第466話 「エステル救出作戦③」
ブランデル邸4階大浴場……
カポーン!
脱衣場で衣服を脱ぎ捨てたエステルは広大な洗い場に加えて巨大な岩風呂があるのに圧倒されてしまう。
このようなごつい造りの岩風呂に入った経験など彼女には当然無い。
「ひ、広くて凄い迫力のお風呂ね、オレリー」
「凄いでしょう、エステル。ウチの自慢のお風呂よ」
胸を張るオレリーにジョゼフィーヌが追随する。
「ここはブランデル家の活力の源、いいえ、『聖地』と言って良いですわ」
聖地とまで言い張るジョゼフィーヌを見てナディアは悪戯っぽく笑う。
「うふふ、ジョゼったら大袈裟だね。でも聖地と言われれば段々ボクもそう思えて来たよ。さあさあエステル、身体を軽く洗って湯船に入ろうか」
「は、はい!」
エステルはナディアの指示で身体を軽く洗って湯船に入った。
ルウの魔法で適温の湯が出ると聞いていたが、確かに心地良い。
そしてエステルがもうひとつ圧倒されたのが……
「でも皆さん、凄いプロポ……」
そう言い掛けたエステルの口をオレリーが反射的にさっと塞ぐ。
「駄目よ、エステル……」
そっと手を離したオレリーにエステルは周囲を見渡しながら声を潜めた。
「え、何?」
怪訝そうに聞くエステルに対してオレリーが体型は禁断の話題だと囁いたのだ。
「今、ここには居ないけど……ある人の前でそれは絶対に言ってはいけない話題なの」
「それって……」
誰だろう?
エステルの中でこの屋敷の女性達の顔が駆け巡った。
そんな彼女にオレリーが遠回しに言う。
「ほら、さっき御者をしていた人よ」
「あ、そ、そうなんだ」
小柄で華奢なモーラルを思い浮かべて何故か納得するエステル。
そんなエステルの身体をついオレリーは見惚れてしまう。
「でもエステルの体型はナディア姉にそっくりね。胸は可愛くて形は良いし、肌は水蜜桃みたいに瑞々しくて美味しそう!」
そう言われたナディアもエステルの体型の素晴らしさは認めたが、自分ではなくオレリーに似ていると指摘する。
「いやボクはオレリーに似ていると思うよ。彼女は全体のバランスが凄く良いんだもの」
「確かにナディア姉の言う通りバランスが抜群ですわね!」
ジョゼフィーヌも感心したように言うと、エステルは不満そうに口を尖らせた。
「もう! 私なんて胸が無くて困っているんです。皆さんは『それなりの大きさ』じゃあないですか!」
3人に体型の良さを褒められたエステルは頭を抱えた。
彼女にとって体型はコンプレックスの大きな原因だったのだ。
ここらできりが良いと思ったのであろう。
オレリーが終了を宣言したのである。
「体型の話は……も、もうやめましょう。聞かれたら怖いから……」
これには皆が満場一致で賛成した。
「「「賛成!」」」
ここでエステルが恐る恐る手を挙げる。
「ひ、ひとつ良いですか?」
手を挙げて発言を求めたエステルに皆の視線が注がれた。
何か思い切った事を聞こうとする雰囲気だ。
「私、男性に抱かれた事が未だ無いのですが……あ、あのどうなのですか?」
一瞬静まり返る浴場。
「エステルったら……いきなりそれを聞くのですか? 結構大胆ですわ」
ジョゼフィーヌが驚いたようにエステルを見詰めた。
真面目一方の学級委員……彼女にはそのようなイメージがあったからだ。
「だ、だって! 皆さん、ルウ先生の奥様という事はそ、その……経験が……」
口篭るエステルに対してジョゼフィーヌは大輪の薔薇が咲くように微笑み掛けた。
「うふふ、ジョゼは好きな男性に抱かれて愛されるのは……」
思わずごくりと喉を鳴らして続きを聞こうとするエステル。
「愛されるのは?」
「最高ですわ! ジョゼは魂も身体も蕩けてしまいますの」
ジョゼフィーヌはルウに抱かれると蕩けてしまいそうだと言う。
