表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
450/1391

第450話 「娘の願い」

 昼食ながらギャロワ邸の宴はとても盛り上がった。

 財務大臣就任祝いと、ルウ&ジョゼフィーヌ夫婦の来訪によりジェラール・ギャロワ伯爵は幸福の真っ只中に居たからである。

 それは丁度、食事が終わったタイミングであった。


 ジョゼフィーヌがさっと手を挙げる。

 発言を求めての挙手であった。

 今迄笑顔でいたジョゼフィーヌの真剣な表情にジェラールは何事かと驚く。


「おお、どうしたのだ、ジョゼ!?」


 ジョゼフィーヌは父の問い掛けに答えず、きっぱりと言い放った。


「使用人の方々には申し訳ありませんが、アルノルトさんを加えた家族のみでお話したいのです。宜しければ場所はお父様の書斎にしませんか」


 毅然としたジョゼフィーヌの表情。

 これまでは感情の赴くまま、使用人に容赦なく上から目線で命令して来たジョゼフィーヌとは大違いである。

 言い方も丁寧であり、家族のみで話したいという理由も明確であったからだ。

 ジェラールは愛娘の成長に感服して使用人達に命じる


「わ、分かった! 皆、悪いのだが、ジョゼの言う通りにしてくれ」


「ありがとうございます!」


 すかさず礼を言うジョゼフィーヌ。

 ちなみにこの礼は父と使用人両方に向けられたものであった。

 両方に深く礼をした彼女にその気持ちがはっきりと表れていた。


 この屋敷に何人も居る使用人の中でもアルノルトは別格の扱いである。

 永年ギャロワ家に仕えて来たアルノルトはジェラールの身内と言っても良い。

 使用人達は皆、それを理解しているので笑顔で一礼すると、片付けの準備を始めたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ジェラール書斎……


「むう、これで身内以外は誰も話を聞く事は出来ない。これで良いのだな、ジョゼ?」


 愛娘ジョゼフィーヌの言う通りに話す場所を書斎に移したジェラール。

 同時に雑役女中メイド・オブ・オールワークスに紅茶の支度をさせ、お茶請け用の菓子を持って来させる。

 勿論、菓子店金糸雀キャネーリ特製の焼き菓子詰め合わせであり、これをお茶請けにしながら、じっくりと話をしようという趣旨だ。

 ひとくち食べてその美味さを知ったジェラール。

 彼は愛娘と同様に甘党であり、土産を持参したルウに聞いて店名をチェックしている。


「はい、では早速ですが……お父様、この事は王宮内でも厳秘に! 誰かに聞かれても知らないとお答えください」


「わ、分かった! それで一体何なのだ?」


 何度も念を押すジョゼフィーヌの話にジェラールは内容がとんと見当もつかない。

 ジョゼフィーヌは父の顔を見詰めるとゆっくりと話し出した。 


「旦那様とロドニア王国、リーリャ王女の結婚に関しての件です。夏季休暇中に旦那様がロドニアに行ってボリス王に申し入れをして了解を頂きます。その後、彼女はヴァレンタイン王国に帰化し、私達と一緒に暮らすようになります」


 ロドニアの王女リーリャが平民のルウと結婚するのに加えて、ヴァレンタイン王国に帰化する。

 これは確かに重大事であろう。

 何せ国家間レベルの話なのだ。


「な、な、何っ!? 婿殿と内々で婚約したばかりでもう結婚か? 確か時間を置いて慎重にロドニア側と調整をするのではなかったのか?」


「お父様、確かに当初はリーリャがロドニアに貢献してから彼女の結婚の了解を申し入れる予定でした。しかし私はリーリャの身近に居て、このままでは彼女がもたないと思って、差し出がましくも旦那様にお願いしたのです……早くリーリャと結婚して皆で一緒に暮らしましょうと!」


「だ、だが下手をすれば……これは国際問題になるぞ!」


 ジェラールは余りの問題の大きさに吃驚すると同時にジョゼフィーヌのルウへの申し入れが意外であった。

 いくらジョゼフィーヌとリーリャが魔法女子学園の級友として仲が良いとしても、または、ゆくゆく同じくルウの妻として団結しているとしてもである。


 生身の女として『嫉妬』という気持は湧かないのであろうか?


