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第435話 「幕間 ソフィアの使用人デビュー②」

 アスモデウスが来て掃除はあっという間に進んで行く。

 その時である。


「ごめ~ん!」


 息を切らして厩舎に戻って来たのはアリスであった。

 アリスは馬房掃除が辛い仕事だと分かっている。

 彼女は少しでも早くソフィアを手伝おうと思ったのであろう、馬車に馬を繋ぐと直ぐに戻って来たのである。

 アスモデウスが思わず破顔した。


「なあ、やはり俺の言った通り、良い先輩じゃないか」


「うん!」


 アスモデウスの問い掛けにソフィアも嬉しそうに頷く。

 だが厩舎に戻って来たアリスにとってアスモデウスが居るのは以外だったようだ。


「はぁはぁ……あらぁ、アスモデウス殿!? お早うございます。 まさか貴方にお手伝い頂くとはぁ……」


「ああ、おはよう。いや……俺はこの娘の保護者みたいなものだ。だから最初くらいはな……それよりちゃっちゃっとやってしまおう、アリス殿。残りの馬も一旦出してくれるか?」


「了解!」


 アリスはまた2頭の馬を厩舎の外に出した。

 先の掃除をほぼ終わらせていたソフィアとアスモデウスは空いた馬房に入って作業を続ける。

 2人が馬房に入ってから近付いて来た長身のシルエットがひとつ。

 気が付いたアリスがぺこりと頭を下げる。

 ルウであった。


「ははっ、俺も手伝おう」


「ああ、ご主人様マスター。お早うございます……うふふ、私の時と同じで優しいですね」


「いや、所詮最初だけだからな」


 ルウは厩舎に入ると掃除をしている2人に挨拶した。


「おはよう、2人とも。俺も手伝うぞ」


「え!?」「ルウ様?」


 ソフィアとアスモデウスは吃驚した。

 まさかルウが来るとは思ってみなかったからである。


「アスモデウス、残りの2頭を厩舎の外に出してくれ」


「は、はい!」


 ルウはアスモデウスから作業用のフォークを受け取るといかにも手馴れた感じで汚れた乾草をどんどん積み、まとめて外に出して行く。

 そして新しい乾草を入れてから、綺麗に馬房の床に敷き詰めたのである。


「あ!」


「俺もアールヴの里に居た時に散々、やったからな。まあ一応、コツはあるんだ。やって覚えるしかないけどな」


「は、はい! 勉強になります」


 ルウはソフィアに手順を教えながら、素早く作業を進めて行く。


 15分後――馬房の掃除は終了する。


 普通ならこのような短時間では終わらないであろうが、熟練度が違う上に、加えていつもの数倍の人数が居るせいで朝の厩舎の作業は無事完了したのだ。


 綺麗になった馬房に馬達が戻された。

 良い香りがする乾草の中で馬達は気分が良いのであろう。

 目を細めて表情が和らぎ、すっかり寛いでいた。


 馬って、やっぱり可愛い……


 馬達を見て思わずなごむソフィアだったが、いきなり袖を引っ張られた。

 袖を引っ張ったのはアリスである。


「ほら、ソフィアちゃん! これから軽くお風呂に入って市場へ買い出しよ。ご主人様マスター、アスモデウス殿、ありがとうございました。では失礼します」


 アリスはソフィアの手を引っ張り、屋敷に向かって駆け出して行く。


 その後姿をルウとアスモデウスは微笑みながら見送っている。


「ソフィアを……2度と手放すなよ」


「は、はい!」


 ぽつりと呟いたルウの言葉をこころに刻みながら、アスモデウスは深く一礼をしたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ルウ・ブランデル邸正門前、土曜日午前5時過ぎ……


「はいよう!」


 ぴしりと鞭が鳴り、馬が一歩を踏み出すとそれにつれて馬車もゆっくりと動きだした。


 あれから2人は部屋に備え付けの風呂に入り、身支度を整えると間を置かず、馬車に乗り込んだのだ。


「御者に関しては私のやり方をまずはじっくりと見てね」


 アリスはソフィアに笑顔で言う。


「は、はい!」


 アリスとソフィアが今、乗っている馬車は使用人用の馬車である。

 基本は4人乗りで結構荷物が積めるような構造だ。

 当然の事だが、2人は御者台に座っている。


 それにしても馬車の御者席って思ったより高い!

 遠くまで街の景色が見える。


 きょろきょろするソフィアを見て苦笑するアリス。

 しっかりとアリスの手綱捌きを見て勉強しなければならないのに全然上の空だからだ。


 やっぱり初めてこの街に来たら仕方がないよねぇ……

 私もモーラル様に仕事を教わりながら、街を案内された時は同じだったから。


 一方のソフィア。

 彼女はこの王都セントヘレナの街並みの美しさにすっかり驚いていたのである。


 き、綺麗な街ね。

 古めかしくレトロな建物の雰囲気と豊かな緑がマッチしていてとてもホッとする。

 私の育ったガルドルド魔法帝国の帝都はただ効率性を追求した無機質な街だったから……


 10分後――馬車は王都セントヘレナ中央市場に着いた。


「ここは!?」


「王都の市場よぉ」


 思わず声が出たソフィアに対してアリスは市場の駐車場に馬車を停めながら答えた。


「スケジュール表と付け合せしてみてねぇ」


 ソフィアが使用人のスケジュール表を取り出して見ると、確かに『別班が市場にて買い物』とある。


「この別班というのが私達。今頃お屋敷ではモーラル様とレッドさんで朝御飯を作ったりしている筈。私達は明日以降の食材を買いに来たのぉ」


「レッドさん?」


「えへ、アルフレッドさんの事よぉ。彼の愛称……貴女もいずれね」


 馬車から降り立ったアリスはソフィアの手を掴んで優しく馬車から降ろしてくれた。

 向こうから喧騒が聞こえて来る。

 どうやら市場の方かららしい。


 それを聞いたソフィアは一瞬ぶるっと震え、アリスの手を確りと握ったのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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