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第489話 「ステファニー・ブレヴァルの横槍③」

「か、身体が軽い! 軽いわ! ど、どうして!?」


 ルウに回復魔法を掛けられたステファニー・ブレヴァルは思わず叫ぶ。

 実は最近、彼女は体調不良で悩んでいたのである。

 症状はというと倦怠感があり、身体が重く感じて動きに切れが無かったのだ。


 それが嘘のように身体が軽いのである。

 快癒した原因はルウの魔法による事は間違いが無かった。

 驚くステファニーにルウは言う。


「身体の中のお前の魔力の巡りが悪かったから、こころと身体両方に余計な負担が掛かっていたのさ。だから気持ちも不安定で直ぐイライラしていただろう」


「…………」


 ルウの指摘にステファニーは大きく目を見開いた。

 沈黙は肯定の証であろう。


「ははっ、図星のようだな」


「な、何故!? 分るのですか?」


 ルウが自分の体調不良を見破った事に相変わらず驚きを隠せないステファニーだ。


魔力波オーラさ」


「魔力波?」


「お前が放出する魔力波が通常の波動と違っていたからな。体調不良だって直ぐ分ったよ」


 魔力波を読み切って自分の体調を見極めたのは確かに凄い!

 だけど、もう少し優しくしてくれたって!

 

 ステファニーの思いを他所にルウの穏やかな表情は変わらない。

 自分に比べて冷静とも言えるルウの顔を見ているうちにステファニーは段々腹が立って来た。


「……そんな具合の悪い女の子のお尻を容赦なく叩くのですか? 酷いですよ!」


「ははっ、それくらいは平気だと思ったからな」


 抗議するステファニーに対してルウは意に介さずという雰囲気だ。

 単に体調不良を見破っただけでなく、その具合の程度までも分っていたようである。

 ステファニーがクールダウンしたと見てルウは問う。


「ところでステファニー、少しは反省したか?」


「一応反省……しました。噂を簡単に信じてはいけないって。念の為にお聞きしますが、ボードリエ先生、この噂は本当ですか?」


 素直に反省するステファニーだが、ルウに言われた通り自分自身で確かめる事を忘れない。

 質問されたクロティルドは当然正直に答えた。

 彼女は元神官で基本嘘は言えないからだ。


「とんでもない! 現に私も頼み込んで魔法を教えて貰う約束をしているわ。その、……『色目』を使ったって噂だけど……ルウ先生から女性を口説くのは今迄全く見た事が無いの。それに……」


「それに?」


「……残念ながら私は口説かれた事なんかないのよ。それに校長を始めとして他の女性達も私が本人から聞いた限りでは自分から好意を持って飛び込んで行ったって」


 つい本音の部分も出してしまったクロティルド。

 ステファニーは完全に自分が間違っていたと認識したのである。


「……分りました! ブランデル先生、謝罪します! 根も葉もない事を言って申し訳ありませんでした!」


 ぺこりと頭を下げたステファニーだが、直ぐ顔を上げるときっぱりと言い放つ。


「私も……確かめます!」


 噂を安易に信じてしまった自分を省みているステファニーだが、何か含みのある言い方をしている。

 ルウは相変わらず苦笑いをしたままだ。


「確かめる?」


「ええ、そうです! こんなに凄い治癒の魔法を使うなんて!」


 ステファニーの感嘆の言葉にクロティルドも思わず追随した。


「確かに凄いですよ、ルウ先生。神官や司祭、僧侶が使う回復魔法はここまで劇的に症状を良くしたりしませんから……それに1度に複数の効果を与えるなどと……規格外です」


 苦笑したルウは手を軽く横に振った。

 どうやら大事おおごとにしたくないらしい。


「まあ良いじゃあないか、大した事じゃあない」


 ルウの言葉に敏感に反応したのはステファニーである。


「良くありません! ブレヴァル家はヴァレンタイン王国における防御魔法の宗家です。お祖父様やお父様でも治癒出来なかった私の体調不良をいとも容易く直してしまうとは!」


 しかしステファニーの言葉を聞いたルウは、はたと手を叩いた。


「それだ!」


「それ?」


 ルウが気付いた事が分らず可愛く首を傾げるステファニー。

 そんな彼女にルウははっきりと指摘した。


「お前は自分の家にこだわり過ぎだ。それが視野を狭めている」


「家に拘り過ぎ……視野を狭める……」


 代々、創世神に仕える神官長を務める家柄のブレヴァル家。

 そんな環境で育ったステファニーが自分には防御魔法しかないと思い込むのも無理はない。

 ルウの言葉を噛み締めるように復唱するステファニーだったが、新たなる言葉が彼女を待っていた。


「そうさ! 丁度良い! ブレヴァル家のステファニーとしてではなく1人の素質ある魔法使いステファニー・ブレヴァルとして自分を見詰め直してみたらどうだ」


「素質が? ある? 私が? 本当?」


「ああ、お前の魔力波は中々だ。モニクもそうだが、宝石の原石のようなものさ。魔法も防御魔法だけに限定せずに他の科目も学んでみると良い。きっと色々なものが見えてくると思うぞ」


 ルウに『宝石の原石』と励まされたステファニーは気持ちも身体もますます軽くなって行くのを感じている。

 こうなると彼女はルウに対して素直な物言いに変わった。

 どうやらルウに対する信頼と気安さも生まれつつあるようだ。


「ブランデル先生、いいえ……ルウ先生。防御魔法が専門外の筈の貴方が凄い回復魔法まで使うなんて……私、貴方のいう事なら納得します」


「納得してくれたか?」


「はい! だから!」


 未だ何か言いたげなステファニーにルウがストップを掛けた。


「まあ待て、ステファニー。お前の悩みや進路相談は本来、2年B組担任のリリアーヌ先生へ話すべきだ。 今日は……時間も無いし、そろそろモニクの相談をクロティルド先生としたい。悪いが、部屋を出てくれるか?」


 このままステファニーと問答を続けているとモニクの相談が出来なくなってしまう。

 それに担任であるリリアーヌの立場も考えてルウは敢えて冷たい言い方をしたのである。


「え、ええっ!?」


 だが、そのようなルウの気遣いもステファニーには分らない。

 驚くステファニーに対して今迄黙っていたモニクもはっきりと意思表示をする。


「貴女の勢いが凄いから今迄黙っていたけど……この科目変更の件はしっかり考えたの。私の将来が掛かっているのよ、お願いだから出て行って下さい」


 呆然とするステファニーに対してルウはドアを開けて直ぐに出て行くように命じたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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