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第45話 「再訓練①」

 フランが見事に額を打ち抜き、ゴブリンが呆気なく倒れると同時に……

 彼等の闘争本能に一斉に火がついた。

 

 ゴブリンの数は10匹……

 距離は15m程度離れているだろうか。

 

 状況を見たルウが、フランに指示をする。


「フラン、今度は一緒に炎弾ファイアブリッツを複数撃ち込むぞ。 慌てるな、堂々と魔法を撃て! もし外れても気にするな、俺がフォローする」


 フランは改めて、魔力を高めるべく呼び覚ます。

 ルウの手解きにより新たに覚えた呼吸法が、フランに良いリズムを生み出していた。

 

 炎の魔法を司る天の使徒の名が、畏敬を持って呼ばれると……

 使徒が撃ち出す炎の拳から生じる絶大な力の、ほんの僅かな分を自分に賜れるよう心から祈り、懇願する。

 

 これが炎弾の魔法式なのだ。


「天に御座します偉大なる使徒よ! その聖なる浄化の炎を我に与えたまえ! マルクト、カフ!」


 フランの口から鋭く迅速に魔法式が唱えられると、先程より更に神々しい橙の炎弾が放たれる。

 無防備にフランに向かって突っ込んで来たゴブリン1体が、まともに炎弾を受け、粉々に弾け飛んだ。

 どうやら魔法自体の威力も、著しく上がっているようだ。


 間を置かず、ルウの言霊が響き渡る。


火蜥蜴サラマンダー! 大地の血脈から生まれた炎の申し子よ! 我は求めるお前の力を! さあ! 聖なる炎で敵を殲滅せよ!」


 ルウの頭上に突如、大型の竜程もある巨大な火蜥蜴の精神体アストラルが現れる。

 それは確かに意思を持つ精神体であった。


 かああああああっ!

 

 精神体が凄まじい声で吼えた。

 そして口を思しき部分が開き、中の空洞が真っ赤に染まると、巨大な炎弾を次々と撃ち出したのである。

 

 それはあっという間の出来事だった。

 10体余りのゴブリンの群れは、ルウとフランに出会って3分も持たずに全滅していたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「もうルウったら、やり過ぎよ!」


「おお、そうみたいだな、はは」


 フランが叱っていたのはルウの精霊魔法がもたらした結果であった。

 火蜥蜴サラマンダーが吐いた炎弾はゴブリンごと辺りの樹木を焼き尽くしていたからである。


「すぐに消火してくれたから良かったけど」


 あわや森が火事になるところを……

 ルウが水の精霊ウンディーネを召喚し、消し止めていた。


「それで、ルウは何体倒したの?」


 ルウは珍しくばつが悪そうに笑った。

 

 ふたりはイベールから渡された魔法の腕輪を見せ合う。

 結果は、フランがゴブリン3体で3ポイント。

 ルウがやはりゴブリン7体で7ポイント……とある。


「フランの魔法は大いなる熾天使の力を行使したものか?」


「そうよ、神を冒涜する者を永久の業火で焼く御業を、ほんの少しだけ使わせて頂いたの」


「成る程、凄いな」


「何言ってるの、ルウ! あの竜のような火蜥蜴は凄過ぎるわ」


「ははは、もうあまり苛めないでくれ」


「違うわ。褒めているのよ、もう!」


 フランはそう言うと笑顔で手を差し出した。

 ルウも手を伸ばし、フランの手をしっかり握り締める。

 

 ふたりは寄り添い、更に森の奥へと足を踏み入れたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ルウは、フランへ索敵の魔法を発動するように促した。

 

 索敵の魔法とは……

 悪意を持った魔力波オーラが付近にある場合、補足していち早く危険を報せる魔法である。

 

 これも訓練の一環といえる。

 自然界において人間は基本、弱い生き物の範疇に入る。

 肉食獣のように鋭い爪や牙は無く、かと言って草食獣のように敵を察知する嗅覚や素晴らしい速度で逃げる事の出来る足も持ち合わせていない。

 よって常に敵に備えておく癖を付ける、これが森で生き残る為の第一歩なのである。 


 そう言えば……


 フランは初めてルウに会った時の事を思い出した。

 自分はあの時、残り少ない魔力を使って、索敵の魔法を発動していた。

 だが、あのおぞましい異形の者達を補足する事は出来なかった。

 でもルウは……しっかりと奴等の来襲を把握していた。

 