 そんな父の気持ちを感じ取ったかのようにジョゼフィーヌは微笑んだ。


「うふふ。 お父様……私達妻は、旦那様と同様に、お互いに庇い、守り、慈しみ、全員が幸せになるという考えを持っているのです。だからお父様が心配されているような心配は一切ありません」


 ジョゼフィーヌはきっぱりと言い放つと今回の結婚申し込みもルウには考えがあると言う。


「お父様! 詳しくはお話ししていませんが、旦那様はかつての私達と同じ様にリーリャの命と共にロドニア王国も全てお救いになったのです。ひいては私達ヴァレンタイン王国も戦争の危機から救って頂いた……お父様も旦那様の力はご存知でしょう? 私は今回も旦那様にお任せして大丈夫だと信じています」


 ジョゼフィーヌの話を補足するかのようにルウが口を開く。


「ははっ、大丈夫だ。親父さん、ボリス国王とは良く話し合って納得して貰い、必ず上手く着地させるから。ようは国王の顔が立てば良い話だと俺は思っているのさ」


「わ、分かった! 確かに婿殿やお前達を慕うリーリャ王女をこのまま捨て置く事は出来まい。だが……ジョゼ、お前は本当に変わったな」


 ジェラールは愛娘の変貌に改めて驚いて見せた。

 ジョゼフィーヌは女として、そして人として確実に『器』が大きくなっているからだ。

 しかしジョゼフィーヌはジェラールの褒め言葉にも「当然です」と返し、これからが本題だと強調する。


「もう! お父様ったら――旦那様と出会う前のジョゼは本当に子供だったのです。家族を大事にして問題を解決する為に協力し合うのは当り前の事じゃあないですか。それより早く本題に入りませんと!」


「本題……だと!? じゃあ今迄の婿殿とリーリャ王女の結婚話は?」


 このような重大な話が本題ではない? と訝しがるジェラールにジョゼフィーヌは首を横に振った。


「本題前の単なる前振り……ですわ。じゃあ、バトンタッチします。旦那様、宜しくお願いします」


「おう! じゃあ親父さん……本題と言うのは親父さんの話だぜ」


 ジョゼフィーヌから話を振られたルウであったが、いきなりジェラールに直球を投げ込んで来た。


「本題が? わ、私の!? 一体何の話だ?」


 ジェラールは未だ話が見えていないらしい。

 ルウは改めて説明する。


「ははっ、この前振りに大いに関係ある話さ。親父さん、良く考えて欲しい。もし結婚すればリーリャが俺の屋敷に来て皆で一緒に住む事になる。だが現在、彼女に仕えている使用人は基本的に連れて来ない申し合わせになっているんだ。この意味が分かるかい?」


「現在、彼女に仕えている使用人は基本的に連れて来ない……あ、ああっ!?」


 ルウがここまで説明してジェラールはやっと自分に関わりのある話だと気付いたようだ。


「分かったようだね、親父さん。ブランカさんはこの夏季休暇にリーリャと一緒にロドニアへは行くだろう。それにジョゼ達と一緒で魔法女子学園を卒業したら結婚式をやるからそれにはぜひ出席して貰うけど、今回、リーリャからは暇を出される筈なのさ」


「ひ、暇を出される!? という事は?」


「そのまま王宮に残る道もある。また王宮勤めをやめて違う生き方をする可能性もあるし、そのうちに良き結婚相手に巡り会うかもしれない」


「ええええっ!? ち、違う生き方? そして良き結婚相手だって!?」


 ブランカにもう2度と会えなくなるかもしれない……

 そして彼女は誰かと結婚してしまう。

 ジェラールは衝撃の事実に呆然としていた。


「ああ、リーリャは今迄人生をなげうって尽くしてくれたブランカさんにとても感謝している。もう自分の幸せを掴んで欲しいと言っているのさ」


「自分の幸せ……」


「そうですわ、お父様! お父様もご自分の幸せを掴んでください! もう私や亡きお母様に縛られないで!」


 ブランカに得て欲しい自分自身の幸せ……そしてジェラールにもしがらみを捨てて新たな自分の幸せを掴んで欲しい。

 ジェラールが反復した時に叫んだのは『父を縛っているのは私と亡き母』と言うジョゼフィーヌであった。


「な、何、自分の? 私の幸せ?」


「そうさ、親父さん。ジョゼの言う通りさ。最後に判断するのは親父さん自身だから無理強いは出来ないが、俺達は家族である親父さんにも幸せになって欲しいんだ……その為には今、自分には1番誰が必要なのか、自分の気持ちに素直になって考えるんだ」


 思わず聞き返すジェラールに対してルウはいつものように穏やかな眼差しを向けていたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