問をしたのはミシェルである。


「はい、先輩! どうぞ」


 発言の許可を貰ったミシェルはじっとフルールを見詰めた。


「さっきお前が言ったルウ先生の話だが、シークレットポイントが付いた魔物は結局どうするのだ?」


「はい! これも作戦が関係して来ます。私達の作戦は先行逃げ切りを狙います。つまりオーガ討伐の為にジゼル、シモーヌ両先輩を前半に投入して出来るだけ狩ってしまうのです」


 フルールの言葉にミシェルは満足したように頷いた。

 彼女はフルールの意図に気付いたからである。


「成る程!」


「はい! 狩場の森での最強の魔物は食人鬼オーガです。どうせシークレットポイントが付いた魔物は食人鬼オーガより戦闘力が落ちます。後半は効率良く残った魔物を出来るだけ狩れば良いのです」


「賛成!」


 今度は挙手をしたのはオルガであった。

 それが口火になったのか、部員達は次々に挙手をする。

 フルールは部員の支持を受けて満足そうに頷いたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 一方――こちらはホテルセントヘレナ、スイートルーム同時刻。


 ロドニア王国対抗戦選抜メンバーによる『作戦会議』が開かれていた。


 こちらもスケジュールと狩場の森の概要の説明がマリアナ・ドレジェルからあり、皆がとりあえず知識として理解はしていたのである。


「リーリャ様……この対抗戦が終わりましたら、予定通り一旦帰国されるという事で宜しいですよね?」


 ラウラ・ハンゼルカが一応、確認を取るがリーリャは当然と言って良い表情で頷いた。


「はい! ルウ先生との結婚の許可を頂きにあがる為に帰国します」


「成る程! ではこのメンバーでヴァレンタイン王国に居るのもこれ限りかもしれませんね」


 マリアナはしみじみと言った。

 ブランカ・ジェデクも結婚が決まったし、帰国してリーリャの結婚が確定したら、今の布陣のままという事はないだろう。

 そう思うと短い間で不自由さはあったが、ヴァレンタイン王国での生活は懐かしい思い出となろう。


 ロドニアに居る時と比べてだいぶお洒落もしたし、美味しいものも食べた。

 街中で不埒ふらちな輩にナンパもされたが、あっけなく撃退したのは言うまでも無い。

 何にしろ初めての体験がとても多くて、マリアナにとっては楽しかったと言える生活ではあったのだ。


「今後のリーリャ様の護衛はどうなるのでしょうか?」


 ブランカが心配そうに聞くが、当のリーリャはあっけらかんとしたものだ。


「要らない……でしょう」


 あっさりと言うリーリャに苦笑するマリアナとラウラ。

 ルウとその従士達の実力を考えたら、確かに無用と言える。


「さあ、本題に入ります!」


 きりの良い所と見たのか、マリアナが対抗戦の作戦会議の開始を宣言した。


「地図を見ましたが、やはり高得点の魔物である食人鬼オーガを確実に狩りましょう」


 マリアナの考えもやはりフルールと同じである。

 イレギュラーの得点を出す魔物に賭けるなどギャンブルでしかないのだから。


「それで……戦法はどうします?」


 ラウラが何故かうんざりした表情で問い掛ける。

 どうやら今の質問が自分でも愚問だと思っているようだ。

 果たしてマリアナの答えは予想通りであった。


「それは決まっている。ラウラ、お前達魔法使いが後方から魔法を撃って攪乱し、我々騎士が突撃して一気に敵を殲滅するのだ」


「今回はもう少し連携を考えませんか? 騎士と魔法使いの……」


 ラウラが恐る恐る提案してもマリアナは聞く耳を持たなかった。


「私が今言ったやり方がロドニア伝統の戦い方である。正面から真っ向勝負! それこそがロドニア騎士の心意気だ」


 頑として戦い方を曲げないマリアナに今度はリーリャが言う。


「マリアナ、折角ルウ先生が『狩場の森』を下見する許可を取ったのにどうして断ったの?」


「リーリャ様! 相手は全員学生のチームですよ! こちらはリーリャ様を除いて全員が本職の大人のチーム。同じ条件で勝っても意味がないではありませんか」


 相手が同じ騎士ならマリアナも、もう少し慎重になっていただろう。

 しかし全員が魔法女子学園の生徒である事に対してマリアナはどうしても対等な条件で戦う事を良し、としなかったのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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