第463話 「リリアーヌのお願い②」
「俺にはフランが居るし、実は他にも妻が居る。リリアーヌはそれでも良いのか?」
ルウをじっと見たリリアーヌはこくりと頷いた。
彼女はたくさん居る妻の1人でも構わないと意思表示をしているのだ。
妻になる条件など付けず、躊躇無く頷いたリリアーヌにルウは話の内容を変える。
「リリアーヌは男の本能は分かっているよな?」
「え、本能?」
いきなり違う話を振られたリリアーヌは少し戸惑っているようだ。
ルウはそれに構わず話を続けた。
「ああ、本能さ。リリアーヌみたいな魅力的な女性を見たら、まず男は内面より外見に魅かれてしまうんだ」
内面より外見……
確かに最初に会った時に常人には人の内面など分からない。
容姿を見て自分のイメージする人物像を想像するしかないのだ。
だが、これは男女の違いは無いとリリアーヌは考えたようである。
「……それは外見が格好良い男性を求める女も同じかも……」
「……ははっ、そうか? まあ本能が先に立つと男はつい正常な判断を失うのさ。例えて言えば『盛りのついた猫』だぞ……そうなるとリリアーヌも引くだろう?」
今迄、知人の紹介や自由お見合いなどで会った男達は皆、まともに話す前に自分の身体を嫌らしい目で舐めるように見ていたのだ。
リリアーヌは彼等をふと思い出して、鳥肌が立った。
しかし目の前のルウは違う。
今迄会った男のように全然、嫌らしくないのだ。
「確かに! ……でもルウさんは冷静よね。普通の男は今頃私を押し倒しているもの」
「冷静? いや俺も男だし中身は全く同じさ。まあ俺は『猫』みたいに可愛くはないがな……ただ自分を制御はしているし、リリアーヌにいきなり獣みたいな姿を見せたら失礼だろう?」
「失礼じゃあないわ! 私、荒々しい肉食系は嫌いじゃありません! 身体だけじゃあなく本当に私の事を好きならば許せます!」
苦笑するルウに対してリリアーヌは反論した。
本気で自分を好きなら抱こうとする気持ちがあっても良いのだと!
いきり立つリリアーヌをルウは優しく諭す。
「その『本当に』――が1番の問題さ。俺なんかよりもリリアーヌの事を『本当に分かる男』に抱き締めて貰った方が絶対に良いぞ」
「本当に分かる男?」
聞き直すリリアーヌであったがルウの言う事は理解したようである。
ルウは大きく頷いてリリアーヌに話を続けた。
「ああ、リリアーヌはそういう素敵な男と必ず出会えると俺は思うぞ」
「……でも今迄上手くいった例が無いのよ。出会ったのは変な男性ばっかりなの」
じっとルウを見詰めるリリアーヌの視線はせつない。
今迄にどれほど苦渋を味わっているか分るというものだ。
「仕方が無い。俺がさっき言った通りさ。本来男は『盛りのついた猫』だからな」
ルウの『猫』という言葉を聞いたリリアーヌは大きな溜息を吐いた。
落ち込むリリアーヌを励ますようにルウは言う。
「俺は先日、ある女の子に恋のアドバイスをしたんだ」
「恋の……アドバイス?」
落ち込んだリリアーヌであったが話の内容が内容なのでまた喰い突いて来た。
良いタイミングとばかりにルウは先日のシモーヌに対してした話をリリアーヌにも伝えてやったのだ。
「ああ、その娘に共通の趣味でアプローチしてみるようにってな。ちなみに相手は俺と同じで大の甘党だった」
甘党!?
そんな男性が巷にいるのかしら?
あ、目の前に居るじゃない!
酒が好きな男性は居ても、今迄甘党の男性などリリアーヌは会った事も無かったのだ。
実はリリアーヌも大の甘党である。
「私も甘いの大好き! お酒も大好きだけど!」
勢い込んで返事をするリリアーヌにルウのアドバイスも熱を帯びて来た。
「リリアーヌの趣味は? 誰か女性の友人で同じ趣味で横の繋がりは無いのか?」
「ええと趣味は当然魔法が1番好きなんだけど……他には料理と読書ね、あ、後は演劇鑑賞かしら!」
意外にもリリアーヌは多趣味であった。
これなら共通の趣味を持つ男性などいくらでも紹介して貰えるだろう。
その中からリリアーヌ好みの誠実で女性を自分と平等に扱ってくれる男性を探せば良いのである。
「おお、凄いな! それは俺も全部好きだ! ではその友人の趣味繋がりから攻めるのが王道じゃあないか。リリアーヌと同じ趣味を持っていれば相手と話し易いし、その中から優しい男性も見付かる良策だと思うぞ」
「分かったわ! じゃあ約束ね!」
ルウの話に頷きながらリリアーヌはいきなりルウに約束をするように持ち掛けて来た。
彼女は何か企んでいるようだ。
ルウは軽く首を傾げる。
「?」
「ルウさんの言う通りにするから……ルウさんと同じ趣味を持つ友人も紹介して!」
「…………」
「貴方と私はとても幸運な事にほぼ同じ趣味を持っているじゃない?」
「…………」
「ルウさんのさっきの論理で言えば、ルウさんも含めて貴方と同じ趣味を持つ友人の方から優しい男性を探すのもベストの方法って言えない? 私はこんなにルウさんと話が合うのだから」
「…………」
「であれば、私、ルウさんが大好きだから貴方と同じ趣味と価値観を持った優しい人達と知り合いたいですもの……という事で夏季休暇中に自由お見合いのセッティング宜しくね!」
何という話の上手さ、押しの強さであろう。
その上、リリアーヌは何かを企んでいる。
彼女の真意を知るルウはつい黙り込んでしまう。
相手が一応女性の先輩教師である事もルウが反論出来ない原因である。
「…………」
無口になったルウにリリアーヌは止めを刺した。
「よ・ろ・し・く・ね! はい、ご返事は?」
ここまで来たらもうOKするしかないであろう。
ルウは苦笑いしながら例の台詞を言わざるを得なかった。
「ま、任せろ!」
「宜しい! ありがとう、ルウさん」
その瞬間であった。
ルウの頬にリリアーヌの桜色の唇がそっと触れる。
「私ってこんなだから誤解されているけど実は今迄、男性と付き合った事なんて無いの。これだってファーストキスよ! だから……名誉に思ってね」
満面の笑みを浮べるリリアーヌを見て、ルウは何とも言えない微妙な顔付きをするしかなかったのであった
ここまでお読み頂きありがとうございます!




