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第425話 「闇のオークション⑥」

「それは残念なご返事ですねぇ……ほほほほほ」


 闇のオークション『執着クピディタース』のオーナー、リキャルドは今度は男と女が同時に喋っているような声で嫌らしく笑った。


「や、野郎!」


 アスモデウスが怖ろしい顔で激高して思わず身を乗り出すがルウに制止されて何とか止まった。

 その様子を見てもリキャルドは動じない。

 ルウは穏やかな表情でリキャルドに言う。


「あんたの見込み違いさ。俺は『アッピンの赤い本』を持ってはいない」


「貴方は『アッピンの赤い本』無しでもそれだけの悪魔達を容易に従えられるというのですね……成る程、噂は本当だったのですな、大魔王の使徒よ」


 どうやらリキャルドはルウの正体を見抜いているらしい。

 しかし、そう言われたルウもメフィストフェレスに負けないくらい皮肉な笑みを浮かべて反撃したのだ。


「残念ながら俺はその噂を聞いた事がないがね、堕ちた半神よ」


 ルウがそう返すとリキャルドの目に一瞬、驚きと怒りの色が見えたがそれは直ぐに消えた。

 それどころか今迄以上の狡猾そうな笑みを浮かべ、ルウを真っ直ぐに見据えたのだ。


「ふふふ……私の最初の質問に対して嘘は仰っていないようだ。それにしてもやりますねぇ、気に入りましたよ。どうでしょう、『アッピンの赤い本』抜きで私と組みませんか? 何でしたら私と貴方、このオークションの共同経営者という形でも結構ですよ」


「共同経営者か……考えておこう」


 ルウは澄ました顔で返事をする。

 リキャルドの誘いはルウが使える男だと判断して手駒にしたいという意図であろう。

 それに加えていずれはルシフェルの恩恵に預かろうという狡猾な計算も見え見えだ。


「折角来たんだ。とりあえず全員でオークションに参加させて貰うよ」


 ルウはリキャルドに対して悪戯っぽく笑う。

 その表情を見て今迄怒り心頭で暴れ出しそうであったアスモデウス達も何とか矛を納めたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 闇のオークション『執着クピディタース』の開催会場はこの異界にある闘技場をそのまま使用したもので、最大1万人程度入れる規模の大きなものであった。

 今夜は久々の開催とあってほぼ満員の入りである。

 リキャルドの部下がルウ達を案内した席はいわゆるアリーナであり、それも進行役の競売人が立つ所から真正面であり、加えて僅かな距離しかない。

 いわゆる最高の場所であると同時に1番目立つ場所でもある。

 ルウ達一行は出品者でもあり、入札にも参加する立場であったから何か動きを見せれば他の客からは注目されるだろう。


 これもリキャルドの計算だとしたら本当に喰えない男だ。


 案内された席に座ったルウ達一行。

 入札に関しては各自の手元には参加者の証である「パドル」があり、ルウは自由に参加するように言ってある。

 但し、落札する為の金はあくまでも自腹とし、余りにも問題があるような商品の場合はルウのチェック&ストップが入るのだ。


 まずは進行役の競売人が挨拶をした。

 法衣ローブを着た痩身の女性である。

 美しい顔立ちだが、肌の色はサロンに居た女性同様、死人のように生気が無い。

 彼女がグリゴーリィ・アッシュの言っていたこのオークション会場を仕切る闇の競売人オークショナーオブダークネスであろう。


「皆様、 闇のオークション『執着クピディタース』へようこそいらっしゃいました。 私は闇の競売人オークショナーオブダークネスのベルタと申します。今夜は清々すがすがしい瘴気に満ちた、この素晴らしい会場でオークションを楽しむと同時に有意義なものを適正価格で手に入れてぜひお持ち帰り下さい」


 流暢に案内をするベルタを、腕組みをしながら見ていたアモンが呟く。


「むう、息子ともどもあの娘も雰囲気が似ている……やはりな」


 アモンの言葉の意味が分からないといった感じでアスモデウスが首を傾げた。


「な、何がだ? アモン」


 質問するアスモデウスを見たアモンが呆れたように肩を竦める。


「先程のルウ様の指摘を聞いていなかったのか? 堕ちた半神には3人の子供が居た。つまりはそういう事だ」


「わ、分からぬ!」


 そこまで言われてもアスモデウスには分からないらしい。

 ここでメフィストフェレスが話を締めにかかった。


「まあ、全体が見えて来ましたな。しかし今夜はルウ様の仰る通りにオークションを楽しみましょうや」


 ルウ達の中でそんな会話が行われてから、ベルタがおもむろにオークション開始の口火を切る。


「さあ、始めましょう。最初の商品はエントリーナンバー1番、オリハルコンのインゴッド10kgです!」


 オリハルコンは稀少な金属だ。

 非常に丈夫で軽いのでミスリルと並んで鍛冶職人達には絶大な人気を誇る。

 しかも噂では鉱床からではなく、錬金術でしか精製する事が出来ないらしい。

 出品を待っていたとばかりに黒ドヴェルグの鍛冶職人達が口笛を吹き鳴らし、喚声をあげた。


 ベルタは黒ドヴェルグの鍛冶職人達へ妖艶に微笑みながら、最低落札金額の提示をする。


「幻の金属と言われた稀少なオリハルコンの金属塊インゴッド10kgの登場です! 頑丈さは群を抜いており表面は全く錆びず、その眩い輝きは永久に続くと古の吟遊詩人が詠う程です。武器防具の製作にこれほど適した金属は東方のヒヒイロカネ以外にはありません。さて、こちらの入札金額は金貨500枚からとさせていただきます。では入札開始!」


 ※金貨1枚=1万円です。


 ベルタの声が終わらないうちに早速入札の声が響く。


「金貨500枚!」


「金貨600枚!」


「金貨800枚!」


「金貨1,000枚です!!」


 ここでひと際大きい声で入札したのはモーラルであった。


「おおっと! 可愛いシルバープラチナの髪のお嬢さんが参加したよ。さあ、どんどん場を盛り上げて頂戴」


 ベルタの口角がいかにも面白いといった感じで吊り上がり、それに合わせる様にまた金額が更新される。


「金貨1,200枚!」「金貨1,200枚!」


 おおおおおお!


 黒ドヴェルグの職人と魔族の商人から全く同時に同じ金額が告げられると会場はまた盛り上がった。


「金貨1,500枚です!!」


 その盛り上がりをずばっと断ち切るかのような凜とした声。

 それはやはりパドルを掲げたモーラルである。

 その顔はいかにも楽しげという感じだ。

 モーラルは基本、博打ばくちが嫌いであるし、物にも執着しない方である。


 何か考えがあるのであろう。


 ルウは声を張り上げる可愛い妻の横顔を優しく見詰めたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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