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第428話 「闇のオークション⑨」

「…………」


 男=悪魔ネビロスは無言で座ったままだ。

 傍らの法衣ローブ姿の男=ルウが穏やかな表情で話し掛けているので、一見なごやかな雰囲気のせいもあって周囲は注意を払わない。


「ははっ、出品リストのうち、栄光の手やこの鋼鉄の処女アイアンメイデン不死者仕様アンデッドバージョンを見た時に、もしやと思ったが……やはりな」


 ルウは独り言ちるようにネビロスに話し掛けた。

 しかしルウの束縛と沈黙の魔法が発動しているので椅子に座ったネビロスは身体を動かすどころか、言葉も発せない。

 当然の事ながら意思疎通は念話という事になった。


『わ、儂をどうする気だ?』


 ネビロスは以前に会った時に圧倒的な力を示されてルウを怖れているらしい。

 不意を衝かれた事も含めて声に怯えの気配がある。

 ルウはそんなネビロスに何かを感じたのであろうか、僅かに眉を顰めたが、素知らぬ振りをして話し掛けた。


『さてどうするか……そうだな、『お前の主』には例の妖精王オベロンの件でベリアルと共に大きな貸しがある。改めて決着をつけると伝えろよ、絶対に容赦しないとな』


 ルウの言葉はまるで『ネビロスではない誰か』に有無を言わせない強力な口調であった。

 さすがにネビロスはルウのこの『言い方』に驚いたようである。


『くうう……お、お前!? ま、まさか! 見抜いているのか!?』


『ははっ……直ぐ分かったよ。お前が本人では無い事がな。それより限定条件の発動で面白い魔法をお前に仕込んである……俺の名は知っているな? 戻ってお前の主の下で俺の名を言ってみろよ』


 偽のネビロスは狼狽した。

 ルウは束縛と沈黙の魔法以外に魔法を発動していたのだ。

 彼は震える声でルウに問う。


『貴様の名を言ったら……一体……どうなるのだ?』


『お前は全身を襲う激痛に苦しんだ後、塵も残さず消滅する事になる……不死であり未来永劫の命を持つ悪魔のお前も魂が破壊されれば復活は出来ない。……博識のお前の主人なら復讐ウルティオーの魔法は知っているだろう、悪魔殺しの魔法をな、帰ったら奴に一字一句間違えずにそう言え!』


 ルウの言葉を聞いて偽のネビロスの顔色が変わった。

 どうやら彼はネビロスの部下で、ある悪魔が主に擬態しているようである。

 ルウの言葉を聞いた偽のネビロスは思わず「信じられない」と黙って首を左右に強く振っていたのだ。


『ば、馬鹿な! たかが人間如きに我々悪魔を殺す事など不可能だ!』


『まあ信じる、信じないはお前の自由だ。自分ではなくお前の身ならば直ぐ試せと冷酷な主は言うだろう……さて俺が離れて3分経てば身体の自由と言葉が戻る、じゃあな』


『あぐぐぐ……お、おのれ!』


 偽のネビロスは怒りと恐怖にぶるぶると身体を震わせている。

 ルウは穏やかな表情のまま、踵を返すとモーラル達の席に戻って行こうとした。


「ちょっと、待て! ルンデルよぉ!」


 唸るような低い独特の声。

 いつの間にか居たフェリクスがルウを呼び止めたのだ。

 無論ルウには彼が見ており、近付いたのも分かっている。


「困るぜぃ……その爺さんと揉め事かい? いや揉め事というよりお前が一方的に脅していたようだったな……よく聞えなかったが念話のやりとりと爺さんの怒りと怯えの波動が伝わって来たからよ」


 フェリクスも只者では無い。

 内容までは分からないまでもルウとネビロスが念話をしている事を看破し、ネビロスの魔力波の傾向まで読み取ったのだ。

 だが、ルウは穏やかな表情を変えなかった。


「ははっ、さすがこのオークションの警備担当だ。だがこの会場でお前に迷惑は掛けないよ。話は済んだからな」


 ルウの笑顔と対照的にフェリクスは苦虫を噛み潰したような表情である。


「立場上、はい、そうですかとは言えねぇな。会話の内容を具体的に話して貰おうか?」


 フェリクスは職務上、追求しなければならないのだろう。

 なおも執拗にルウを問い質す。

 しかしルウの返事はつれないものであった。


「俺はこの爺さんに貸しがある……ただこの会場では決着はつけない、それだけさ」


「待てよ、この爺さんは『執着クピディタース』の大事な顧客なんだ。俺には彼を守る義務があるのでね」


「聞えなかったのか、フェリクス。だから、お前の立場も考えてこの会場では決着はつけないと言っている。同じ事を何度も言わせないで貰おうか」


「てめぇ、ルンデル! ガルムをびびらせたり、親爺にちょっと気に入られたくらいで良い気になるなよ」


 フェリクスは以前、いきなり部下のガスパルに鉄拳制裁をしたように短気である。

 また彼の父親である、闇のオークション『執着クピディタース』のオーナー、リキャルドがルウに関して褒めたか何か言ったのであろう。

 今回の事にしてもフェリクスにとっては面白く無い事だったらしい。

 ルウにその大きな自慢の拳を振り上げようとしたのだ。


緊束神鎖グレイプニル!」


「う、うおっ!? 身体がう、動かん! ば、馬鹿な! それにその魔法の名は!?」


「普通の束縛の魔法じゃお前は縛れないだろうからな。悪いが最大級の魔法を使わせて貰った。お前は元々良い奴だし、お互いに騒ぎを大きくしたくないだろう? 安心しろよ、その爺さんと同じで3分もすれば呪縛は切れる……じゃあな」


「ち、畜生!」


 ルウは笑顔のまま、今度こそきびすを返すとモーラル達の席に戻って行ったのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「さあ、今夜のオークションも残すは4つの商品となりました。ここで小休憩として、15分後に再開致します」


 進行役である、闇の競売人オークショナーオブダークネスのベルタが休憩ブレークの札を出し、客達はホッと一息ついた。

 ざわめきの中、残りの4商品のチェックをする者、目を閉じて休む者、トイレに行く者、様々である。


 ルウ達一行は全員が席に留まっていた。

 残り4品のうち、実は2品がアスモデウスとバルバトスからの出品商品なのである。


 何か、熱い視線を感じる。

 ルウが視線の方を見るとベルタがこちらをじっと見詰めていた。

 だが、彼女が見ているのはルウではない。

 視線の行き先は……何とアモンであった。

 アモンは腕組みをして明後日の方向を見ていたが、ベルタの視線に気が付いていない筈がない。

 ベルタはアモンと話をしたいようだが、オークションの規約で開催中の客との私語は禁じられているのでこのような次第となったらしい。

 アモンは相変わらずベルタと目を合わせない。

 ルウは苦笑して目を閉じると考え事に入ったのである。


 15分後――オークションは再開した。


「さあ、いよいよオークションも後半戦です。これからご案内する4つの商品はどれも稀少な逸品です。まずこちらをご覧下さい!」


 ベルタを照らす魔導ランプと違うものが商品に照らされる。

 照らされた商品は1つの中型の盾であった。

 通常の盾と違うのは盾の中央に何とおぞましい魔物の頭部が埋め込まれているのである。


 おおおおおおお!


 どよめきをあげる客達に対してベルタはまた妖艶な笑みを浮かべたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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