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第488話 「ステファニー・ブレヴァルの横槍②」

 ステファニー・ブレヴァルに近づくルウをクロティルド・ボードリエが止めようとする。


「ルウ先生、お願いです! 手荒な事は……」


 そんなクロティルドの様子にルウは違和感を覚えたが、彼女の出す魔力波を見て直ぐに理由が分る。

 クロティルドが元神官なのとステファニーがブレヴァル家の令嬢だという事に関係があったのだ。

 多分、ブレヴァル家が主筋という事であろう。

 しかしルウは首を横に振った。


「クロティルド先生、貴女は以前マノンには厳しかったじゃあないですか? 叱るなら同じにしないといけないですよ」


 そんな中、後退りするステファニーであったが、間を置かずルウは駆け寄って彼女を小脇に抱えた。


「!」


 抱えられた瞬間、声にならない悲鳴をあげるステファニー。


 これは……もしや!?


 最早、ステファニーには悪い予感しかしない。

 その通り、彼女の勘は当たった。


 パン! パン! パン!


 すかさず部屋に乾いた小気味良い音が鳴り響く。


 きゃう~! い、痛い~!


 ルウはリズミカルにステファニーの小さな可愛いお尻を打っていたのだ。

 普通なら悲鳴が聞えるものだが、ステファニーには『沈黙サイレンス』の魔法が掛かっている。

 相変わらず悲鳴を発する事が出来ないステファニーは虚しく口をパクパクするのみであった。

 抵抗を試みようと手足をバタつかせて暴れるステファニーだが、それに構わずルウは尻を打ち続ける。


「悪い子はな、人間でもアールヴでもお尻を叩かれると相場が決まっているんだ」


 痛い! 痛い! 痛~い!


「よ~し、もう良いだろう」


 ルウはそう言うと無造作にステファニーを肘掛つき長椅子ソファに座らせた。

 しかしとんでもない痛みが彼女を襲った。


 ぎゃううう! お、お尻が! い、痛い! 座れない~!


 声にならない声を上げて思わず立ち上がるステファニー。

 尻を打たれた痛さで、まともに肘掛つき長椅子ソファへ座れないのだ。


 ううう! こ、こいつぅ!


 キッと睨むステファニーにルウは首を横に振った。


「俺も良く爺ちゃんに尻を打たれたからな! 聞き分けのない子はこうなる」


 ルウはステファニーを諭したつもりであったが、彼女の燃えるような怒りの視線が変わらないのを見て肩を竦める。


「未だ反省していないようだな。もう1回びしっと叩こうか?」


 い、いや! もう嫌!


 ルウがもう1回尻を叩くと伝えると、ステファニーはぶるぶると震え、首を左右に振った。


「ははっ、冗談さ。今のステファニーには直ぐには分らないかもしれないがな。後で俺の言った事を良く考えてくれ」


 口を尖らせるステファニーに対してルウはパチンと指を鳴らす。

 彼女が喋れるように沈黙の魔法を解除したのである。


「もう喋れるぞ」


 ルウの言葉を聞いて喋れる事を確認したステファニーは早速、抗議した。


「理不尽だわ! こんな酷い暴力を振るうなんて! お祖父様にもお父様にもお母様にも! こんな仕打ちを受けた事なんてないのに!」


「理不尽? 酷い暴力? これはいけない子を叱るしつけさ」


 暴力と聞いたルウは首を横に振る。

 彼はいつもの穏やかな表情に戻ってステファニーを見詰めていた。

 一方、躾と聞いたステファニーは訝しげな表情だ。


「躾?」


「そうだ、躾さ。事実無根の話をして相手を誹謗中傷したりするのはとてもいけない事だ」


 ルウは優しくステファニーを諭した。

 しかしステファニーにはルウの言う事が未だ理解出来ていないようだ。


「だってそうじゃない!」


 頑なに主張するステファニーにルウは問う。


「そうだって……お前がそのように言う根拠は何だ?」


「根拠? それは私の周囲の方がそう言っていましたもの……」


「その周囲って誰だ? ここにクロティルド先生は居るが、いつ俺が先生に色目を使った? 俺や彼女、そしてアドリーヌ先生に直接聞いたのか?」


「き、聞いていません……」


 口篭るステファニー。

 彼女の話は結局、無責任な噂から出たものだったのである。


「口にした言葉というのはもう2度と取り消せないのだ。俺は未だ良いとしても、お前がそのような事を言って変な噂がひとり歩きしたらどうする? それで誰かがふしだらな奴だとレッテルを貼られて傷ついたら、お前はどう責任を取るのだ?」


「…………」


 無言になったステファニーにルウは再度問い質す。


「もしお前に無責任な噂を吹き込んだ子達がいたら同罪以上だ。こんなお仕置きどころじゃあ済まないぞ」


「こんな……お、お仕置きどころじゃあ?」


「そうだ、理事長や校長に報告すれば良くて訓戒、停学。悪質なら退学だな」


「え、えええっ!」


 訓戒、停学。悪質なら退学……

 ステファニーの頭の中を怖ろしい言葉が駆け巡る。

 そんなステファニーにルウは詰め寄った。


「さあ、じゃあ誰だか言って貰おうか」


 こうなるとかステファニーに噂を吹き込んだのは誰だと、言える筈もない。


「…………」


 だが!

 無言のステファニーに対してルウはあっさりと頷いたのである。


「ああ、大体分った!」


「え、ええっ! な、何故!?」


「2年B組のバ……」


 ルウがステファニーの魂に浮かんだ名前をあっさりと言おうとするのを彼女は慌てて遮った。


「や、やめてください! 全て私が悪いのです。何も確かめず迂闊うかつに信じた私が……他の人は悪くありません」


 同級生を庇い、初めて自分が悪いと認めたステファニー。

 ルウはステファニーの言葉を聞いて、何故かそれ以上追求せずにあっさりと彼女を許したのである。


「ようし! 俺はその言葉が聞きたかった、だからご褒美をあげよう」


「ご褒美?」


 ルウはそう言うとピシッと指を鳴らす。

 その瞬間、ステファニーの身体を何か不思議な波動と感覚が通り抜けた。


「え、何!?」


「さあ、肘掛付き長椅子ソファに座ってみろ」


 ルウはさっき激痛で座れなかった肘掛付き長椅子ソファに座るように促した。

 ステファニーにしてみれば2度と御免だという経験である。


「い、嫌よ! さっき貴方に打たれたお尻が凄く痛いのよ! きっと腫れあがっているわ!」


 ルウは座る事を拒むステファニーの身体をさっと抱えた。


「い、嫌ぁ……」


 思わず小さな悲鳴をあげるステファニー。

 ルウは彼女をゆっくりと優しく肘掛付き長椅子ソファに座らせたのだ。


「嫌! きっと凄く痛い、わ。……って、あれ!? 痛くない! 全然痛くないわ!」


 ステファニーは驚きの余り、大きく目を見開いた。


「もしかしてボードリエ先生が!? 私に回復魔法を?」


 しかし聞かれたクロティルドも驚愕の表情のまま、首を横に振る。


「ま、まさか!? 貴方が!? ブランデル先生が!?」


 ステファニーは思わず目の前のルウをまじまじと見詰めた。


「だから言っただろう? ご褒美さ」


 驚くステファニーにルウは悪戯っぽく笑うと片目を瞑ったのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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