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第443話 「身体を張った教育」

「「「只今!」」」


「お帰りなさいませ! 奥様方!」


 屋敷に帰って来たのは今日バルバトスの店「記憶メモリア」を手伝っていたオレリーとジョゼフィーヌ、そしてシンディ・ライアンを自宅に送った後に2人を馬車で店まで迎えに行ったモーラルである。

 大広間ではひと足先に戻ったルウ達がくつろいでいたが、アルフレッドに案内されてモーラル達3人が大広間に入って来ると邸内が一気に華やいだ。


「ようこそ! シモーヌ先輩!」


「歓迎致しますわ!」


 オレリーとジョゼフィーヌは学園でも結構目立つ存在だ。

 3年生のシモーヌ・カンテは直接彼女達と係わり合いが無くても何となく顔に見覚えがあった。


「あ、貴女達は!? 確か2年生首席の生徒とギャロワ伯爵の!?」


「はい! オレリー・ブランデルです」


「はい! ジョゼフィーヌ・ブランデルですわ」


 2人の挨拶を聞いたシモーヌはその『姓』を聞いて目が点になった。


「ええっ! ブランデルという姓って? まさか!?」


「はい! 私、モーラル・ブランデルを含めて6人の妻が旦那様に仕えております」


 すかさずモーラルからその『謎』の説明を受けたシモーヌは唖然とする。

 ジゼルからルウの妻として聞いていたのは校長代理のフランのみ――だが馬車を御していたモーラルに、出迎えてくれたナディア……加えてこの2人もルウ先生の妻!?

 シモーヌは思わず黙り込んでしまった。


「…………」


「ははははは! 驚いたか? シモーヌ。後、既に婚約者になった者や微妙な者も数名居る。これからも増える可能性があるからな。大所帯だ、本当に楽しいぞ!」


 ジゼルの楽しそうな声が傍らで響くが、シモーヌの頭の中は未だ纏っていない。


「…………」


 ずっと言葉を失ったシモーヌにフランも微笑みかけた。


「うふふふ、シモーヌ。この国は知っての通り、一夫多妻制を認めているじゃない。私達は皆旦那様を愛して仲良くやっているの。ジゼルの言う通り毎日が楽しいわ」


「…………」


 今迄の会話と現実についていけず、遂にシモーヌ、活動停止!

 いわゆる硬直状態になってしまう。

 その惨状を見たオレリーから良い提案があるようだ。


「フラン姉――こういう時はぁ」


「うふふ、皆で仲良くお風呂……ね」


「お・ふ・ろ!?」


 フランとオレリーの会話に反応してやっと言葉が出たシモーヌ。

 ぎこちなくシモーヌに言われた固有名詞に対してフランがきっぱりと言い放つ。


「そう、お風呂! 旦那様と一緒に全員で入るのよ」


「だ、旦那様と、って? ルルル、ルウ先生と私も一緒に?」


 シモーヌの魂にぱあっとはっきりその光景が浮かんだらしい。

 彼女は分かり易い性格なので直ぐ顔に出たようだ。

 それを受けてフランも面白そうに笑う。


「そう、当然! うふふふ」


「わああああああああ!」


 真っ赤になって大声で叫ぶシモーヌを軽く抑えてフランは指を軽く横に振った。


「な~んてね、冗談よ。もしも貴女が入るのなら、今回は私達女性陣だけで入浴するわ……いつもは旦那様も一緒なのだけど」


 ホッとして大きく息を吐くシモーヌを妻達は温かく見守っていたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ブランデル邸4階大浴場……


 カポーン!

