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第49話 「勝負開始」

「え? て、鉄仮面って何!? ひ、酷いわ……」


 ショックで驚いた後、力無く顔を伏せるフランに対し……

 追い討ちを掛けるが如く、ケルトゥリから言葉が投げられる。


「だって! あんた、そう生徒から呼ばれていたのよ。普段、感情を全く見せないから」


「…………」


「でも、あの襲撃事件以降……フラン、あんたは全く変わった」


「…………」


「もう、渾名で呼ぶ生徒は殆ど居ない。それどころか……最近あんなに綺麗なのは何故? ってあちこちで噂になっているわよ」


 ケルトゥリの皮肉を込めた物言いに、フランは気付いていなかった。

 その為か、とぼけたような質問で返して来たのである。


「もう、鉄仮面と呼ばれていない? そして私が綺麗ってどういう事?」


 思わず、ケルトゥリは肩を竦めた。

 フランは自分に対し、無頓着な娘なのだ。

 自分がどう思われたり見られたりしているか、全くといって良いほど気付いていない

 

 回りくどい事が嫌いなケルトゥリは、そこでズバッと直球を投げ込んだ。


「女の子はそんな話題が好きだからね。でもあんたの場合は分かり過ぎるぐらい分かり過ぎ」


「え!?」


「はっきり言うわ。あんた、ルウの事が好きなんでしょ?」


「え、ええ~っ!」


 狼狽するフランであったが、その時である。


「ケリー、話はもう良いか。敵だ」


 ルウの鋭い声が飛んだ。

 

 どうやら敵襲のようである。

 聞いたケリーは更に呆れ顔だ。


「ルウ、あんた本気でこの【勝負】を受けるつもり?」


「ああ、立会人をしっかり頼むぞ、ケリー」


 ケリーの問い掛けに対し、ルウは笑みを絶やさず、真っすぐ彼女の顔を見つめていた。


「わ、分かったわよ! ちゃんとやるから!」


 ケリーは一瞬どきりとした。

 

 人間なのに、全く似ていないのに……

 ルウの顔付きは、今は亡きソウェル、シュルヴェステル・エイルトヴァーラの面影があったのだ。


 ルウはすぐフランへ向き直る。


「フラン、敵襲だ。大丈夫か?」


「え、ええ! だ、大丈夫よ!」


 何度も噛みながら、フランも気合を入れた。

 そんなフランにルウは、状況を告げて行く。


「300m先にオークの群れだ。数は10、奴等を誘き出すから、この前と同じ連携攻撃で行こう。合図やタイミングも同じ要領だ」


「分かったわ」


「ケリー!」


 ルウに名前を呼ばれてケルトゥリはドキッとする。

 

「お前の腕なら大丈夫だろうが、自分の身は自分で守れよ」


「え、ええ……」


 ルウにそう言われ、少し寂しそうな表情のケルトゥリと戦闘態勢に入ったフランを残し……

 先ほどと同じく、ルウはオーク達の群れにそっと忍び寄って行った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ところで……

 魔物には上位種、または希少種とも言う『イレギュラー』が存在する。

  

 同じ種族の中では突発的に生まれる個体がそう呼ばれ、個体の大きさや能力等に優位性を持つ事が多い。

 そして今、ルウ達が倒そうとしているオークの群れにも上位種は居た。

 オークジェネラルと呼ばれる特殊な個体である。

 

 通常のオークの約3倍の膂力を持ち、武器も巧く使いこなす。

 僅かだが人語を解し、喋る者も居る。

 

 人間の子供レベルらしいが、物事を判断する知能も有している。

 そしてこのオークジェネラルが、リーダーとして群れを統率していたのだ。


 オークジェネラルを中心に群れは森の中を進んでいた。

 しかし10体のオークによって構成された群れは、いきなり現れた闖入者によってあっという間に2体が倒された。


 うおおおおおおおおおん!


 何が起こったのかという驚愕。

 そして無念さ故であろうか、オークジェネラルが大きく咆哮した。

 

 驚愕するオーク達の視線の向こうには……

 何も武器を持たない長身、痩躯の人間、つまりルウが立ち尽くしていた。


 敵だ! 


 オークジェネラルはルウをそう認識した。

 そして群れに対し、集団で囲み、一気に殲滅する事を命じたのである。

 さすがに以前、ルウがオークと入り乱れて戦った時とは著しく違っていた。

 

 こうして……

 オークジェネラルを除いた残り7体のオークがじりじりとルウを囲み、その輪を徐々に狭めて行く。


 しかしルウは、腕組みをしたまま動かない。

 

 オークジェネラルの表情には苛立ちが見える。

 それは違和感であった。

 普通の人間なら、表情に恐怖を滲ませる筈なのに……

 あの人間の男には全く無い。

 

 ええい! ままよ。

 

 オークジェネラルはひと声吼え、群れに突撃するように命じる。

 ここまで来て、群れに撤退を命じる選択などなかった。


 群れのオーク達が一斉に襲い掛かる。

 

 しかし!

 

 オークジェネラルはルウの姿が一瞬ぶれた様に感じ、あっという間に見失う。

 そして彼の目に入ったのは……

 首を飛ばされたり、腹に大穴を開けられて絶命した仲間の姿であった。


 い、一体何が起こった?

 

 オークジェネラルが驚いた時。

 更に普通では考えられない事が起こった。

 いきなり人間の気配が目の前にあったのだ。 

 

 そんなオークジェネラルの前に立ちはだかった長身痩躯の男、ルウが告げる。


「お前が居ると……群れは誘き出せないようだ。死んで貰う」


 オークジェネラルは恐怖のあまり、身体が硬直して動かない。

 瞬間、ルウの拳が閃光のように煌き、オークジェネラルの首をあっけなく刎ねていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「あ、来た!」


 ルウが5体のオークを引き連れ、フランとケルトゥリの居る前方に現れた。

 

 彼ならば絶対に大丈夫……

 そう思いながら、やはりフランは心配してしまう。

 

 しかし、ケルトゥリの恨みがましい視線を感じると……

 フランは慌てて魔法式詠唱の準備を始める。

 

 そう、今はジゼル達と、勝負の真っ最中なのだから。

 やがて充分、魔力が高まった所で、ルウの名を大声で呼び、フランは魔法式を唱え始める。


「天に御座します偉大なる使徒よ! その聖なる浄化の炎を我に与えたまえ! マルクト、カフ!」


 ルウがすかさずその場から離れる。

 と、フランから放たれた複数の炎弾がオークに向かって飛んで行く。

 

 そのうち3発がオークを瞬時に消し炭とし、撃ち洩らした2体のオークも、ルウがすかさず拳で葬ってしまう。


 連携プレーで敵を全て倒し……ルウはゆっくりとこちらに戻って来る。

 そんなルウに手を振りながら、フランが安堵の表情を見せる。


「ああ、良かった! 勝ったわ!」


「何よ、オークなんて。ルウの手に掛かったら雑魚じゃない。茶番よ、こんなの……」


 しかしケルトゥリはつまらなそうに呟き、ツンとそっぽを向いたのであった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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