 フランは改めて彼に聞いてみたのである。


「簡単さ、風の精霊シルフに教えて貰っていたんだ」


「ええっ!? 風の精霊シルフに!?」


 ルウによると……

 あの異形共は人為的に造られた物であり、索敵の魔法の対策がなされていたのではないかと言う。

 あのような異形は本来なら、人に対して攻撃的な上、邪悪で独特な魔力波が放出され、補足する事は容易な筈。

 しかし放たれていた魔力波は、無害な小型草食動物のものであったらしいのだ。


「ええっ!? あの怪物から出されていた魔力波が兎のものだったの?」


 兎の魔力波……

 確かにそれでは、フランが敵として認識する事など出来ないのは当たり前である。


「悔しいわ……私の力が足りなかったばっかりに……」


 フランは、顔をそっと伏せた。

 事前に敵をしっかり察知出来れば、護衛の騎士達は死なずに済んだのに……

 

 ルウにもフランの心の慟哭が伝わってくる。


 騎士達が死んだのは、けしてフランの責任ではない。

 ルウはそう言いたかったが……

 フランには、慰めの言葉を受けぬ雰囲気があった。

 

 フランの眠っている力を覚醒させよう!

 そしてこんなに悲しまない様にさせてあげたい。

 

 ルウは改めて、そう決めたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ルウによれば今、半径1km以内に敵は居ない。

 彼にそれを告げてくれているのは、やはり風の精霊シルフである。


 フランのいまだ覚醒しない魔法の才能……

 

 彼女は自分のような全属性魔法使用者オールラウンダーではないが……

 常人よりも火と風の適性が著しく高い、複数属性魔法使用者マルチプルではないかとルウは見ていた。

 

 学園の属性の適性試験は当たらずとも遠からずで、過ちではないだろう。

 つまり、彼女には火と風の属性があるのは間違いがないのだ。

 上手く行けば精霊の大いなる加護が受けられる。

 フランも、精霊魔法を行使出来るかもしれない。 


 先程の講習に行った呼吸法では、フランは風の精霊シルフの完全なる加護を受けてはいなかった。

 風の精霊シルフの大いなる加護を受ける為には、彼女の魔力波を精霊と遥かに同調し易くしなければならない。

 

 人為的な手が加えられているとはいえ、幸いここは自然の森である。

 王都の学園キャンパスよりは、精霊の気配も抜群に濃い。

 敵も今のところ、周囲には見当たらない。


 訓練には有利な条件が揃っていた。


「フラン、さっき炎弾魔法で使った呼吸法は?」


「ええと……腹式呼吸かしら」


「よし、まず腹式呼吸をしてくれ。リラックスして来たら調息をやってみよう」


「調息?」


「ああ、閉気とも言って爺ちゃんに習った。異国の呼吸法だけどアールヴが自分達で修行する為に取り入れ、更に応用したものだ。本当は夜にやらないと効力は無いとか言われていたらしいけど、アールヴがやる分には全く問題は無かったよ」


 ルウにそう言われても、わけが分からず戸惑うフラン。 

 そんな彼女の姿を見て、ルウは穏やかに微笑むと、優しくレクチャーして行く。


「大丈夫さ、そんなに難しくない。じゃあ早速やろう、まず自分の両手を軽く握って鼻からゆっくりと息を吸ってくれ」


「こ、こうかしら?」


 フランは両手を軽く握り、大きく息を吸い込んだ。

 問題ないと、ルウは頷き、更に指示を与えてくれた。


「これで風の精霊シルフの魔力がフランの胸に留まった。息を止めて心臓が120回鳴るまで胸に留めた精霊のイメージを思い浮かべるんだ。その後、とてもゆっくりと息を吐く」


 ルウの告げた呼吸回数を聞き、フランは驚く。


「ええっ!? 120回なんて無理だわ、苦しいもの」


「最初は無理でも少しずつやってみよう。120回はあくまで目安だ。必ずそうでなくても良い。苦しくなったら呼気してくれ」


「……安心したわ。でもこれって?」


「フランは講習の時、呼吸法の訓練で風の精霊シルフの加護を受けている。この呼吸法を行なう事で風の精霊シルフとの更に深い絆を得る為の訓練さ」


「ええっ!? 風の精霊シルフと!? うん! やってみるわ!」


 精霊との絆を深める! と聞き、さすがにフランの目の色が変わっていた。

 

 ルウは再度、風の精霊シルフに対し、敵が近くに居ない事を確かめると……

 フランが懸命に呼吸するのを見守っていたのである。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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