その表情は目を閉じてうっとりと夢を見ているような表情であった。
エステルはその気分が具体的にどうなるかが気になるようだ。
「魂も身体も蕩けてしまうって!? ど、どんな感じ!?」
ジョゼフィーヌは閉じていた目を開ける。
そして今度はきっぱりと言い放ったのだ。
「最高に気持ちが良いのですわ。だから私が抱き合うのは当然旦那様だけです」
こうなるとオレリーも、そしてナディアも遠慮しなかった。
それぞれがこれ以上無い表現で愛する人に抱かれる幸せを表したのである。
「私もそう! 優しくされると大声で泣きたいくらい嬉しいの」
「ふふふ、ボクもだ。安心してこのままどうなっても良いという気持ちになってしまう」
そんな3人がエステルはとても羨ましいと思ったらしい。
つい口を滑らせてしまったのだ。
「…………私も数ヶ月付き合っていた人が居たのですが……」
こうなると恋話に容赦が無いのは当然といえよう。
口火を切ったのは意外にもオレリーであった。
「で、どこまでいったの?」
「ひ、ひえっ、ど、どこまでって!?」
「キス、それとも……」
オレリーの追求は容赦が無い。
それにナディアが追撃した。
「うふふ……ここまで来たら白状した方が良いよ」
生徒会副会長の追及にとうとうエステルは屈してしまう。
「ううう、頬にキスをされてしまいました」
驚いたのはナディアである。
「へぇ! 数ヶ月の付き合いで頬にって、唇も許してないの?」
ナディアの問いにきっぱりと言い返すエステル。
貞操観念に関してはどう言われようと譲れないといった面持ちだ。
「はい! お嫁に行くまでは絶対に駄目です!」
それを聞いた3人の反応は様々であった。
「君は凄いよ」とナディア。
「エステルは真面目です! 偉いですわ!」とジョゼフィーヌ
「彼氏がちょっと可哀想」と相手に同情したのがオレリーである。
その台詞がついエステルの魂のツボに入ってしまう。
「可哀想って……私が悪いと言うのですか?」
むきになって反論するエステル。
ここで間が良いと言うか、ある人物が屋敷に帰還したのだ。
妻達が彼女の存在を索敵能力で察知したのは言うまでもない。
「あ!? 帰って来たわ! もう少しでここに来ますね!」
「本当ですわ! 思ったより早かったですわね」
「ボクには分る、今迄の雰囲気が、がらりと変わるよ」
「……いきなりどうしたのですか?」
3人の反応に対して1人不思議そうなエステルである。
5分後……
浴場のドアがいきなり開かれると誰かが入って来た気配がした。
とうとう『彼女』がやって来たのだ。
「ああ、来たわ。エステル、覚悟しておくのね」
「でもジョゼは楽しいですわ」
「まあ、ボクはいつもの事で慣れているけどね」
「だ、誰ですか? まさかルウ先生が!?」
エステルは相手がルウとはいえ、さすがに風呂に入って来て欲しくはなかった。
そして脱衣場の扉を勢い良く開けて入って来たのは……
「お~い、お前達、遅くなって済まんな。これでも無理を言って早く切り上げ、帰って来たのだぞ」
「ええっ、せ、生徒会長!」
浴場に入って来たのは魔法女子学園生徒会長ジゼル・カルパンティエであった。
エステルの驚きは尋常では無い。
学園一の才媛と誉れ高い美貌の生徒会長までがルウの妻だったからだ。
「ああ、ルウ先生、いや旦那様から聞いたぞ。今夜は泊まるのだってな? その前にエステル! お前の背中を流してやろう! さあ出た出た!」
「ひゃう!」
「どうした変な声を出して! 遠慮するな、ほれほれ!」
その後暫く、ブランデル邸の大浴場は嬌声や笑い声に包まれていたのであった。
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