第491話 「ステファニーの決意」
マノン・カルリエ、ポレット・ビュケ、そしてステファニー・ブレヴァル3人の話は続いている。
「実は私、独自に調査を致しました」
独自!?
得意げに語るマノンに対して2人の注目が集まった。
「父に聞いたり、学校で他の生徒に聞き込みを致しました」
「へ!?」
思わず驚くステファニー。
独自調査だともったいぶって話す割に情報源がそれでは余りにもお粗末だからだ。
つんつん……
ステファニーの脇腹を誰かが突いている。
彼女がそっと振向くとポレットが俯いたまま、声を潜めて言う。
「お願いだから話を合わせてあげて……マノンは今、『自分の世界』に入っているの。……でも彼女は真摯だし何よりも純粋。私はその点だけは見習いたいわ」
確かに自己陶酔型ではあるが、マノンは彼女なりに自分の人生に向き合っている。
ステファニーは見習うべきだと自らに言い聞かせたのだ。
「私の調査によればルウ先生の『奥様』はフランシスカ校長の他、当学園の生徒の中に何人か居るようです」
それは結構、噂になっている。
問題はそれが誰なのかだ。
「誰!? 名前は?」
ステファニーは思わず詰め寄るが、マノンは渋い表情だ。
「それが……父は口が堅いし、学園内の調査結果も捗捗しくありません。ただ……推測ですが、私はカルパンティエ生徒会長が怪しいと考えています」
「え? まさか!?」
あの生徒会長が!?と口に出し掛けてステファニーも、もしやと考えたのだ
確かに最近のジゼル・カルパンティエは変わった。
戦女神のような神々しさと共に、たおやかな女性になったという評判なのだ。
ステファニーが時折学園内で見かける彼女の仕草にも以前には絶対見せないものがあった。
今迄の凛とした雰囲気の中にも『可愛らしさ』を感じさせるのである。
ジゼルが変わったというタイミングだが、ルウが魔法武道部の副顧問に就任した時期と重なる、とマノンは言う。
もしルウ先生が原因だとしたら……
自分達だって気付いていないようだが、目の前に居るマノンやポレットも以前のような刺々しさが無くなっている。
やはり……充分、有り得ることなのだ。
しかしステファニーはつい自分の考えを口にした。
「でもそんなに大勢の奥様がいらっしゃるって……やっぱり英雄は色を好むって事でしょうか……」
「いいえ! 少なくともルウ先生は他の男性達と比べたら……とても理性的です」
ステファニーの言葉をきっぱりと否定するマノン。
「英雄は色を好む……もしそうであったらどれだけ良いか……先生には私を彼女にするチャンスは何回かあったのに、それをしないのです」
マノンの口調は残念で堪らないという雰囲気だ。
続いて放たれたポレットの声も悲嘆にくれるという表現がぴったりである。
「確かに……私と2人きりになった時もそうなのです」
はぁ、と溜息を吐き遠い目をするポレット。
「教師としての立場から真剣に私の面倒をみてくれるというだけでした。でも先生は自分の事のように親身になって私の事を一生懸命考えてくれた! ですので、つい私から……」
ポレットは興奮の余り、つい口を滑らせてしまい、真っ赤になって俯いてしまう。
勇気を出して自らルウの頬にキスした事を思い出したらしい。
「「つい私から?」」
マノンとステファニーは追求するが、ポレットは俯いたまま頑として答えない。
これは駄目だと思ったステファニーは話題を変えようと試みる。
「私……ルウ先生の専門科目の授業を取っていないので彼の魔法を余り見た事がありません。そんなに凄いのですか?」
「そんなに凄いって……でもステファニーさん、貴女はルウ先生の回復魔法を見たのでしょう? 逆にお聞きしたいですわ。一体どのような魔法だったか詳しく話して頂けます?」
「う! そ、それは……」
今度はステファニーが真っ赤になって俯いてしまう。
彼女はルウにお仕置きで尻を叩かれたなど、口が裂けても言えないと考えていたのである。
「ポレットさんもステファニーさんも何か隠していますね。……まあ良いでしょう。大事なのは私達の大事な将来はルウ先生抜きでは語れないという事です」
マノンが上手く『場』を収めてくれたのでポレットもステファニーもホッとして顔をあげた。
顔をあげたステファニーに対してマノンは優しく微笑み掛ける。
「ステファニーさんは未だ完全にはルウ先生のアドバイスを受けていらっしゃらないようですね」
「は、はい!」
「私が思うに……貴女の場合は家柄に囚われず、そして余り自分の考えに固執せず、色々な事を学び考えてみろと言われると思いますよ」
やはりマノンは以前の彼女とは違う。
先程の『場』を上手く収めた事といい、今の助言といい、人として器が大きくなったとステファニーには、はっきりと感じられたのだ。
「私達は自分を磨かなくてはいけません!」
マノンはそう言うとポレットとステファニーをしっかりと見詰めた。
「私に関して言えばまず当面の目標として宝石に特化した魔法鑑定士を目指します。だけどそれ以外にも様々な可能性に挑戦しますわ!」
マノンは高らかに宣言する。
ステファニーは思わず大きく頷いていた。
そうだ!
彼女の言う通りだ。
私の将来……それはひとつの道のみでは無い事をルウ先生が教えてくれた。
狭量になっていた私の目を覚まさせてくれた。
名門ブレヴァル家令嬢としてではなく、1人の魔法使いステファニー・ブレヴァルとして挑戦する事を教えてくれた。
未知で不安な部分が多くて怖い……
だけど、それ以上にワクワクしている自分が居る。
「私も単なる錬金術師では終わりません! 更なる高みを目指します!」
マノンに続いてポレットも拳を突き上げる。
こうなるとステファニーも黙っていられなかった。
「私は防御魔法が好きです。ブレヴァル家のステファニーでなくとも大好きです」
ステファニーの表情にはもう驕慢さの欠片も無い。
「だけど魔法は奥が深いと改めて考えました。だから防御魔法だけに拘らず自分の可能性を追い求めます!」
「偉いですわ、2人とも! だけどステファニーさんはまずルウ先生の専門科目の受講手続きを急ぎましょう」
決意を固めたステファニーにマノンはもっとルウと触れ合う事を提案した。
そう言われるとステファニーも納得せざるを得ない。
ころころと志望科目を変える人を私は認めません!
ステファニーの中で自分の言葉がリフレインする。
自分はモニクさんに何て酷い事を言ってしまったのだろう。
そうだ! 直ぐに謝ろう!
密かに決意するステファニーを見ながら、マノンは自分達には致命的な弱点があると強調する。
「クラス選びもルウ先生と相談したいのに私達のビハインドは2年C組ではないと言うことです」
確かにルウが副担任の2年C組であれば朝のホームルームや進路相談も含めて色々と話し合えるのは間違いなく、ポレットやステファニーも納得した。
「今後は作戦を立てて、3人で協力しながら数少ない機会を生かしていきましょう」
「「賛成!」」
何か今日は凄い……いいえ、素晴らしい日だったなぁ!
ステファニーは新たな友人となった2人の晴々した顔を見ながら、自分も充実感に満ち溢れていたのであった。
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