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第47話 「報告」

「やったじゃないか!」


「ルウが巧くおびき出してくれたお陰よ」


 オーク達の最期は、呆気ないものであった。

 ルウに6体まで減らされたところへ、フランによる何発もの炎弾が放たれ……

 先のゴブリン同様、あっと言う間に炭化し、四散してしまったのだ。


 フランは自分でも意外であった。

 いつもの炎弾より、遥かに威力が増しているような気がする。


「ああ、フランの魔力が上がっているからさ」


 ルウは笑うが、フランは半信半疑だ。


 そしてふたりは更に『狩場の森』の様々な場所の探索を続行したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「面白い森だけど、実戦にはあまり役に立たないかもしれないな」


「ふふ、ルウは手厳しいわね。確かにこの森は訓練用だから」


 訓練と森の下見を終えたルウは今、フランを抱えて翔んでいた。

 いつものように大空をではない。

 高度をずっと下げ、地上から1m程の上を滑るように。

 

 ふたりは今、正門を目指していた。 

 訓練終了後、この『狩場の森』を退去する為の出口は、正門以外には無い。

 正門の上には、遠くから視認可能な、高くそびえる監視塔が造られている。

 なので森に入った者が、正門への方角を間違う事も無い。 

 

 魔物が出現する、この森の探索と対応は、ルウとフランには全く問題が無かった。

 

 だが、もしも魔力が尽きたり負傷をした場合、入場時に装着した腕輪で管理所に緊急で危険を報せる。

 と同時に、ある一定時間、物理攻撃にも対応する魔法障壁が発生して身を守る事が出来る。

 

 また休憩所を兼ねた緊急用の避難所も、あちこちに設けられていた。

 この避難所も魔法障壁で守られており、腕輪を装着した者しか入れないようになっている。


 ここまで安全対策が徹底された上……

 この『狩場の森』は、何か事故等があった場合に、管理者は基本責任を問われない。

 そのような意思の確認が為されていた。

 了解しない者は、森への入場を許可しない決まりになっていた。

 

 それ以外のケース、魔法女子学園など、学生による模擬授業が行なわれる場合……

 上級魔法使いの教師か、中堅クラス以上の騎士が、必ず同行するなど、安全が徹底されていたのである。


 ふたりは森へ入る時にも使った、魔法障壁に防護された正門への道に入ると……

 そこからは、ゆっくりと歩き始めた。

 見やれば、もう太陽は西に傾きかけ、空は夕焼けに染まっていた。


「綺麗ね……」


「ああ」


 フランの問い掛けに対し、ルウは曖昧に返した。

 しかし、夕焼けを眩しそうに見つめているから、結構この風景が好きなのかもしれない。

 

 場所が場所だが、とてもロマンティックな光景だと、フランは思う。

 だから、もう少しルウと一緒に歩きたかった。

 

 でも、現実は無情である。

 少し歩くとすぐ、正門に着いたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ほうほう、おふたりとも無事で何より。まあ、私は全然心配していませんでしたが」


 イベールは、いつもの頑固そうな表情はどこへやらの好々爺振りである。


「失礼! 腕輪を拝見しますよ」


 腕輪へ、解除の魔法を掛けた上……

 イベールはふたりへ、手を伸ばして来る。

 ルウとフランはお互いに顔を見合わせて笑い、腕輪を外してイベールへ渡した。


「ふうむ、お嬢様はオ~ガ1体、オーク10体、ゴブリン10体ですか? オーガが10P、オークが5P、ゴブリンは1Pですからな。換算すると70P、これはなかなかですな!」


 フランの記憶だと……

 以前に訓練をした時は40P程度だった。

 なので一気に倍近くなっている。

 ルウの希望からは物足りないかもしれないが、分相応という意味で自分としては満足である。


 フランの腕輪を確認した後、イベールはルウの腕輪を見る。


「で、ルウはどうなんじゃ? おお! オ~ガ5体、オーク15体、ゴブリン20体……都合145Pか」


 腕輪を確認したイベールは、「にやり」と笑ってルウを見た。

 ルウの成績は突出したものではない。

 「こいつ、まだまだ手加減しおって」という意味を込めた皮肉の笑みだ。

 そんなイベールの視線を受けながら……

 ルウはいつもの通り、穏やかに笑っていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 イベールが王都まで、定期便の最終馬車に乗る事を勧めてくれた。

