第439話 「対抗戦事前打合せ①」
魔法女子学園正門、土曜日午前8時30分……
王都セントヘレナは本日も快晴であった。
7月に入り、夏に向ってだんだんと暑さも増している。
今日は約1週間後に迫ったヴァレンタイン魔法女子学園魔法武道部とロドニア王国特別チーム対抗戦の最後の打ち合せだ。
両チームのメンバー及び魔法武道部の部員は勿論の事、当日警護につく予定の王都騎士隊の担当、そして『狩場の森』の管理人であるイベール等スタッフ達も顔を揃えていた。
午前9時から約1時間で全員参加の進行に関する打ち合せを行い、30分の身支度を経て午前10時30から個別に練習を開始。
昼食を摂った後に練習を再開――午後3時に練習を終了、最後に両チームのエール交換という予定である。
関係者達は打ち合せの会場である屋内闘技場に向って行く。
ルウ、フラン、ジゼルの3人は屋敷から一緒に来た事もあって並んで歩いていた。
「おはようございます! だん! ……い、いえっ! ルウ先生!」
大きな声で挨拶をして駆け寄って来たのはリーリャだ。
相変わらず「旦那様」と言い掛けて慌てて訂正している。
その後ろからはロドニアのチーム一同がゆっくりと歩いて来ていた。
マリアナやラウラ以外はルウ達を見る目が厳しい。
これは彼女達にとってヴァレンタイン側が憎いという訳では無く、戦いの前に漲る闘志を抑えきれず、ぶつけて来ていると言ってよかろう。
それほど激しい魔力波でなのである。
「気合の入った……良い試合になりそうだ」
ルウはぽつりと呟くと、さも面白そうに微笑む。
一方――選抜メンバーの1人である魔法武道部副部長シモーヌ・カンテも学生寮を出ると屋内闘技場に向っていた。
親友のジゼルがルウと結婚する為に寮を出たので今は寮暮らしをする後輩部員達の纏め役でもあった。
そんな彼女の背後から懐かしい声が掛かる。
「よおっ! シモーヌ、久し振りだなぁ!」
「あ! ジェローム様!」
声の主はジゼルの兄、ジェローム・カルパンティエであった。
シモーヌの家であるカンテ子爵家は昔から、カルパンティエ公爵家の寄り子であり、いわば主君、家臣の間柄だ。
シモーヌはカンテ子爵家の長女として生まれ、同年齢のジゼルとは身分の差を弁えた上で幼馴染として育って来た。
シモーヌも幼い頃から魔法と武技の才能を見せた為、当時のカルパンティエ家当主、オリヴィエール・カルパンティエに、孫娘のジゼルと共に訓練して貰ったのである。
オリヴィエールの死後、ジゼルの訓練は兄ジェロームによって引き継がれたが、シモーヌは次の当主のレオナールに気兼ねする父によって訓練を受ける事を止められ、表向きの訓練の数は減って行ったのだ。
しかし勝気なシモーヌは父に隠れて密かにジェロームから訓練を受けていた。
そんなシモーヌをジェロームはジゼル同様、妹のように可愛がっていたのである。
「おおお、お久し振りです……」
口篭りながら挨拶するシモーヌ。
しかし何か様子がおかしい。
「元気そうだな! ん? 顔が真っ赤じゃないか? 風邪か?」
ジェロームが見るとシモーヌは顔を真っ赤にして俯いている。
「試合が近いからな。体調には気をつけろよ」
「…………」
ジェロームの労わりの言葉にシモーヌは顔を赧めたまま、無言で頷く。
「じゃあな!」
手を振って去って行くジェローム。
歩みを止め、彼の後姿を呆然と見送るシモーヌ。
どうやらジェロームはシモーヌの気持ちに気付いていないようだ。
「はぁ……」
ジェロームが屋内闘技場に入り、姿が視界から消えるとシモーヌの口からは大きな溜息が切なげに吐かれたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
魔法女子学園屋内闘技場午前9時……
ヴァレンタイン王国魔法武道部とロドニア特別選抜チームの対抗戦の打ち合せが始まった。
司会進行は学園の校長代理であるフランである。
「まず皆様には当日のスケジュールの確認という事で配布した書類にそれが記載されておりますのでご確認願います」
ルウがスケジュールを確認すると下記のようになっていた。
7月11日対抗戦当日スケジュール
午前7時:魔法女子学園集合
午前7時15分:同学園出発
午前8時30分~45分:狩場の森到着
午前9時00分:先発メンバー届け、発表
午前9時30分~午前11時30分:前半戦
午後12時~午後12時45分:食事休憩(後半戦メンバー入れ替え届け、確認)
午後1時~午後2時30分:後半戦
午後3時:表彰式
午後3時30分:狩場の森出発
午後5時:魔法女子学園到着、解散。
「集合時間は朝7時厳守! これはお願いします。警護担当の王都騎士隊の方はいらっしゃいますか?」
「おう!」
フランの呼び掛けに手を挙げて応えたのはジェロームである。
「ええと……騎士隊の方は当日中の全体の警備は勿論、ロドニアチームの護衛を兼ねた送迎も担当して頂きます。宿舎であるホテルから学園そして狩場の森へと……帰途もです。本日は名代の副指揮官であるジェローム様がいらっしゃっていて、当日はライアン伯爵が総指揮をされるという事で宜しいですね?」
「その通り! 人数は伯爵以下計50名出動の予定だ! ちなみに今日は5名でロドニアチームの訓練に立ち会わせて貰う」
「打ち合せ通りですね。OKです!」
ジェロームの声を聞いてまた俯くシモーヌ。
しかし傍らに居たジゼルは直ぐにシモーヌの『異変』に気付いたのである。
これは魔導拳の魔力波読みの奥義を習得しつつあるジゼルならではだ。
「シモーヌ……お前……兄上に」
「…………」
そっと問い掛けたジゼルに対してシモーヌはやはり答えない。
しかしジゼルは曖昧なままにしておけなかった。
「この打ち合せが終わったら私と相談だ、約束だぞ」
念を押すジゼルにやっと頷いたシモーヌ。
ジゼルはホッとして再度打ち合わせに集中したのであった。
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