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第499話 「ケルトゥリの気持ち①」

 ルウとリーリャの結婚に伴う様々な話が終わり、ルウとフラン、そしてケルトゥリ・エイルトヴァーラは理事長室を退出した。


 どうやらロドニア王国に魔法学校を創設する事はルウの発案であり、それをアデライドとフランが賛同したらしい。

 アデライドの話によると王家への根回しも万全だ。

 国王の実弟で宰相であるフィリップ殿下。

 ヴァレンタイン王家の中心人物である彼の内諾もルウは貰っていると言う。

 鷹揚な国王リシャールはこの忠実な弟をとても頼りにしており、彼の上申する事に逆らう事はまず無い。

 すなわちこの施策はヴァレンタイン王国の許可を貰っているという事に他ならない。


 しかしケルトゥリには面白くなかった。

 ルウが考えた魔法学校創設援助の提案に対してロドニアの国王ボリスは歓迎するであろう。

 リーリャとの結婚は上手く行く可能性も高まるに違いない。

 ロドニアとの軍事的な緊張も弱まり、両国の友好関係にもプラスになるだろう。

 ヴァレンタイン王国の為になる策であり、国益に繋がる良策だ。


 この策は確かに妙案であるとケルトゥリも思う。

 それは理屈としては分る。

 しかし、いくら考えてもケルトゥリの気持ちは治まらないのだ。

 彼女はいきなりルウに突っ掛かる。


「ルウ! 今日の午後はどうなっているの?」


 しかしルウはこのようなケルトゥリの態度に慣れているらしく飄々としていた。


「どうとは?」


「都合よ、都合。スケジュール!」


「ああ、魔法武道部の指導も今日は無いから空いているぞ」


 もどかしそうに聞くケルトゥリにルウは笑顔で答えた。


「じゃあ、フラン!」


 ルウと言い、フランと言い、いきなり愛称で呼ぶケルトゥリ。

 こんな事は珍しい。

 時と場所、場合にあった物や行動、ふるまいをしっかりと区別する彼女は普段、公私を混同したりはしない。

 プライベートではいくら愛称で呼んでも、学園では敬称や役職で呼ぶようにし、仕事中として弁えているからである。

 ケルトゥリにはいつもの冷静さが無く、逆に大胆になっていたのだ。


「ルウを、あんたの旦那を今日、少し借りるわよ」 


「ふふふ、……ええ、良いわ」


 ケルトゥリの、とんでもない願いを何とフランはあっさりOKした。

 普通の妻であれば動揺したり、取り乱す所であるが、最近のフランはこのような事では殆ど動じない。

 彼女はルウの第一夫人としての貫禄がすっかり板についたのである。


 しかしケルトゥリはそのフランの余裕が逆に悔しかった。


「ルウ、行くわよ!」


 ケルトゥリはいきなりルウの手を掴むと引っ張り走り出した。

 2人の姿が見えなくなった方向を見てフランはほうと、溜息を吐いたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ルウとケルトゥリは本校舎の1階に居る。

 理事長室から魔導昇降機で直ぐに降りて来たのである。

 

 時間は午前11時を回っていた。

 

 少々早いが、地下の学生食堂はランチの営業を開始している。

 地下への階段をチラッと見たルウはいつものような穏やかな表情だ。


「飯でも食うか?」


「冗談じゃないわ、学食なんか!」 


 ルウの誘いをケルトゥリはあっさりと撥ね退けた。

 学食という場所も含めて、彼を誘った理由に原因があるようだ。

 どうやらケルトゥリからルウへ何か大事な話があるらしい。


「だって美味いじゃないか?」


「そういう問題じゃあないの! お昼をご馳走してくれるなら王都の店で奢ってよ!」


「王都か、……ああ、良いぞ」


 ――20分後


 ケルトゥリの提案を受け入れたルウ。

 そんなわけで2人は王都の街を歩いている。

 飄々としているルウにケルトゥリは念を押す。


「良い店に連れて行ってよ!」


「良い店か、分った!」


 ケルトゥリの言葉を聞いたルウは大きく頷くと歩く速度を一気に速めた。

 いきなりペースを上げられたケルトゥリは驚き、必死に追いすがった。


「ま、待ってよ! あんたって女子に優しくないなぁ!」


 ――5分後


 2人は無骨な看板が掛かった一軒の店の前に立っていた。

 看板自体が木を製材せずに丸太を割ってその表面に焼印を押したような物だ。


「ここ……なの? もしや……と思ったけど」


 どうやらケルトゥリはこの店を知っているようだ。


「美味いぞ、この店は」


 ルウはにっこりと笑うが、ケルトゥリは柳眉を逆立てる。


「知っているわよ、それくらい! ルウ、あんたねぇ、もう少し気の利いた店にしてよ!」


「この店は気に入らないのか?」


「当り前じゃない! こんな汚い店、少なくともアールヴ向きじゃあないわ!」


 ケルトゥリの声がどんどん大きくなったが、ルウは穏やかな表情のままだ。


「おいおい! 俺の店の前で騒いでいる奴は誰だぁ!?」


 ルウとケルトゥリのやりとりを聞きつけて、いつの間にか店先へ筋骨隆々の逞しい男が、にやにやしながら立っている。

 年齢ははっきり言って老齢だが、誰が見ても年など感じさせない雰囲気だ。

 店主らしい、この男はルウの声は勿論、懐かしい女の声を聞きつけてつい出て来てしまったのである。


「おう! ファルクンよぉ! 久々だな」


 ケルトゥリが冒険者をしていた頃の2つ名を懐かしそうに呼ぶ老齢の男。


 そう!


 ここは居酒屋ビストロ英雄亭、男はダレン・バッカスである。


「2人とも良かったら店にへぇんな。美味い昼飯食わしてやるからよ」


「…………」


 昔の2つ名を呼ばれたケルトゥリは黙り込む。


「行くか、ケリー」


 ルウが昔、散々呼んだ愛称で彼女を呼ぶ。


 するとどうした事であろう。

 あんなに悪態をついていたケルトゥリは少女のように、はにかんで頷いたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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