 少し考えた末、ルウとフランはイベールの言葉に甘える事にした。


 帰途は何のトラブルもなく、スムーズであった。

 王都の正門で馬車を降り、ふたりは無事ドゥメール邸へ帰還した。 


「お帰りなさいませ、お風呂と夕食の用意が出来ております」


 玄関では、ジーモンが口元に笑みを浮かべながら迎えてくれた。

 

 フランが「ありがとう!」と元気良く返事をすると……

 ジーモンは一瞬、吃驚した表情になった。

 だが、すぐ満面の笑みを浮かべ、て深々とお辞儀をした。


 1時間後……


 ルウとフランがそれぞれ、入浴を済ませて食堂に入ると……

 アデライドが、これまた笑顔で待っていた。

 

 先ほどから感じている。

 フランは思うのだ。

 お母様、ジーモン、そして使用人達、皆が以前より明るく笑顔である。

 この屋敷全体の雰囲気が、とても明るくなっていると。


 食事の時、流石にアデライドは大人しかった。

 話す内容は魔法の件ではなく、普段の食事の時と同様、差し障りの無い話題に止めている。

 

 何故ならば食堂には、ジーモンを始めとして、使用人達が大勢居るからである。

 

 フランはくすりと笑った。

 アデライドの気持ちが手に取るように分かる。

 魔法オタクの母は少しでも早く、『転移魔法の事』を聞きたい筈なのである。


 片や、ルウも薄々感じていたらしい。

 フランが「いつもより早く、食事を切り上げよう」と提案すれば、知らない振りをして応じた。


 3人は食事が終った後、アデライドの先導で屋敷の研究室に向かう。

 押し込むように、ルウとフランを部屋へ入れた瞬間!

 アデライドの澄ました貴婦人然とした表情が一変する。

 彼女の顔は、まるで話をせがむ子供みたいであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 30分後……


「成る程ねぇ! 地の精霊達の住処である異界へ行って来たのね!」


 「良いなぁ! 良いなぁ!」 と羨ましそうに言うアデライドを見て、ルウとフランは苦笑する。


 しかしそんな苦笑は気にもせず、アデライドは自分の世界に入っていた。


「ああ、素敵! これだけ研究しても、まだまだ私の知らない事なんて沢山あるのよねぇ……」


「…………」


「こんな時だけは、エイルトヴァーラ教頭が羨ましいわよね?」


 そう言って、アデライドは笑った。

 数千年の寿命を誇るアールヴくらい、時間があれば……

 この世の『真理』へどれだけ迫れるのか?

 ……納得が行くまで、研究を続けたい!

 それがアデライドの心からの願いであった。


 そんなアデライド程ではないが……

 フランも彼女の娘だけあって、性格は受け継がれている。

 

 持ち前の好奇心から、今日見た異界の事はフランにとっては興味津々であったし、母アデライドの聞き方の巧さもあった。

 フランはいつの間にか……

 転移魔法の話は勿論、今日の講習の話から始まって『狩場の森』の魔法の発動、連携攻撃の事までも面白おかしく話していた。


「フラン! 良かったわねぇ! 充実した1日だったわね!」


 母の大きな声で、フランはハッと我に返った。

 つい調子に乗って喋っていた。

 自分は、こんなにもお喋りだったのか……

 我ながら、信じられない。


 そして、これまでの自分であれば……

 素直に、「楽しかった!」とは認めてはいなかった。

 しかし、今は違う!

 全く違うのだ。


「ええ! お母様、本当に楽しかったわ。ルウのお陰です」


 フランはそう言い、ルウに向き直ると、改めて深くお辞儀をした。


「ルウ、本当にありがとう! 週末は、一緒に頑張ろうね!」


 ルウへの深い感謝、それは心からのフランの気持ちだったのだ。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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