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第465話 「エステル救出作戦②」

「いらっしゃいませ、お客様! お帰りなさいませ! 奥様方!」


「「「いらっしゃいませ、お客様! お帰りなさいませ! 奥様方!」」」


 玄関に着いたエステルを迎えたのはブランデル家の使用人達である。

 アルフレッド、アリス、ソフィア、そして今日はマルグリットも在宅していた。


「わああ……」


 エステルの自宅にも使用人は居るが、このように気合が入ってはいない。

 さっきの番犬と言い、この使用人達と言い、エステルはブランデル邸の雰囲気にすっかり圧倒されてしまったのだ。

 そこに現れたのがモーラルである。


 彼女はこの屋敷の実質的な家令だ。

 しかし家令の赤帽子アルフレッドはモーラルに対して不満は無いし、実の所、夢魔のモーラルとは人外同士とても仲良くやっているのである。


「ナディア姉達はご自分の部屋に戻って入浴の準備を! レッドは厨房で夕食の準備。アリスはナディア姉達が入る大きなお風呂の確認。ミセスアルトナーはレッドをお手伝いして頂けますか? 」


「分ったよ、モーラル。さあ皆、行こう」


 てきぱきと指示を出すモーラルの言葉を聞いたナディアが、オレリーとジョゼフィーヌを促して階段を上がって行く。


「かしこまりました、モーラル奥様。ではミセスアルトナー、行きましょう」


「はい!」


 赤帽子アルフレッドがマルグリットと共に厨房に消えると、アリスもぺこりと礼をして階段を上がって行った。


「ソフィアはお客様をお部屋にご案内して! その後に私と一緒に魔法女子学園に旦那様達を迎えに行くわ。私のやるのを見て早く御者の技を覚えて貰う為よ」


「は、はい! エステル様、お荷物を私に、そしてこちらへどうぞ」


 未だぎこちないが、栗色の髪を持った小柄な美しい少女がエステルの荷物を持とうとした。


「え、そんな!?」


 躊躇ちゅうちょするエステルにモーラルの声が飛んだ。


「その子=ソフィアはこの屋敷の『使用人見習い』なのです。どうかご協力お願いします」


「そ、そうなのですか……」


 エステルが恐る恐る自分の鞄を差し出すとソフィアと呼ばれた少女はにこりと笑って受け取った。


「エステル様、ありがとうございます! こちらです」


 そのままソフィアに導かれ、目の前の階段を上がって直ぐの部屋が今夜エステルが宿泊する部屋らしかった。

 部屋は15畳ほどの個室で何とトイレと風呂が備え付けである。

 ベッドは華美なものではないが、丈夫そうな木材を使用した渋い趣の物であった。


 ソフィアはドアを開けて部屋の片隅にエステルの鞄を置くとぺこりと礼をする。


「後は何かこのソフィアに御用はございませんか?」


「ええと、今の所はありません」


「では失礼します。何かありましたら遠慮なく呼んで下さい」


 エステルが言うとソフィアはゆっくりとドアを閉めて引き下がって行ったのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 15分後……


 とんとんとん!


 唐突にリズミカルなノックの音が響き渡る。

 エステルは将来性のある才能豊かな魔法使いではあるが、今の所、魔力波オーラを読み取る能力は持っていない。

 このような状況でもあり、いきなりのノックについ慌ててしまう。


「だ、誰!?」


「オレリーよ、オレリー・ブランデル!」


 同級生だと聞いてホッとするエステル。

 これが生徒会副会長のナディアであったりしたら、緊張は更に増すであろう。


「ああ、オレリー、何?」


「ちょっと部屋に入れてくれる? お願い」


「分ったわ」


 入室を求めるオレリーに承諾の返事をしたエステルはゆっくりとドアを開けた。

 そこには満面の笑みを浮べたオレリーが立っている。

 そんなオレリーの姿にエステルは何となく違和感を覚えた。


 オレリーって……

 失礼だけど、こんなに明るかったかしら?

 いつもは教室で余り喋らず、とても大人しい子なのに。


「うふふ、エステル。念の為聞くけど、貴女……今、月のモノって来ていないわよね?」


 月のモノとはすなわち『生理』である。


「ええ、来ていないけど……何?」


「これから皆の親交を深める為にお風呂に入りま~す!」


「ええ……分ったわ……って! お、お風呂ぉ!?」


 何気に承諾した事が未知の経験だと知ってエステルは仰天した。

 同級生だとはいえ、いきなり一緒にお風呂に入る?

 それって私を助けてくれる事とどんな関係があるのだろう?


「そう! 全員で入るのよ! 普段は旦那様も一緒なんだけど今日は貴女が入るから、特別に女性だけでね」


 改めて話を聞くと同性だけで入浴するらしい。

 一瞬安心したエステルであったが、やはり不安がこみあげて来る。


「ま、待って……私、他人と一緒にお風呂に入った事なんかないの。無理だわ」


「私もそうだったけど、最初は皆そう思うのよ。でもこれはルウ先生こと旦那様だけでなく、フラン姉、つまりフランシスカ先生の指示なの。つまりこれも授業の延長なのよ、エステルさん!」


 授業の延長……

 しかしエステルの常識ではそのような論理は理解出来なかった。


「そ、そんな事言ったって! いきなりこころの準備もなしに……」


 そう呟いたエステルはオレリーの顔を見てぎょっとする。

 オレリーの顔が今迄と打って変わって真剣だったからだ。


「貴女の事情って詳しい事は聞いていないけど……旦那様が泊まる様に仰ったなら結構込み入った事でしょう? ところで私は以前貴女が言っていたのを覚えているけど……」


「…………」


「貴女は将来、工務省に入って人の為に役に立ちたいのでしょう? であれば1人で仕事をするのは難しいわ。進んで人の輪の中に入ってお互いに胸襟を開いていかなければやっていけないと思う」


「オレリーさん……」


 エステルはクラスでも特別に親しくないオレリーがこんなに自分の事を考えてくれるなど思いもしなかった。

 そんなエステルを見ながらオレリーの話は続いている。


こころの準備が無しだから却って良いのよ。お互いに裸で飾り気無く語れるから良いのよ。貴女とは今迄クラスでも余り話せていなかったけど、これをきっかけにもっと仲良くなれたら良いなって私は思うし、ナディア姉もジョゼもきっと同じよ」


 ルウやフランはオレリー達の事を分っている。

 エステルを屋敷に泊まらせると聞いた時点で何か力になりたいと考える優しい娘達なのだ。

 そんなオレリーの思い遣りがエステルの魂にゆっくりと沁みて来る。

 よくよく考えれば、一緒に帰る時から根掘り葉掘り事情を聞いて来ないのもオレリー達の『優しさ』なのだ。


「…………」


「山奥に閉じこもって独りきりで仕事でもするのなら無理にとは勧めないけど……旦那様が貴女をここに呼んだのは意味がある筈なの。最初から駄目とか、無理なんて言っていないで試してみないと……こんな事、別に難しくも何ともないわ」


 オレリーの言葉と優しさに漸く納得したエステル。

 もう彼女に全く異存は無かった。


「あ、ありがとう! オレリーさん」


「あはは、いきなり無理を言って御免ね。でも大丈夫よ、絶対に楽しいから。それにもう『さん』は無し! お互いに名前で呼びましょう、エステル!」


「分ったわ! オレリー!」


 オレリーがエステルの声に応えるかの如くそっと右手を差し出した。


 エステルは迷う事無く、その手をしっかりと握ったのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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