 妻達が湯を汲むのに使った桶を床に置く音がやけに響く。


「うふふ……何か同じ光景を繰り返し見ているみたいね」


「ボク……歴史は繰り返されるって格言を改めて実感するよ」 


「フラン姉、ナディア姉、以前どこかで見たようなシチュエーションですね」


「ジョゼも確かにそう思いますわ!」


 妻達は全員身体を軽く洗って湯船に入っていたが、たった1人シモーヌだけは脱衣所に居るのである。

 何故かシモーヌは風呂に入るのを躊躇ちゅうちょしているらしい。


「ボク……思うけど、これってあの娘リーリャだから可愛げがあるのであって、たくましい彼女シモーヌじゃあなぁ」


「我々が着替える時には一緒に肌着姿になっていたし、あいつ、寮でも部員と風呂に入るから抵抗は無いと思うが……」


 ナディアが辛そうな表情で首を傾げ、ジゼルは不思議だというように呟くが、相変わらずシモーヌは浴場に入って来ないのだ。


「う~む……このままじゃあ、全員が湯でのぼせてしまうし……これ以上は我慢出来ないな……お~い、シモーヌ!」


 とうとう痺れを切らしたジゼルは脱衣場のシモーヌに呼び掛けた。


「…………」


 ジゼルの大きな声が浴場に響くがシモーヌの返事は無い……


「おい! シモーヌ!」


「…………」


 ジゼルは再度呼び掛けるが、彼女の声は虚しく湯気の中に消えて行った。

 親友の呼び掛けをスルーするシモーヌにジゼルもとうとう腹を決めたようだ。


「分かった……この私の呼び掛けに理由も無く応じないのであれば、お前の悩みを面白可笑しくこの場で彼女達に公開しよう」


「え、ええっ!?」


 さすがにジゼルのこの通告はこたえたらしい。

 返事が無かったシモーヌが驚きの声を発したのだ。

 しかしジゼルは追撃の手を緩めない。


「その上、相手にも同じ様に面白可笑しく伝えるがどうだ?」


 シモーヌの相手とは……推して知るべしである。

 彼女はもうジゼルの『脅し』に対して耐える事が出来なかった。


「だ、駄目だ! で、では仕方が無い! そちらに行けない理由を言おう! 簡単だ、ジゼルだけならともかく、お前達の体型スタイルの良さに臆して行けないのだ!」


 とうとう浴場に入れない理由を明かしたシモーヌであったが、それを聞いて気持ち良さそうに湯船に浸かっていたモーラルが一変して険しい表情になる。


「シモーヌ様……それは私に対するあてつけですか? もしそうなら考えがあります」


「これもまた……同じ展開?」「そのようですわ」


 モーラルの台詞を聞いたオレリーとジョゼフィーヌが思わず囁き合った。

 本当にまるでデジャブのような展開である。


 モーラルの体型は相変わらず幼児体型であった。

 今のシモーヌの発言はリーリャの時に引き続いてモーラルの体型コンプレックスを刺激してしまったのである。


 目が据わったモーラルの指がパチッと鳴った。

 無詠唱で『束縛』そしてひと呼吸おいて『沈黙』の魔法が発動したのである。

 

「う、うおっ!?」


 脱衣場のシモーヌが悲鳴をあげた。

 強大なモーラルの魔力波オーラを感じた他の妻達は唖然としている。


「…………」


 モーラルはそんな妻達の様子を他所に無言で湯船から勢いよく上がると、すたすたと歩いて行き、がらっと脱衣場の戸を開け放った。

 そこには束縛の魔法に縛られ、沈黙の魔法によって言葉を奪われた肌着姿のシモーヌが脱力して膝を突いている。

 その前にモーラルは一糸纏わぬ姿で立ち塞がったのだ。


「シモーヌ様……私をしっかりと見て頂きたい。貴女はその上でも先程みたいな事が平気で言えるのか?」


 モーラルはそう言うとまた指を鳴らす。

 彼女は無詠唱で発動された『消去』の魔法で沈黙の魔法の効果のみを消したのである。

 対してシモーヌは言われた通り大きく目を見開いていた。

 その視線の先にはモーラルの小柄な肢体がある。


 確かにモーラルのシルバープラチナの髪は美しく、整った顔立ちは可憐で、肌は陶磁器のように白い。

 しかし……

 彼女の母なる双丘は殆ど無く、腰のラインはくびれも無く真っ直ぐであったのだ。

 モーラルは母親のようにシモーヌを諭す。


「上を見ればきりが無く、下を見てもきりが無い。シモーヌ様、自分を卑下するのはやめなさい。自分に対する自信の無さが愛する相手に対して思いを伝えられない足枷あしかせとなっているのですよ……」


「…………」


 相変わらず返事は無いが、モーラルの言葉は確実にシモーヌのこころに沁みているようだ。

 シモーヌの表情に僅かな変化が生じたのをモーラルは見逃さなかった。

 モーラルの口元に笑みが浮かび、口調が少し優しくなる。


「もう喋れるぞ、シモーヌ様……魔法は、消去した」


「ううう……済まぬ! 済まぬ、モーラル殿!」


「まずはこの屋敷の風呂に私達と一緒に入る事がその第一歩だ……そうすれば貴女は自分を変えるきっかけを掴む事が出来る」


「わ、分かった!」


 このような場合、直情型のシモーヌの行動は極端だ。

 肌着をぱあっと脱ぎ捨てると、真っ直ぐに湯船に入ろうと突進したのである。

 その途端、モーラルの指導が入った。


「こらぁ! シモーヌ! 脱いだ服はきちんと畳む! 湯船に入る前にちゃんと身体は洗う!」


「はっ、はいっ!」


 どうやらモーラルの荒療治は功を奏したようだ。 

 シモーヌはモーラルの言う通りにして肌着を畳み直して、身体を洗い出したのである。

 彼女はモーラルの身体を張った『教育』に今迄の自分の殻を破ろうと第一歩を踏み出したのだ。


 ジゼルはそんなモーラルに改めて感謝の気持ちを持って、温かい眼差しで見詰めていたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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